たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

じんるいは あきらめたんです? 『人類は衰退しました』アニメ面白かったね。

「たまごまごのココがアニメを楽しむツボ!」第9回 のんびりやわらか、衰退したわたしたちの生活『人類は衰退しました』【その1】やさしい諦念、やさしい毒舌
「たまごまごのココがアニメを楽しむツボ!」第9回 のんびりやわらか、衰退したわたしたちの生活『人類は衰退しました』【その2】衰退は悲しいことじゃない。
「たまごまごのココがアニメを楽しむツボ!」第9回 のんびりやわらか、衰退したわたしたちの生活『人類は衰退しました』【その3】 副監督 小坂春女さんに直撃インタビュー!
 
ホビージャパン記事書きました。
最終回を見る前に書いた記事(9話くらいの時点)なんですが、11・12話の「妖精さんの、ひみつのおちゃかい」は見事にまとまって、衰退を楽しむ話になっていました。
もっとも、原作読まないと理解のしづらい展開ではあるのですが、この作品のいいところは完全な理解をしなくてもちゃんと楽しめることだと思います。
ちょっと、上には書かなかった感想を追記しておきます。
 

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「このアニメってどんなアニメ?」と聞かれるとすごい困る。
一言で説明できないんですよね。
ものすごい動きに凝っているわけじゃないし、物語がダイナミックに展開するわけでもない。
むしろ逆に、衰退した旧人類(=今の人間)が、現人類(妖精さん)とゆっくりと黄昏の時を迎えているのを、コツコツと丁寧に描いている作品。
あえて言えば絵本みたいな作品かなーとは思いますが、正確ではないです。
 
絵本みたい、と言ったのはやっぱり色なんですよね。本当に形容のできない色を沢山使っている。何色っていうんだろう?

小坂副監督:「衰退している世界」をどう表現するか考えた時に「見た目はのんびりと美しい田園風景の中にとんでもない物や色が点在している。」ということで美術はインパクトのある不思議なタッチに仕上がりました。
 セルは原作のやさしい風合いを活かした淡色の色彩になり美術とセルのマッチングを考えた末「光と影をしっかり追っていく。」という表現にいきつきました。
多角形の光と影を入れることでより不思議な世界観になったかな?と思っています。

OPがわかりやすいかなーと思います。妖精さんのダンス、一番最初見た印象は怖いでしたもの。
楽しいと増える妖精さんだけど、あんな歩いたら踏むくらいに密集してたら不気味ですよ。
けれどアニメを見ていくと、あれが楽しくてしかたなく見える。
衰退、悪くないんじゃないの?って思えてしまう。
 

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でも、実はすごい悲しいことが裏にたくさん隠れているんですよね。ほんとは。
いや「悲しい」というと語弊があるのかなあ、今の人類の感覚で言うと悲しいと思われることが、あの世界では当たり前にある。
わたしちゃんのいた、人類最後の学校も廃校となり、みんなとはもう二度と会えないかもしれない。
今までできたことができなくなった、というのは山ほどあるはず。
まあYのように逆に、ロストテクノロジーを引っ張りだす人間もいますが、彼女がいるからわたしちゃんも気丈でいられる。
みんな一人ぼっちで野ざらしで死にたいわけじゃない。
ただ、受け入れざるをえない現実があり、ならばその中でどう楽しむかを必死に模索している。模索しながら衰退する文明を静かに眺めて受け入れている。
ヨコハマ買い出し紀行』はかなり趣旨が近いと思いますが、現人類である妖精さんがいることで明るくユニークに処理されているのが原作のもつ力。それを色彩と、わたしちゃんをはじめとした声優さんたちの演技で見せきったのがアニメ。
わたしちゃんをはじめとした声優さん達の力には恐れ入ります。アッパーでもダウナーでもない、黄昏の住人をホント見事に演じています。

小坂副監督:「わたし」と云うキャラクターは修行僧みたいだな……と。彼女は、周囲の人はモチロン、自分自身についても冷めた目で諦観しています。生死に関わる時でもどこか他人事なのですね。それは滅びゆく人類に共通する気質なのかもしれませんが……。

わたしちゃんの役柄はすごく演じるのが難しいと思います。表向きは口数少ないキャラなんですが、内面すごく毒舌。しかもモノローグがここまでがっちがちに入っているアニメもあんまりないでしょう。『化物語』とかくらいかしら。
中原麻衣さんの代表作が、またひとつ生まれたと思いました。いやもう、文句なしでしょう。11話とかすごすぎたよ。
 

