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たまごまごのたまごなひとことメモ

変わらない努力と、変わろうとする努力と……男はつらいよ『高杉さん家のおべんとう』6巻

ついにレシピまで出ちゃったね久留里ちゃん!!!!
まあ、漫画自体がレシピみたいなものですが、これは出すべきだよなあ。うんうん。
高杉さん家のおべんとう」も、すっかりいい意味でメジャー漫画になって、書店展開されていて、なんだかにやにやします。
個人的に柳原望作品のモノローグや語りの使い方、コマの使い方は、昔ながらの少女漫画技術の粋を結集させている感じがして、心地良いです。
12歳の少女にお弁当を作る よ「高杉さん家のおべんとう」 - たまごまごごはん
少女と一緒に、ごはん できた!「高杉さん家のおべんとう」2巻 - たまごまごごはん
「高杉さん家のおべんとう」4巻、論理的に物事を考えていく作業と、少女が言葉に出来ない感情を伝えるということ。 - たまごまごごはん
 
さて、6巻でましたね。ついに久留里が高校生に!
小坂さんとハルの間に進展が!
もう激動すぎる、おそらく今までの巻の中でももっとも激動の一冊。
このマンガがどんなマンガなのかは上記のリンクを見てもらうとして、ちょっと6巻の雑感を書いてみます。
 

●変化を恐れないこと●

久留里は基本的に、人付き合いが苦手です。
嫌いなんじゃないんですよね。どっちかってーと、好きでも嫌いでもない、興味が無い。
ハルくんは人付き合いは好きですが、なんつーか、視野が狭すぎ+論理的思考すぎて空気が読めないタイプ。友人は多いですが、みんなに「ハルだしねー」と言われるタイプ。
ハルだしねー。
そんな二人が、会話では意思疎通が出来ないと悟ってお互い譲歩しあい、共に暮すために身につけたのが、夕食・朝食の料理とお弁当でした。
4巻くらいまでは、二人が地盤を固めるまでのコミュニケーションの初歩の物語でした。
 
おべんとうを作る=明日が来る。
これは、二人にとって大きなこと。
そこに、女子パワー全開のなつ希に、久留里が大好きで笑顔王子のイケメンマルくん、元気はつらつ園山んCなどが「仲良し」の対象として現れ、久留里の世界がひとりきりから二人の家族へ、そして友人やハルの友人を含んだもう一回り大きな世界へと広がります。
でも、まだ「クラスメイト」とかまでは、広がらない。
ハルのフィールドワークなどについてはいったので、世界観・価値観は並大抵の中学生よりは広いんですが、この物語がそもそもディスコミュニケーションな二人の主人公の物語。「外とやりとりできる」のと「コミュニケーションを深める」のは意味が違う。
ほんとうの意味で「外に向かって一人でコミュニケーションを取る」のは、久留里が高校生になったこの巻からです。
それは、久留里だけじゃなく、ハルも。
 
久留里は今まで仲良しだった4人組とは当然離れ(園山は別のクラス、マルくんは定時制、なつ希は別の学校)彼女は一人で何かしなければいけない。
友達だって、能動的に動かなければできない。
人間関係の厳しさ描写は、今回も相変わらず。
 
「久留里。我々は変わらなくてはいけないようだよ。家族といえど、人間関係ばかりは盾になってやることはできない。だからせめて、矛となるものを君に持たせようと思う」
ハルのモノローグです。
もー、すんごく正論だし、実際そうしていかなければいけないんですが、全部自分のことなんですよね。
ハルくんの説教臭さと論理重視な思考が駄々漏れなモノローグ。
いうなれば、久留里に言っていると言うよりも、自分に言い聞かせている部分が非常に大きいです。
そこが、いいところなんだな。
 
久留里は部活に入って人間関係を築こうと、自らします。
人の気を損ねた時、うまくいかないとき。
今までの久留里は、避けてきました。やめようと、離れようと。
しかし、今の久留里は言います。
「どうすればいいのかなあ」
彼女は、変わったのです。
 
