「輪るピングドラム」に出てくるリンゴのモチーフとEDの少女性
「輪るピングドラム」面白かったわー!
Twitter / 幾原邦彦: ご覧になる方々はきっと想像とのギャップに驚かれると思うのですが
ご覧になる方々はきっと想像とのギャップに驚かれると思うのですが、そこは「UFO見たよ!」的に喜んで頂ければ幸いです。
ほんと「UFO見たよ!」状態でした初見。わけがわからないよ!!
とはいえ物語自体はそんなに複雑ではないんですよね。あの子が、ああなって、ああなった、という導入。
一つ一つの奇っ怪な演出は、それぞれのキャラクターの心理描写だと考えていくと、面白みがにじんできます。
さすがに「生存戦略ー!」は今のところまったくわかりませんが。なぜARB! そこがいい。
「深読みする人もわけわからない人もとりあえず心はつかんだ」という意味では最高の一話目だと思いました。
で、ネタバレは避けつつちょっと気になったところをメモしていきます。
リンゴの話と、EDの話です。
●宮沢賢治のリンゴ●
ピングドラムの中で、「銀河鉄道の夜」のりんごの話が出てきます。
しかもメインキャラじゃない、どうでもいい通りすがりの小学生の会話。
シュールすぎる陽毬達兄妹の家の構造は今回は置いておくとして。
「だからさ、リンゴは宇宙そのものなんだよ。掌に居る宇宙。この世界とあっちの世界をつなぐものだよ。」
「こっちの世界?」
「カムパネルラや他の乗客が向かってる世界だよ。」
「それとリンゴに何の関係があるんだ?」
「つまりリンゴは愛による死を自ら選んだものへのご褒美でもあるんだよ。」
「でも死んだら全部おしまいじゃん」
「おしまいじゃないよ!むしろそこから始まるって賢治は言いたいんだ」
「りんご(宇宙)はそれで完結しているわけではなく、外にさらに別のものがある、それを受け取るとはどういうことか」という話。
宮沢賢治の話が出てきたのでちょっとそこを掘り下げてみましょう。
「銀河鉄道の夜」で、ジョバンニとカムパネルラが乗る列車に、三人乗り込んでくるシーンがあります。12の少女、6つの男の子、背の高い家庭教師の青年。ん、この構図ちょっと気になるけど、まあおいておきます。
青年達は船の事故で亡くなりました。その時、助かるために人を押しのけるのをやめ、譲って死んでいます。
「なにがしあわせかわからないです。ほんとうにどんなつらいことでもそれがただしいみちを進む中でのできごとなら峠の上りも下りもほんとうの幸福に近づく一あしずつですから。」
燈台守がなぐさめていました。
「ああそうです。ただいちばんのさいわいに至るためにいろいろのかなしみもみんなおぼしめしです。」
青年が祈るようにそう答えました。
同じ列車に乗っていた燈台看守がこの姉弟と青年、ジョバンニとカムパネルラにリンゴをくれます。
「ああぼくいまお母さんの夢をみていたよ、お母さんがね立派な戸棚や本のあるところに居てね、ぼくの方を見て手をだしてにこにこにこにこわらったよ。ぼくおっかさん、りんごをひろってきてあげましょうか云ったら眼がさめちゃった。ああここさっきの汽車のなかだねえ。」
「その苹果(りんご)がそこにあります。このおじいさんにいただいたのですよ。」青年が云いました。
「ありがとうおじさん。おや、かおるねえさんまだねているねえ、ぼくおこしてやろう。ねえさん。ごらん、りんごをもらったよ。おきてごらん。」
これが銀河鉄道の夜の中のりんごの描写の一部。カムパネルラとジョバンニはポケットにリンゴを入れます。
なかなか気になる部分ありますね。「ピングドラム」ではこの兄妹には父母がいません。ガムテープで名前を消しています。また水族館でも家族の団欒を見せないようにするシーンもあります。
また「ピングドラム」の家の中で、陽毬のソファやベッドだけはあばら屋なのにやたら立派で豪華です。関係あるのかどうかはわかりません。
リンゴとジョヴァンニの切符と空の孔:銀河鉄道の夜 - 壺 齋 閑 話
見田宗助は、賢治にとってリンゴは宇宙のイメージにつながっているという。つまり銀河系を含めた宇宙全体はリンゴのように丸い形をしているというのだ。だからリンゴを手にすることは、宇宙を掌のなかにつかむということになる。
これは非常に面白い話。リンゴは宇宙であり、ということはリンゴの外は別の世界、という解釈です。
生きる事と死ぬ事。「銀河鉄道の夜」は特にダイレクトにそこを描くことで、「あっちの世界」があることを表現しています。かなり曖昧な、実体としてははっきりしないものの比喩に限りなく近いですが。
「ピングドラム」のOPとEDより。リンゴが何度もモチーフとして登場していますし、特にEDは「銀河鉄道の夜」をはっきりイメージしています。
宮沢賢治は詩集でもなんどもリンゴをモチーフとして使っています。
銀河鉄道の夜(第三話二章)
つゝましき白めりやすの手袋と夜汽車をこむる苹果の蒸気と
宮沢賢治の最愛の妹トシが亡くなっていることを考えると、なんとも苹果(りんご)の表現するものの重みが出てきます。
宮沢賢治の話をそのまま置き換えることはできませんが、一話やOP・EDでここまで引っ張ってくると、リンゴについて意識しないわけにはいかなくなります。
「ピングドラム」で、「愛」が「りんご=今あるこのセカイ」だとしたら、「りんごを受け取り外側を見ること=死の向こうに新しい知らない宇宙(あるいは別の物)がある」ということになります。
これが今後絡んでくるかわからんけど演出としてはなかなか面白いフック。
これもEDなんですが、ここではリンゴをバックにリンゴを手放しているのが面白いです。これが「運命に逆らう」というテーマにつながるとしたらどうなるんでしょう。
●EDの少女達●
WEB拍手より。ありがとうございます!
