たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

思ったより地縛霊も悪くないんじゃね「ハナコ@ラバトリー」

 
施川ユウキ先生原作、秋★枝先生作画というなんとも不可思議な組み合わせが化学反応を生んだマンガ「ハナコ@ラバトリー」が完結しました。
本来であればもっと読みたいところなんですが、このマンガに関しては2巻でちょうどいいなーというのが第一の感想。
そもそも「色々なトイレに出没する」というネタですしね。
こんだけ色々トイレが出たことのほうが驚きだよ! 一巻の「動物がマーキングする電柱」や、「小学生の頃小便をかけた木」までトイレのカテゴリーに入れて話を作るってのは驚いたもんです。
 
簡単に書くと、主人公の花子さんは「トイレ」というルールに縛られた地縛霊。なのでトイレのカテゴリーに入る場所ならどこにでも出ます。
残念ながら、自由に移動することはできません。一定のトイレに飛ばされたら、そこから次のトイレに行くまではランダム。
加えて花子さん、何の能力も持っていないというのがミソです。
一応都市伝説のお化けなんですもの、ちったあ驚かれるかとおもいきや、花子さん全然驚かれません。いや、最初は驚くんだけど、フレンドリーなのですぐ慣れるといいますか。
そして彼女はいろんな人の様子に出くわしつつ、スマホを持ってブログを書き続けます。
 
これだけ説明すると「いい話オムニバスなんでしょー」と言われそうなんですし、実際そう見えるんですが、このマンガのすごいところはそうじゃないところなんですよね。
第一話は「銀河鉄道の夜」と飛び降り自殺霊の話で、ちょっといい話なんです。けれども二話でネコとカラスの霊の恋愛話というどーでもいい話しになるあたり、施川ユウキ先生やるなあーという感じ。
施川ユウキ先生原作、と聞いた時点で、分かる人はわかると思います。
ちょっといい話もある。だけど人生そんなもんだよねという達観だったり、これでいいんだろうかという哲学だったりがスプーン一杯盛りこまれているのが面白いんですよ。
そう簡単に「感動した!」で終わらせてくれない。
 
個人的に好きなのは、一巻だと5話の「謎かけ」。
トイレとバスルーム一体型の空間で、お風呂に入っていた女性と花子さんとのやり取りを見ることができるんですが、この作品独特のトイレと認識できる空間にしかいられないのをうまくいかした会話劇に仕上がっています。
しかもラストな! あのラストはびっくりだよ。
読み終わった後に、感動でも笑いでもない、なんとも言えないほろ苦い感情が込み上げてくるんです
「なんだかとても滑稽で、哀しくて、ちょっとうらやましい」
花子さんのモノローグと、そのあと彼女が書いたブログが非常に味があります。
空間的にも最も動かない回なんですが、置かれているグッズ一つ一つが彼女の過去を浮き彫りにしているのも見事。見れば見るほどに味が出てきて、うーんと考えさせられてしまう回です。
花子さんはというと、やっぱり何も出来ないのです。
 
二巻で好きなのは、10話の「タイムカプセル」と14話の「ビル」。両極端ですね。
「タイムカプセル」は、大学生になった元級友たちが集まってタイムカプセルを掘り出したら「毒島さんをころしてこの一本杉にうめました」という衝撃的な紙が出てきてパニックになる話。
かなりしゃれにならない話なんですが、ここで会話ロジックを駆使してオチに転がり込むのは極めて施川ユウキ先生らしい話。
「もずくウォーキング!」を彷彿とさせてくれて、ニヤっとしてしまいました。当の花子さんは何もしてないだけってあたりなんかも、ねえ。なにもしないで黙々と考えるキャラがいてこその施川ユウキ作品。
「ビル」は逆に、逃れようのない謎と、今まで霊だったのが笑えるくらいにライトな作品だったのにそこが恐怖の対象となるホラー。しかもオチはなく謎のまま。続きが見たいとしたら、この系統の話の続きが見たいです。
 
最終回を含む幾つかの話は、いい話だったねー、というまとまりになっています。特に花子さんが「いったい自分はなんなんだろう?」と考えその結論を見つけるくだり、人生に悩んでいる人間達がトイレというリラックス空間で花子さんとだけ黙々と話して解決していくあたり、結構グッと来ます。
グッと来るのは、やはりそれ以前の「人生ままならねえなー」「まあそんなもんじゃない?」という感覚が根底にあるから。
 
花子さんは地縛霊。
つまり何らかの呪縛があるわけですが、それを感じさせないくらいに日々楽しそうなんですよ。
施川ユウキ作品全てに言えることですが、「考えること」は「楽しい」。
それを秋★枝先生の絵で描かれることによって、花子さんは常に笑顔の優しいキャラに仕上がりました。
最終回は非常に感動的でしたが、逆にこれ謎が解決しないまま花子さんが延々とトイレでブログ書き続けていて、それを誰かが見つける、なんてオチでもありなんじゃないかなーと思うくらいに花子さんの生活幸せそうです。
 
謎がころっとひっくり返るプチミステリーとして楽しめます。
そして、「結局生きてるってなんだろうね、出会うってなんだろうね」とぼんやり考えながら、今僕がこうやって書いているみたいにブログや日記に何か書くと、なんかちょっとだけ楽しくなれる作品です。
ぼくは今、「ハナコ@ラバトリー」について思ったことを綴れて、楽しいです。
何か脈絡のありそうななさそうな世の中のことを、掛け値なしに考えるのは、楽しいのよ。
花子さんのブログが面白いのは、その考えたことを極めて短い言葉でまとめているからです。
俳句か短歌の世界よねこれ。すっごい狭い空間のオムニバス。会話劇でここまで面白くなるんだもんなー。
ぜひまたこの二人のタッグの作品見てみたいです。