その「どうすればいいのかなあ」に対して「人との関係に正解はないから、考え続けることが解答なんだよ、きっと」と正論を理路整然と語っちゃうあたりが、ハルなんだよなあ。
ほんとめんどくさいなこの人!
でもここまで読んでくると、彼の説教臭さに慣れてきたどころか、それが優しさなんだよなあとしみじみしてくるから不思議です。
こういう誠実なタイプ、案外モテるとおもう。
……あっ、もうモテてるじゃないか!?(約二名に)
 

●変わらない努力●

変化することを恐れず、前に進むことを描いた6巻。
特に久留里と小坂さん。この二人の女の子……いや、女性かな、二人は大きな変化を遂げます。
成長と言ってイイ、んじゃないかなー。あのシーンとかあのシーンは賛否両論ありそうだけど、彼女の選択だしなー。
というか、それでよかった気が、ぼくはした。うん。
 
こうなってくると、焦るのはハルですよ。
一巻で、職がなく崖っぷちな状態だった彼ですが、助教授になって教鞭もとって、安定したかのように、見えました。
ところが高校生になって大きく育った久留里、ドイツ行きが決まり大きく一歩踏み出す小坂さん。
そりゃーもう焦るよ。
このへんが、男が読んでいて「わー!」ってなるところですね。
小坂さんとはいい雰囲気でもしかしたら結婚もありうる?なんて、小坂も久留里も思っていたのに、ハルはそこを避けて通っている。
だけど二人がガンガン前に進むから、焦って焦って空回り。ひたすら回すハムスターの輪っか。
空回りはつらいね。
 
久留里も部活で忙しくなった。
仕事詰め込みすぎでハルくんもぐったり。
そこでこう言います。
「お互いとんでもなく忙しいみたいだし、夕飯とかもさ、それぞれテキトーに済ませた方が」
まあ、言うよね。気を使って言ったつもりなんですよもちろん。
しかし、久留里ははっきり言う!
「だめっ。ごはんだけはっ。あたしっ、ちゃんとごはん作るっ、からっ、ハルは、お弁当作って、よ」
彼女の明確な意思表示ってそんなにないんですが、ここは明確でした。言葉を遮って言っていました。
 
そうなんだよ。
基本この物語は「変わらない場所」としての家庭を作る物語。
変わらない場所があるから、戻ってこれるんです。
久留里も、ハルも、もちろん変わったほうがいい。どんどん新しい世界に飛び出して、経験して、ハル的に言う「矛」を身につけたほうがいい。
でもそれは、いつだって持ってないといけないものじゃないでしょう。
家庭にいるときは矛は下ろしたい。
家庭は、盾に覆われた、そして心を休めることのできる、変わらない場所であってほしい。
 
二人にとっての「変わらないもの」は、食事とお弁当でした。
この巻では、ハル、久留里、小坂、その他全員大きく変わります。
けれど、高杉さん家の食卓と、お弁当は、変わりません。
変わってはいけない、いや、変えない。
変えてはいけないものを守る努力。
それもまた、変わっていく彼らの努力同様、人の絆を作る努力です。
 
高杉さん家のおべんとう 1 高杉さん家のおべんとう 2 (MFコミックス)
高杉さん家のおべんとう 3 (MFコミックス フラッパーシリーズ) 高杉さん家のおべんとう 4 (MFコミックス フラッパーシリーズ)
高杉さん家のおべんとう 5 (フラッパー) 高杉さん家のおべんとう6 (フラッパーコミックス)
高杉さん家のおべんとうもふーっ となるHappyレシピ
高杉さん家のおべんとう」は、できればドラマ化してほしいなー。アニメでもいいけど、なんとなくドラマの方が、見てみたい。
何にしても、久留里はかわいかったです。ごちそうさまでした。