たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

白か黒か、灰色か? ドジな魔女っ娘よ、お前はそのままでいい「ロックウェル+ギャングスター」

ロックウェル+ギャングスター(1) (KCx ITAN)
最近は男性でも女性でも読める、どちらかというと女性向けマンガ増えましたね。
ITANコミックスもその一つ。一応女性向けレーベルですが男性でも食いつきたくなるいいバランス保ってます。
なんせ表紙のデザインがいい。小さい画像だとわかりませんが、書店だとこれものっすごい目立つしかっこいいしかわいい。見事な絵とデザインです。
 
そんなわけで表紙買いしたんですが、純ファンタジーものとしては非常に面白い作品でした。
手に負えないほどの落ちこぼれ魔女(というか見た目どう見ても少女)と、凶悪な魔力を持つ伝説の大勇者……という風に思われている大悪魔のドタバタ珍道中。

基本こんなノリ。楽しいです。赤ずきんチャチャとか一瞬思い出しました。
・・・なんですが、根底に眠っているテーマと、生死の感覚のアンバランスさが見事。
なるほど、ライトに見せかけることで重いテーマをさくっと読ませてくれる。
 

●ライトな「死」●

この話しに出てくるキャラで、生粋の人間はほとんどいません。
そもそもヒロインのメリッサ・ロックウェルが魔女。人間ではないです。
特徴としては。

ちょうかわいい。
とにかくまっすぐで、一生懸命。
まあ落ちこぼれで色々不器用、帯には「史上最弱の魔女っ娘」とありますが、割と真実です。
ただ、意外なほどに頑固。思いこんだら命がけ。悪く言えば猪突猛進、よく言えば一念岩をも通すような子です。
 
物語は彼女の師匠がとあることに憤り、同族狩りをしていたのを魔女たちが止めるために、伝説の大勇者シェイド・ギャングスターを召喚した、というところから始まります。
もちろん、メリッサはそんなことはつゆ知らず、巻き込まれるだけっていうね。
いきなり師匠を殺す計画に巻き込まれてもねえ。
で、「伝説の大勇者」なんて言葉自体胡散臭いことこの上なしなんですが、実際そのとおり。
勇者といえば人間ですが、彼は人間ではなくて悪魔でした。勝手に人間が盛り上がってそう名付けただけ。
 
まあ、悪魔に力を借りる魔女と、悪魔そのもののやりとりはそんな問題はないわけですが、価値観が大きく異なります。
いやちょっと違うか。魔女達も悪魔と価値観同じなんですが、メリッサだけ違います。

これはシェイドが、ほぼゾンビ状態化していた人間をキューブにしてしまった図。凶暴な相手だったのですが、わりとあっさりやっつけるくらいに強いです。
作品全体の価値観はこっちよりなんです。「死ぬ」ってことはわりとあっさり。だから結構バンバン死にます。
それがおかしいとも思わないし、それでいいんじゃねくらいです。
 
メリッサは違うんです。このキューブになった相手も「かわいそう」というし、人が死にそうになったら泣きます。
いわば人間の常識に近い感覚がメリッサ。
でもそれはこの作品とキャラの感覚の中では異端なんです。
 

●白と黒と●

メリッサの感覚と他のキャラの感覚の差は、始まってすぐ表現されます。
わかりやすいのはここ。

死のうとしている師匠に向かってメリッサが叫ぶシーンです。
言っていること極めて正しいです。人間の価値感的には。
しかし、師匠はこう返すんです。

ふーむ・・・。
結論として、師匠は死にます。それはもうあっさりと。
シェイドはそれで納得しますが、メリッサはモヤモヤを抱えたままです。
「貴女の正義」、ですか。やっぱりメリッサの感覚は異端なのか?
 
魔法物語なので、白魔法・黒魔法の区分は当然のように出てきます。
シェイドやメリッサ達、魔女・悪魔は黒魔法の力を使います。特に魔女は純血であることでその魔力を借りる力を維持します。
逆に白魔法を使う側、主に人間や聖人は神さまの力を借ります。実際に作中でも白魔法を使うキャラは登場します。
こうしてみると基本は二元論。白か黒です。
 
しかし、テーマになってくるのは「異端」
たとえばシェイドですが、彼は実は悪魔ではありますが、もとは天使でした。いわゆる堕天使。周囲と意見が違ったために堕とされました。
メリッサもまた、攻撃魔法を拒否する、人を守ろうとするなど、魔女の中では異端です。
先程も書いたように、物語は黒側か白側の両極端になって描かれます。
結構エグいシーンもあるんですよ、例えば操られるのを恐れたシスターが自殺するとか。メリッサは「異端」なのでそれをすくいますが、シスターはあっさり操られてゾンビ化します。視点は黒視点なので、ほんとあっさりです。
 
作中には、メリッサとは別ベクトルの白でも黒でもない人間?も出てきます。
彼らが使うのは「灰魔法」。グレーですね。
なんか丁度良さそうに見えるんですが、これが一番の曲者で恨みや苦しみの根源にもなっています。
 
白でも、黒でも、灰色でもだめっていうのか。じゃあどうすればいいんだよ!!

魔女の間で異端と呼ばれたメリッサ。
天界で異端と呼ばれ堕とされたシェイド。
二人は灰色ではありません。
「メリッサ、おまえはそのままでいい」
この言葉が後々、大きな意味を持つようになってきます。
 
善悪二元論ではない世界というのは本当に難しい問題で、なかなか結論の見えないもの。
たいていそれは苦悩の中で見出されるものですが、この作品は黒目線から、割とライトに読みやすくえがいているのがユニーク。
今後どういう展開でメリッサの道がひらけていくのか楽しみです。
あと、結構グロめなシーンがサラっと入るので、そのへんが増えるのも期待ー。

どうしても書影だとごちゃごちゃして見えますが、本だと模様が金色なので、オレンジや赤とバランスとれてものすごい綺麗なんですよ表紙。スタイリッシュで、かつキュート。デザイナーさんいい仕事しているなあー。