いつも楽しく拝見させていただいております。
さて、幾原監督の輪るピングドラムはじまりましたね。
いろんなところでコメントされている作品ですが、
EDで描かれている少女について。
たまごまごさんがどこに食いつくか楽しみです。
BDのためにお仕事がんばってください!! by わっふる
食いつきたくなったのはここです。
成熟した女性の体でありながら、少女であるというこの情景!
子供ではないんですよね。クスクスと笑う少女達の姿が塗りこまれていることにゾクゾクしました。
にしてもあれ? なんか気になる。
もう一回本編を見なおしてみます。
陽毬たちの家。何度見てもシュールすぎて気になります。
これが単なる心象風景なのか、それとも小物に意味があるのかはさっぱりわかりません。
わかりませんがこの異物感は非常に面白い。
で、ちょっと色に注目して欲しいのです。
輪るピングドラム第01話の演出の解説 赤と青の意味 赤と青の魔女の正体推測 - karimikarimi
こちらでも語られていますが、赤、青、そして陽毬の黄色とかなり統一されてます。
緑は今後、「他者」として入り込んできそうですね。途中に出てきた他の学校の生徒です。
・・・ん?
えっ。
赤と黄色と青?
まあ確かにEDの少女達はもっと明るい色の髪の毛をしているのですが、この構図対比、まったく無関係とはどうも思えない。
じゃあ女体化なのか?と言われたらそれもちょっとわかりません。
ただ仮にこの世界がリンゴの外側、「あっちの世界」だとしたら話は別です。性別のない世界あるいは少女たちだけの世界と受け取ることもできるからです。
このカットとかすごい好きなんですよ。
縦笛と鍵盤ハーモニカ。まさに子供時代にしか手にすることのないアイテムです。
それを無邪気に楽しむ様子は、陽毬が言う「幸せ」に限りなく近くすら見えます。
なんとも不思議な情景描写。すごい閉じているようにも見えますし、どこまで拓けているようにも見えます。
第一話だけ見た感覚でこの描写を見ると、インナーな閉じた世界、へたすると近親相姦的な匂いや、遺伝子レベルの倫理を無視した多幸感に溢れている雰囲気すらあります。
ただ今の段階では一概に言えません。リンゴがもし新しい世界を開くモチーフならば、死と愛によって得られるご褒美はまったく外の世界にベクトルが向くからです。
兄二人はこの段階では少女の外の世界(クリスタル・ワールドと表記されています)についてまったく何も知らないですし、ペンギンの存在も意味不明。
ひとつだけ揺ぎ無いのは、陽毬の存在です。
本編でキラキラと輝く、まさに太陽のような妹陽毬は、EDにおいても妖艶で、かつあどけない少女として描かれています。
性から解放されたかというと、EDだけ見ると決してそんなことはないです。
無邪気に遊ぶシーンもありつつ、このように非常にセクシャルなカットもあります。むしろ性を激しく意識しているのは間違いなさそう。
赤と青の子も極めてセクシャルな少女として描かれていますが、中心軸になっているのはあくまでも陽毬(と思われる少女、またはクリスタル)。
このへんはもうちょい物語進んでから見つめ直したいです。OP見ているとどんどん新キャラも出てくるようですし。
いやはや、どこに向かうのか見当もつきませんが、少女の物語として見続ける価値は存分にありそうです。
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余談ですが、ペンギンって海外では同性愛の表現として用いられることあるんですよね。
ペンギン - Wikipedia
邪推しちゃうなあ。うん、まだわからんけど!
あと、クリスタル・ワールドの変身シーンは「変身」じゃなくて「ストリップ」でしたね。
ピクトグラムといい、シンプルにしていくことで新しい世界へ向かうということなんでしょうか。
うん、わからん!
楽しみ。
音楽と動き見ているだけで快感すぎます。ろっくおーばーじゃぱーん!