たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

人を好きになるといふこと……ちょっといびつだけどね「ちいさいおねえさん」3巻

ちいさいお姉さん (電撃コミックス EX 電撃4コマコレクション 140-1) ちいさいお姉さん 2 (電撃コミックス EX 電撃4コマコレクション 140-2) ちいさいお姉さん 3 (電撃コミックス EX 電撃4コマコレクション 140-3)
 
オレの姉さんがかわいくないわけがない。「ちいさいお姉さん」はミニコン必読。 - たまごまごごはん
積みゲーが残っているという未来の幸せ。「ちいさいお姉さん」2巻 - たまごまごごはん
 
「ちいさいお姉さん」は、マイベスト姉ベスト3に入るくらいの最高のお姉さんです。
今のところ「ヒーローマン」のホリーと「うちの姉様」と「鬼灯さん家のアネキ」がしのぎを削っていますが、「ちいさいお姉さん」は確定です。実にすばらしい姉。
名前のとおり、20超えて社会人なんだけど142cmと小さくて見た目も中身も子供っぽく、ゲームとお酒をこよなく愛するお姉さんと弟の物語です。

ああ……実に、実にかわいい。
 
二巻では「なぜ姉弟ふたり暮らしなのか」という疑問に対しての解答が出されていました。
母は他界、父は単身赴任。お姉さんは昔は精神的に荒れたことがあるという大変複雑な事情を背負っています。
しかしお姉さんの「望月さんのところはお母さんが亡くなって、お父さんも単身赴任で家を空けてるのに、姉弟で力を合わせて頑張ってて偉いわね」という生存戦略により、幸せなふたり暮らしをはじめます。主にゲームを軸に(これは掲載誌がゲーム誌だから)。
 
で。
今回はさらに外部のキャラとお父さんにスポットをあてて行くのですが、いやあ、きっついね。
ちいさいお姉さんが主人公である時点で絶対に避けられないテーマ、来ましたね。
ロリコンね。
 

●デリケートに好きして●

登場するのは主役の姉弟父親、仁の勤務する会社で勤めている(ただしお互い全く知らない)エリートサラリーマン山本寛二。
イケメンで、仕事一筋。モテるけど女の子に対してはストイック、ゲイ疑惑があがるも、たんに同年代の女性に興味がないだけ。
そんな彼の正体が、これでした。

そうか。
オレはロリコンだったのだ。
 
そうか。
 
実質彼はこの後ギャグ要員になってわらわせてくれるんですが、「ちいさいお姉さん」はこの点において猛烈に尖ったニードルを持った作品。
棘じゃないよ。針じゃないよ。ニードルだよ。
出てくるキャラほとんどにきちんと人生があって、今は幸せそうに生きているけど苦悩や悲しみや努力があって、今がある、というのをほのめかしたり描いたりする作品。
そもそもヒロインのお姉さんがそうですしね。「のんだくれのちいさいお姉さんはかわいい」という「萌え」ではあるんですが、ちゃんと理由付けをしてくる。
 
で。
山本さんのロリコンはかなりの重度でした。
すっごい罪悪感と、後ろめたさ故に、やり過ぎなくらいに自己分析を繰り返します。
ライトなロリコンだったら、ちいさいお姉さんに出会った時「うわー!かわいいー!俺好みだよ、最高ー!ひゃー!」で終われるんですが、彼にとっての後ろめたさは並大抵のことではなかったようです。
世間体を気にして、というのは当然ありそうなんですが、それだけじゃないんですよ。
 
たまたまバーで飲んでいたときに、飲んだくれていた小さいお姉さんを見つけて、視線がロックオン。他の女性と来ていたので隠していましたが、心は完全ロックオン。
でも、冷静に考えたらぜーんぜん問題ないわけですよ。だってお姉さん20超えてますし。
彼がお姉さんに恋をした。付き合いたい。はい問題ない。でしょう?
だがしかし。彼は自分の中にやましい思いがあるのに気づいているのです。

ロリコンとかそういうことは関係なく、関係なく!
これは人を好きになるという現象……初恋なのでは!
思い切り外見から入っているのが、自分から見てもアイドルに本気で恋した中学生みたいで情けないが……

モノローグです。
そう、そのとおり。
お姉さんに恋したわけじゃない。お姉さんの外見に惹かれているだけ。
残念だけどね。
そこから始まる恋があってもいいけれども、山本さんは自分が惹かれているのは少女の人間性ではなく「少女らしさ」という記号なのを分かっちゃってる。それに翻弄されて自分を見失ってしまうことも。

現実と妄想の区別ができない人間になったらイケナイ。見失うな。見失うな。
他人に迷惑をかけるような人間になるな。うん、なっちゃいけない。


彼の向かった先は、二次元美少女ゲームでした。
これ笑うところなんだけどね。
笑えないよ。
自分の持っている感情はあくまでも性癖でしかない。いだいてはいけない感情、人に迷惑をかける感覚。
表に出してはいけない。自分の部屋と胸に秘めるしかない。

オレが現実の世界で、幸せを追い求めてはいけないのだ!
それが変態! それが現代に生きる少女好きの運命!
最後の一兵卒まで一人戦い抜く!
そして変態は変態らしく、一人寂しく生き、死んでいくのだ!