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アニメの時系列はとてもシャッフルされているので、一旦見た後に整理しないとわからなくなるかもしれません。
でも鍵になるシーンは必ずあるので、そこまで難解ではないです。
むしろシャッフルについては、面白いこと組み替えたなーという感想です。最初にエンジン踏んで、最後に「わたしちゃん」の過去を描くことで、うまく衰退の様子が全編を通じてわかる仕組み。
人類文明喪失の悲壮感はあるかないかというと、少しあるんだけどそこがメインじゃない。最終回が特にああだったので、わたしちゃんの成長譚、とぼくは捉えました。アニメは。
世界が衰退し、ロストテクノロジーとして現実の文明があった。彼女には、たくさんのさみしさや辛さがあり、旧人類は終わりをむかえていく。しかし視野が広がり、現人類である「妖精さん」との交流ができたことで、斜に構えた視線が開けていく。今は、冷静に賢く、距離を保って、依存とかは特になく、暮らしている。
それは、今が辛いわけじゃないから。
……狂言回しのようで、実はわたしちゃんの心の変化を全体を通じて描いたんだろうなあ、と最後の二話で一気に見せつけられました。
あれ見てから一話から見ると全然見え方変わりますね。
 
個人的には巻き毛すごい好きなんです。あの子の心の闇も、成長して落ち着いていく様も。
確かに「アカン」という心理状況の巻き毛ですが、彼女は彼女なりに必死だったんだよな、もしかしたら学校を離れで別れたら今生の別れかもしれないんだよな、と考えると、幼ければ狂っても仕方ないのかなあと。
っていうかぼくが幼かったら、ちょっとあの現実受け入れるの辛いです。
成長の過程で、みんな何らかのかたちで折り合いをつけていく。巻き毛もそんな一人だったんだろうなあ。
金元さんの演技としては指折りの名キャラ・迷キャラになったと思います。
 

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ラストシーンの夢の中。
妖精さんが微笑むシーンがありますが、あの微笑んだ妖精さんこそが、わたしちゃんの現人類のイメージ。
そして、安息感。
意味不明で結局わからない妖精さんの生態は、現実なんだけど、それを解明するのは後でもいい。
 

小坂副監督:妖精さんの個体を判別するのは無理なようです。「なかたさん」と言う日系のキャラクターが登場しますがあの人(?)も厳密に同じ個体かどうかはわからない。本人だとしても以前にあったことはすぐ忘れてしまいますから、実質個体の判別は不可能なのです。妖精さんは一人一人の意思を持っていると云うより集合体の意思で行動しているように感じられ、昆虫っぽい印象を受けました。

昆虫かあー、そう言われてみるとそうかも。
田中ロミオ氏自体は、いろいろな解釈や物語を見てみたいというのを言っていて、そういう点ではアニメはうまく「意訳」された作品だと思います。
 

個人的にはこの漫画がすごい好き。意訳どころじゃない意訳、スピンオフと言ってもいいくらいですが、作者はとても喜んでいるのがあとがきでわかる衰退ワールドなんですよね。
 

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最初の話に戻ります。
このアニメなにがすごいのか。
それは世界を覆う光の表現です。
旧人類が終わりを迎えようとしているし、みんな諦念モードに入っている。もう仕方ないよね。とりあえず生きていこうか。
明日終わりが来るという恐怖ではない。むしろもう終わっている。
前を向いて力強く生きていこう!というほど元気でもない。
とりあえずその日を暮らして、なんとなく過ごす。それぞれ仕事をして、なんとなく帰ってくる。
運命に逆らえ!という勢いはありません。黄昏なんです。
 
しかし暗いわけじゃない。楽しくは暮らしています。
達観、という言葉が正しいのかわかりませんが、なんとなーく距離をおいて、直接核心にも触れず、日々過ごしています。
そして、重要な点として、この世界には現人類である妖精さんがいて、世界が破滅したわけじゃない。
明け渡しているだけだ。暗くなっちゃいけない。
 
この表現をどうするのか?
リアルに描きすぎると極めて行き詰まったところに陥りかねない部分ですが、見事にこの作品は乗り越えてみせました。
世界はちょっとだけ色あせたような色彩に覆われています。きつく鮮やかな色合はありませんが、どす黒い色合いもありません。
そんなフラットな感覚の色の中に、光がさしこみます。光は角ばった描写で描かれ、「わたし」の感覚での眩しさとして表現されています。
この世界の中に、鮮やかな色のお菓子と妖精さんが現れる。
彼らは、この世界を覆う存在で、未来のある光。
「わたし」はちょっとだけ彼らとは距離を置いてはいるものの、すべて見るとわかるように、かなり心を許しています。斜に構えているのはまあ、仕方ない。かわいい。
 
みんな達観したから平気なわけじゃない。
旧人類はやっぱり寂しいし、辛いことも多い。
でもそれを敢えて描かないで、世界がのんびりぼんやり明るく見えるように描ききったこのアニメは、やっぱりすごいと思うのです。
 

「さぶかる」回はすごかったなあ。11話の次に好きです。