たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

風呂敷のたたみ方に定評のあるわたらい『O/A』7巻

渡会けいじ先生の『O/A』最終巻。
もうねー、どうなるかと思ったんですよ。6巻。
だって、ゆたかのラジオ聞くためにアメリカの潜水艦まで出てきちゃうんだよ。
しかもアイドルの大会では次々とライバルっぽいのもいっぱい出てくるし。
スケールでかくなりすぎだろ! どうするんだ!
 
……。
まとめたね!
すげー! 渡会けいじ先生すごいわ、なんでこれまとめちゃうの。
しかも、さいっこうの方法で。
 
O/A』は「オンエア」ではありません、「オー・エー」です。
元々は「オペレーション・オーロラ」。
スキャンダルで地に落ちてしまったアイドル堀内ゆたか。
売れない、体当たり系芸人田中はるみ
聞き分けられないくらい同じ声の二人が、一人の「堀内ゆたか」として、ラジオ番組をやる。
それが「オペレーション・オーロラ」。
どん底の底まで落ちたアイドルゆたかを、ハイテンションなはるみが支えながら、一歩ずつ前進し、ラジオ放送を着々と進めていく。そんな物語でした。
 
とまあ、この骨子だけだと、非常に地に足のついたマジメな話なんですが。
渡会けいじ先生という作家は、一コマごとの爆発力が異常すぎる。
こつこつ積み上げてきた話をたった一コマの絵で、セリフでひっくり返すなんて朝飯前。
逆に切羽詰まった時も、一コマで爆破して突破してしまう。
基本のマンガ筋は極めて緻密に積み重ねるタイプの、丁寧なものなんです。
でもそれじゃ渡会けいじ節じゃない。
ビルのあちこちに爆弾しかけて、なんかのはずみでドーン。よろけて右に行ったらドーン。みたいなもんですよ。
その爆発の一つが、先程も述べた潜水艦の話とかです。
これは極端な例だとしても、他にも爆弾だらけ。何が起きるかわかったもんじゃない。
「アイドルで毛が生えてる」発言の爆発力もすごかった……。うん、そういうの好き。
 
しかし、奇をてらっているわけじゃないんです。
この『O/A』という作品は、トップアイドルをめざすゆたか、芸人として人を笑わせたいはるみの二人の物語。
そこの軸は一切ぶれていない。
どんな物が出てこようが、あくまでもゆたかとはるみの、二人の物語なんです。
時にツライこともある。寂しいこともある。夢がわからなくなることもある。
そんな時向き合う相手がいる。同じ声の、反対の性格の、あいつがいる。
だから「オペレーション・オーロラ」はうまくいきました。
 
7巻は、最底辺から一気に駆け上がり、ゆたかがなんとドーム公演満員にするレベルまで到達します。
トップですよ。トップアイドル。
一つの目標に達したんです。
ラジオ番組の聴取率もうなぎのぼり。
しかし、この物語は「成功する」ための物語ではない。
女の子が、二人で向き合って、自分を探す物語です。
ゆたかは大成功を掴んだ。はるみはもう、いらない。
いらないのか?
 

アイドルも芸人も、同じ芸のうち。人を楽しませてナンボや。
その道に長けたもんが先に行く。
ま、それは当たり前のことや。
いくら仲良い同士でも、歩く速さに違いが出てくる。互いに環境も変わっていく。
ただ、友だちの成功と自分の現状を秤にかけたらアカンねん。
今まで身近に感じとったぶん、戸惑うのはわかるけどな。
芸能の神様は薄情や。
おのれの人生を担保に入れんモンには席すら用意してくれへん。
その上いっぺん大勝ちしたと思たら、ちょっとした気まぐれですぐおっぽり出される。
難儀なことやで。
そんな道でも楽しめるヤツが生き残っていく。
けど、ま、私が言いたいのは、自分が置いてけぼりくらったみたいで寂しい言うてるんなら、そら筋違いや。
胸張っとったらええねん。今や押しも押されもせん人気アイドル堀内ゆたかの、無二の友人として。
それともあんたは、今のメソメソした姿をゆたかちゃんに見せたいか?
ほんなら、あんたはあんたの道を歩いたらええ。

長いですが、いいセリフです。本当にいいセリフ。
このセリフを言ったのが。

チョイ役だったはずの「ろーるしゃっは」とか、思いもしないよ……。
これは二巻。元ネタがアレとアレな、ツボすぎる二人組です。ロリ26歳。
しかし、これがはるみにとっても大きな転機になるセリフなんです。
割りとストレートではあるんですが、解答ではない。決めるのはお前だ、という突き放しのセリフでもあります。
一番重要なのはそんな道でも楽しめるヤツが生き残っていくの部分だと思うんですよね。
 
6巻でこんなセリフがあります。

アスリートに限らず、人間には2種類いるわ。
常に勝ちを意識し、トップを狙い続けることを宿命づけられた人間と
負けも勝負の内であるとし、2位以下で満足する人間が。

ゆたかの(自称)ライバル、海江田ミホのセリフです。
海江田ミホがいいキャラなんだー。
最初こそ噛ませ犬臭のする、ヤラレ役っぽいキャラだったのですが、ゆたかの実力を知っていて、彼女に憧れるがゆえに、それを乗り越えようとする、もう一人の主人公です。
彼女目線で『O/A』描いたら、また面白いでしょうね。
ゆたかは7巻で、トップになってしまいました。
正確には海江田ミホがトップ、ということになっていますが、ミホ本人も「私がトップになっているわけではない」とわかっているから、ゆたかを待ち構えています。ミホの中ではゆたかがトップなんです。
ゆたかは、というと、そんなに目をぎらつかせるわけでもなく、トップになりました。
素なんです。これが彼女の努力の結果であり、才能。
そう、はるみには手が届かなかった、才能の凄み。
 

「自分はろくでもない人間だし、これを聴いてるリスナーもろくでもないのが集まってる。そういうろくでもないのが自分だけじゃないって知って元気だしてもらえたらいい」
卑屈なようだけど、そういうのって大切だなって。今、笑いが必要な人を笑わせたい。それが私がお笑いを好きになった理由だと思います。

はるみが、好きなラジオ番組に関してゆたかに言ったセリフ。
はるみは一巻から実はずっとこれを貫いていました。トップは全く狙ってないんです。
じゃあミホの言うように2位以下で満足する、という意識なのか。違う。
はるみは、目の前にいる人を笑わせたい。私はろくでなしだから。
目の前に向かい合っている、唯一無二のゆたかとやり取りをしたい。
それだけでいい。
 
トップアイドル。
二人の決裂。
頂点が見えた先で彼女たちが求めたものは、なんだったのか。
全てが見事にこの一冊にまとまっています。
この一冊を読んでから、過去の6冊を読むと、この答えに到達するために全てがつながっているのが見えてくる。
地道な生活の一つ一つもそう。
ラジオのドタバタもそう。
うんこやら下の毛やらのシモネタもそう。
潜水艦やらCIAやらの、どうすんのこれっていう巨大すぎるネタもそう。
いやほんとに。潜水艦のネタでまとめると思わなかったよ、びっくりだよ。
 
夢の向こうにあるものは。
意外とシンプルで。
でもすごく大切な物かもしれない。
 
O/A (1) (角川コミックス・エース 216-4) O/A (2) (角川コミックス・エース 216-5)
O/A (3) (角川コミックス・エース 216-6) O/A (4) (角川コミックス・エース 216-7)
O/A (5) (角川コミックス・エース 216-8) O/A (6) (カドカワコミックス・エース)
O/A (7) (カドカワコミックス・エース)
海江田ミホ派です。
 
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