もっと軽く考えられたらよかったのにね。
ロリコンは人に迷惑をかけないように、ひっそりと生きていくしか無い。決して自己主張できるものではない。
まあ確かに現時点で彼がこの状態でお姉さんに告白したとしても、それは「外見」を好んでいるだけで、本質への恋じゃない。少女的な記号性に惹かれているだけ。
なら、声をかけてはいけない。近づいてはいけない。ストーカーになってはいけない。
笑えないよ。でも笑ってあげないとかわいそうなんだ。
ロリコンの悩みは尽きないものだし解決はないのでそっと心に秘めるしかない。
今月のLOの表紙とか好きですよ。
「孤独をつぶやくな。沈黙を誇れ。」
山本さんが少しでも幸せになったらいいね。ギャグ要員でもいいけど、この作品の場合なんらかの今後が描かれそうです。
まあでも。

それはロリコンとか以前に、アウトだよ!(「日常」のみおの声で)
 

●逆転サヨナラホームラン

一方、お姉さん達のお父さんは単身赴任先でえらいことになってました。

なんと15歳のおしかけ女房。
お姉さんどころか弟よりも年下だよ!
最初は「どんな出落ちだよ!(しかもロリコン話の後に!)」と思ったのですが、いやあ丁寧に丁寧にこのへん描いてます。
そもそもこの子の祖父母(両親は他界)がなぜ許したのか、なぜ彼女が45歳子持ちの彼を選んだのかしっかり整理されているので、見ていて「それはないわ」ってならないんですよ。
無論このコマのように15歳は結婚できないので、16になってから籍を入れる、ということになるんですが、45歳の父親の方にしてみたら息子より若い少女に結婚を迫られるってのは「いやいやいやいやいや」なわけでして。
山本さんからみたらうらやましくて仕方ないこのシチュエーション。直接には接触がないのですが、はからずも噂を聞いて勇気づけられることになります。
まあ、山本さんにはそんな機会は訪れないでしょうけれども……本人が一番分かってるよね、だよね。やましい心を持ってたらそううまくはいかない。
 
父親としては、息子と娘を放置しっぱなしで仕事ばかりしている後ろめたさもあり、家族ってなんだろうなあとぼんやり考えていた時期。
その時期にまさかの、15歳妻(割と無理やり)。
どないせっちゅうねん!って話ですが、彼女がまさかの、一家のかすがいになります。

仲が悪い訳ではなかったけれども、決していいわけでもなかった一家
それが彼女の登場で瓦解するのです。
「家族でカラオケするの、夢だったんだー……」
お姉さんの他愛もない一言は、父にとってはあまりにも大きな一言でした。
死んでしまった母親はもう戻ってこない。だからそこでの夢はかなわない。
しかし今、新しい家族が動き始めました。
極めていびつだけれども、本当に新しい15歳の妻紗耶香が家族を愛し、父が子供たちと紗耶香に向き合った時何らかの答えが出るはず。
お父さん、紗耶香、山本さん、そして二巻で出て来なかったユキちゃん。
大きな弟と小さなお姉さんをめぐる人間関係は、さらに激変していきそうです。
でも大丈夫だよね。これだけ前を向いて歩いてきたお姉さんだもの。
きっとうまくいくよ。

まさかの連続二ヶ月刊行です。
2から3巻が割りと怒涛の勢いで話が進んでいて、お姉さんとゲームを軸に人の生き方がガッツンガッツン描かれているので、ぜひ読んでみて欲しい作品。
小さいお姉さん萌えな人は当然おすすめなんですが、家族のあり方や考え方に興味ある人におすすめしたい、笑いながら余韻の残りまくる作品です。
多分出てくるキャラクター達が、それぞれ本音を話せる場所と、体面を取り繕うところとを切り分けているのがポイントなんでしょうね。
「なんとかなるよ!」っていう前向きさじゃないんです。
「上手くいかないところはなんとか付き合っていこう、なんとかするためにがんばろう」という、ちょっと後ろ向きなところからスタートする考え方。楽天的ではなくむしろネガティブなんですが、外堀から埋めて地盤を固めて「家族」を作るこの考え方、好きです。
 
余談ですが、山本さん。ロリコンだったらおっぱいマウスパッドは買わない気がするんだけどどうか。