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死が無い世界ってどうなるか知ってる?「別にいやらしい意味じゃなくて一緒に住んでも構わないよマーガレット」

決して略さないでください『別にいやらしい意味じゃなくて一緒に住んでも構わないよマーガレット』(エキサイトレビュー) - エキサイトニュース
 
エキサイトニュース書きました。
いやあもう。長いよ。

おおまかなストーリーの流れについてはリンク先に書いたので、もうちょっとだけ。
 

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基本物語の軸はラブコメなので、そう思って読むと楽なんですが、根っこがとーにかく困惑します。
「人が死なない世界」が舞台なんですが、それが突然そうなってパニックになる、じゃないんですよ。
 
もう何百年も死なない世界が続いて、人々は順応して生きている。
これこれ。ここが面白いんです。
一巻のセリフなどの文章中には出て来ませんが、無言の生活の中に「死なないこと」によって変わった世界のあり方が描かれているんですよ。
例えば落ちたり車に跳ねられたりしても死にません。すごい極端なところだと手を切ってもすぐ生えてきます。
当然ですが、自殺も出来ません。実際試して失敗しているキャラが出てきます。
「死ぬほど殴る」なんて言いますが、この世界いくら殴っても死なない、けれども痛いんですよ。
となると、どういう法律ができるでしょう。
 
まず、殺人罪がなくなります。死なないですから。
けれども「痛い」ので、なんらかの形の「犯罪行為」は発生してきます。
ただし車と人がぶつかった場合は別。その場合はこうなります。
・人→跳ねられて痛くてもすぐ治るので問題なし。
・車→ぶつかって凹んだら修理の必要があるのでお金がかかる。
この場合、車の方が困る、という扱いになります。えええ……。でも数百年も生きてたらそういう感覚になるんかなあ。
 
精神的に傷つけられたことや諍いに関しては、さらに面倒臭いです。
「長年の揉め事が死によって解消する」ということがなくなるので、蓄積する一方。
なので「犯罪者」が何らかの形で発生してきます。
この作品中では犯罪者がどんな存在か描かれていませんが、想像だとそうだなあ……窃盗とか……もっと重罪なら強姦とか誘拐とかですかね。
死刑レベルの罪を犯した人間は、地下世界に幽閉されるという刑罰が待っています。
えっ、それやばいよ。死刑よりヤバイんと違う?
 
いかんせんこの世界、餓死もありません。
それはいいねと言いたいところですが、あくまでも「死なない」だけなので、食欲はありますし、身体はエネルギーを取らないとガス欠になります。
ってことはー、もし地下幽閉でご飯をろくに与えられなかったら、お腹限界まで減ってぶっ倒れながら生き続けるというとんでもない状態に。
ひょっとして、「秘密を知った」とかそういう理由で幽閉? うーん。
まあ、推測ですが全部。街の中はそれなりに平和ですし。
……でもなあ。わからんですよ。この世界が「幸せ」なのかと言われたら、表向きラブコメなので平和に見えるけれども。
そういう「平和」と「暗黒」を抱えた世界の秩序が描かれているんです。
 

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先程もチラッと書きましたが、これをよしとする人も多ければ、死にたいと願う人も多いです。
せめて若がえって健康になって、みんなが生きていればいいんですが、違う。
妊婦は妊婦のまま死なないし、病人は病人のまま生き続けている。老人は老人のまま何百年も。
これが幸せかと言われると正直戸惑います。
 
笑いのネタでオカマのまま永遠に生きることになってしまった男性が描かれていますが、これ結構深刻ですよ。
自分はもっと別の人生を歩みたかった、という人間にしてみたら、時に悲しみや苦痛も感じてしまうという物。
みんながみんな「今が幸せ」で、そのまま永遠にいきたいと願っているわけじゃないんです。
 
主人公のパゼは少年のまま300年近く死なないでいるので、ぱっと見ると幸せな側の部類に見えますが、どうも少年の心のまま止まっているようで300年たっても子供のような感覚を持ち続けています。
なので自分の周りの積もり積もった不幸を嘆き、苦しんでいます。
 
幸せになりたい。
 
それは長生きすることとイコールなんだろうか?
これは「尊厳死」の問題と密接に絡んできます。
 

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逆に、もう彼らは「ゾンビ」なんじゃないか、と見てみるのも面白いと思います。
生命活動はしていますし、自分の意志もあるので、正確にはゾンビではないです。
ですが、もし意識のあるゾンビが秩序を保った世界を作ったら、恐らくこのマンガみたいになります。
どうやっても死なないですからね、お互い斬り合っても死なない。
もっとも、そういう揉め事が「犯罪」として取り締まられることで混乱を防いでいるように見受けられます。
 
ゾンビって何も考えずに幸せそうに見えますが、もし思考力が残っていて立場関係が存在したらどうなるんだろう?
一生部下な人・ゾンビは、永遠に部下のまま?
それはちょっと、しんどいね。
 

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そんな世界で、血が出るでもなく腐るでもなく生命活動を停止した人間達がいます。
彼らは死の間際に「死会背」という生物を見て、食われるのですが、その描写は現時点ではありません。
それを「しあわせ」と呼ぶのはおかしな話ですが、これが死を望む人たちによって都市伝説的に名付けられたというのはなんとも皮肉。
でもね、そうよ。ネガティブにネガティブに考えれば、死なないってのは必ずしも幸せじゃない場合もあるんじゃないだろうか? という投げかけなんです。
 
ただ、「死なない」ということ、生きているということは間違いなく、幸せなんですよ。
それが人間ですから。
「死会背」を見られるようになってしまったパゼは、タイトルの通り空から落ちてきたマーガレットと「別にいやらしい意味じゃなくて一緒に住んでも構わないよ」と思ったわけで、それって幸せでしょう?
人間関係が積もるのは怖い。
けれども増えるし変わるのも人間関係。
まして、パゼだけが「死会背」を見られるなら、そこに干渉できる数少ない人間ならば、何ができる?
もちろん目をつぶって、消滅する人を無視することもできるでしょう。
けれども目の前で消滅する人間を本当に無視できるんだろうか?
仲の良い仲間が消滅するのを無視できるのか?
 
そこで、少しでもためらいが生まれるのなら、それは「生きたい」という証。
 

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現時点ではネガティブとポジティブの両方が入り交じって、どうするべきかは全くわからない状態です。
ただ、現時点ですでに「尊厳死」という重たすぎるテーマと、「生命が死なない世界」の秩序を描写しないといけないというとんでもなくヘヴィな中身になっているので、二巻以降どうするんだろう?と気になってしかたないです。
それを重苦しくイヤーな気分にさせず描いている、というのがこのマンガのユニークなところだと思います。あくまでもマーガレットのおっぱい大きいエロい!っていう軽いラブコメにしつつ、さくっと済ませているんです。
多分今後もマーガレットの存在が大きな鍵になって、パゼの運命の選択に関わってくるでしょう。でもこの不死にする霧がなんなのか、「死会背」はどこからくるのか、生きたいのか、死んだほうがいいのか、どう着地するのかわからなすぎます。
わからないはずだよ、だってそれ人間の永遠のテーマだもん。
なので、この作品がどこに着地点を持ってくるのか、この作者はどう考えるのか、非常に興味津津です。
それが100%の解答じゃなくてもいい、答えの一つとして、是非見たいのです。
 
でもぼくはおっぱいの大きなマーガレットより、おっぱいの小さなシンシア派ですね。
シンシアかわいいよ。