たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

あなたじゃないとだめ、ただそれだけ「星川銀座四丁目」2巻

 
「生活臭のする百合マンガがみたい」と言われたら、個人的に真っ先に薦めたいのがこの「星川銀座四丁目」です。
なんですが、ふっと迷うんですよね。
百合?
いやジャンル的には百合なんだけども、そもそも先生と生徒の恋愛物としての側面、加えて教育とはなんなのかの側面の色が強くて、性別とか割りとどうでもよくなっちゃってる部分があるからなあと。「百合の代表作です」と言うのが妙にためらわれるというか。
百合にしろBLにしろヘテロセクシャルにしろ、「あなたじゃないとだめ」というのが最大の魅力であるとしたら、その点ではばっちりおすすめな作品です。
 
簡単にあらすじをのべると、小学生(今は中学生です)の少女と、彼女を引きとって育てている先生の恋愛物語です。
本人達はしっかりと自分達の感情を「恋愛である」と認識しています。
加えて欲情もします。しますがそこは先生大人ですから、ストップをかけます。
13歳差。まあぶっちゃけ片方が大人になってしまえばそんなにでかい差じゃないんですが(18と31なら、という話しも出てきます)、相手が小学生(中学生)だとそうもいきません。
 
ここからがいいところなんですが、恋愛に関して「我慢している」わけじゃないんですよ。
湊先生は、発端として先生として守ろうという思いが強くあります。先生としてというとちょっと違うかな、もっと根本的な「守ってあげたい」の思いです。
実際先生っぽいかというとそうでもない。すっげーだらしないです。子供っぽいです。

これは少女乙女がプチ家出をしたときの湊先生の様子。
甘えん坊もいいところですね。
最初のうちは「乙女の保護者になる」という目的で引きとっていますが、完全に今は恋愛モード。依存していると言われても否定できません。乙女への恋心と家事に関しては、完全に頼り切っています。これが湊先生のかわいいところ。
 
と同時に、乙女が今育ちつつある一人の人間としての可能性を、絶対に潰さないようにしています。
学校にも塾にも行きたがらない乙女を、きちんと勉強させるために保護者としての義務を果たしています。
たとえ乙女が理不尽だと思っても、大人として最低限のことはやらせますし、逆に自由を奪うこともしません。
乙女がえっちをしたいと言ってきても、絶対になびかないのも教育の一つ。
まー我慢しているというのもあるんですが、我慢というよりも彼女の中の信念に近い気もします。
これも、湊先生のかわいいところ。乙女が18歳になったらもうメロンメロンになりそうですよ。

「乙女が頑張っていい点取ったら、特別なちゅーしてあげる」とかもうねー。
湊先生割りと天然で抜けてますが、こういうところ魔性です。
にしても、この絵を見て分かると思いますが、部屋の生活臭と、二人の汗の匂いすらしそうな空間描写は見事。女の子二人がいる空間の甘さと、「二人が生きている」ということを常にしっかりおさえています。
二巻は表紙めくったところの空間間取り図が最高によくてですね。まあ見てみてください。
 
で。
二人の甘々ラブラブ生活+教育的しっかりした部分は、一見世界が閉じているかのような錯覚に襲われます。
しかし二人は別々の時間をすごし、帰ってくると一緒にだらだら過ごす、ということの繰り返しをすることで、彼女たちの世界は全く閉じません。これは大きい。箱庭じゃないんですよね。
だからいろんな人間が入り込んできますし、ケンカもします。
けれども最終的にたどり着くのは「あなたじゃなきゃだめ」の一つ。たまたま年齢が離れていただけで。
それを浮き彫りにするのは、乙女が塾で出会った生徒と先生の関係でした。

「私は先生じゃないとダメなんです!」
「私はあなたじゃ駄目なの」
みんながうまくいくわけじゃないよね。
ただ、これは恋愛がうまくいかなかった例としてあげられているわけじゃないのが興味深いところ。先生側は乙女と湊先生の関係を見て、よくわからないイライラを感じるんです。
塾のこの先生は、あらゆる人間との距離・・・友人にしろ生徒にしろ、いろんな人との距離を保ちつつ自分を守っている人間です。心をさらけ出すということを徹底して避けています。
この生徒は、先生のことが好きで何度フラれてもアタックします。彼女は言います。
「先生、お友達と縁が薄いみたい。私みたいにつかず離れずでキープしてる。そうでしょ?」
キープかー。そうかー。
乙女と湊先生は嘘偽りを吐けません。常に全力全身全開で本音でぶつかり合います。
この先生は本音を言いませんし、面倒事を避けてぬらりくらりとキープし続けます。
この対比を見ると、なるほど乙女と湊先生の関係は、見ていて心にわだかまりを感じさせるのかもしれません。
 
「あなたじゃだめ」というのと「あなたじゃないとだめ」は反対の言葉ではありません。
「あなたじゃないとだめ」は愛の告白。「あなたじゃだめ」は拒絶ではなく可能性のキープ。
乙女と湊先生は、もう分かってます。「あなたじゃないとだめ」。
玄鉄絢作品は、「あなたじゃないとだめ」を見つけた先の、将来どうするかを見据えているのがいいなあと感じます。このまま二人おばあちゃんになっても一緒に暮らして幸せになるんじゃないかって思わせてくれるんですよね。
そう感じるのは、ファンタスティックな空間ではなくて、妙に生々しい生活臭の中で人間が暮らしている描写を欠かさないからかもしれません。
でもえっちはもうちょっと後な、乙女な。な。あんまりロリコン物くささを感じないのは、乙女の方が湊先生より大人っぽいからかしら。