たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

あるみちゃん、SF的大問題の間で大いに悩む。『あるみちゃん学習帳』

 
ロボットマンガです。
ロボット大好きなのです。大型もいいけど、やっぱり好きなのは人間型ロボット。
自律型AIを搭載したロボットの存在が人間にとってどうなるのか、ロボットはどう感じるのか、ものっすごく興味あります。
それはロボット・アンドロイドという動く人形が想像された時からの人類の疑問です。
21世紀に入ってロボット工学は信じられないくらい絶賛進化中。日進月歩なロボットの世界です。
でも、体よりなにより、自律学習型AI、ようは脳みそが、最大の壁のままのようです。
 
『あるみちゃん学習帳』はコメディ。究極超人あ〜るとかに近いノリで、ドタバタとロボットのあるみちゃんと、それを作った兄をめぐるギャグマンガです。
ええ、そうです。ジャンル分けするなら間違い無くギャグマンガ
なんですが、このマンガ何点かにおいて、人造人間のあり方と、それを通じて人間のあり方を描いているからすごい。
 
1・元々は自分がアンドロイドだと知らなかったあるみ
かなり特異な点、というかSFだと最後のオチに出てくるくらいのどでかい仕込みです。
あるみは元々兄と一緒に暮らす、両親を亡くした妹として生活していました。学校にも通いますし、誰一人として彼女のことを疑ったことがありません。
そして彼女自身、自分はまごうかたなき人間で、妹である、と思って生きていました。
ある日、彼女がロボットであると告げられるわけですが、こりゃ大事件ですよ。
元々アンドロイドだと認識しているキャラクターが、人間だと思い込むのなら、まだわかります。
いわば、突然自分がある日親族に「お前はロボットだったんだ」といわれるようなもんです。信じられるわけがない。
だって過去の思い出あるよ!といっても、それがインプットされたものだったら……?
かるくホラーですね。
 
その後、あるみちゃんが意識してしまうというのがミソです。
行動に明らかに出ちゃうんです。それまで気にもとめていなかったこと一つ一つが気になって仕方ない。
この「自分のことが気になって仕方ない」感覚って、非常に思春期的。
思春期の少年少女が、「自分は○○だから」と自意識過剰になって考えすぎて、うまく人と接することができなくなるのによく似た行動として描かれます。
逆に言えば、だからこそだれも、あるみがロボットだと気づかないってのがウマイ。
 
2・この世界におけるロボットのあり方
あるみのスペックだけ見ると、とんでもなく優秀なのですよ。
見た目はどこからどう見ても普通の人間。ご飯を食べてエネルギーに変え、不要物を人間同様排泄する。
稼動時の熱は発汗で冷やすので、不自然さが全くないというそっくりっぷり。
感情も、喜び、悲しみ、怒り、恋をし、人間と寸分違いません。
そこに加えて、機械ならではの頑丈さ、パワー、疲労しらずといった利点を持ち合わせています。
これ、どう考えてもあるみの方が人間よりスペック高いよね?
 
そこなんです。あるみは「96%」人間に似ているロボットだそうです。
しかし、この世界には70%以上人間に酷似させてはいけないという「ロボット法」が存在しています。
そのため、あるみ以外のロボットは極めて人間的ではありますが、感情はありませんし、見た目も明らかにロボットなのがはっきりしています。
 
この世界はロボットの技術が急成長しており、ごく当たり前の労働力になっています。家政婦から娯楽用まで、様々なロボットが人間の代わりに大活躍。
しかしロボットが急激に増えたことで職を奪われた人間も増え、そこからロボットに対する激しい差別意識が生まれています。
このへんかなり丁寧にSFしているんです。
社会問題になるほどロボットの存在が人間社会のバランスを崩しているからこその、ロボット法。あるみはいわば、脱法ロボットなわけです。
 
あるみは自分がロボットであることを知ってしまったので、なおさら人に言えなくなります。
言ったら脱法なのもバレるし、差別もされるかもしれない。恐ろしいことです。
だからこそのコメディなんですが、描かれるテーマはよく見ると重たいです。
 
3・ロボットに対して人間はどのような意識を持てるのか
お兄ちゃんはマッドサイエンティストとして描かれていますが、かなりいい精神、いわば作者のロボットに対する意識の代弁者的な立ち位置にいます。
社会ではロボットを差別する人も稀にいますが、そうじゃなくてもやっぱり「道具」扱いなんです。
例えば洗濯機や掃除機に挨拶する人がいないのと同じように。まあそりゃそうだわな。
兄は違います。彼は妹のあるみが、ロボットとして一人で人間社会で生きていけるかどうかを非常に心配し、常に考えています。
やってることは無茶苦茶だし、ひどいことが多く確かにマッドサイエンティストなんですが、兄というより「親」です。
 
あるみが好きになった少年御堂くんが途中で出てくるのですが、あるみはめちゃくちゃ悩むわけですよ。
自分がロボットだとばれたら脱法だからまずいってのもあるけれども、差別されるんじゃないか、拒絶されるんじゃないか、そもそもロボットが人間と付き合えるのか、付き合ってどうするというのか。
さきほど「96%」酷似している、とありましたが、残り4%ってなんだろうと思ったら、ここなんですよ。
ロボットは妊娠できない。年を取らない。
どんなに似ていても、ここは似せることができません。
好きな男の子がいたら、手をつないで、キスをして、その後は……というのは誰もが考えること。
でもロボットにはそれ以上の権利がない。これは残酷です。
 
御堂くんとあるみがどうなるかは、一巻できちんと描かれているので読んでみてください。
御堂くんがまたいいキャラで、女の子から見た少年像そのもので非常にさわやかな好青年なんですが、なにげに下心持ちなのがちゃんと描かれているのがいい。好感持てます。
あるみと御堂くんがどうなるかが、ロボットと人間の共存というテーマの一つの描写になっていくと思いますが、やはり物語のキモはお兄ちゃんじゃないかな、と僕は思っています。
ロボットも人間も、自分で考え行動できるなら何ら変わらない、という彼の考え方。一概に「そうだよね」とはいえない部分なんですが、人情味としてはすごくわかるし、考えたい部分です。
ただそうなってくると、ロボット法がどう動くかも重要になってくるかもしれません。ロボット法がある限りロボットは「道具」ですし、そこからあるみのようなロボットを認めるには、ロボットの権利についてまじめに考えないといけない。
すっごいライトな作品でゲラゲラ笑いながら読めますが、裏に眠る社会問題とあるみの将来の問題は、かなり複雑な物語になっています。
 
 
読んでいると、確かにあるみはロボットとして苦戦するのが楽しいんですが。
でもさあ。

こんなかわいい子なら、もうどっちでもいいよ!
ほんと金田一蓮十郎先生の描く女の子は……ヤバい……。
ロボットだって、いいじゃない。
 
いや待てよ。
「ロボットだからいい」かもしれない。
なるほど……一理ある。
 
あるみちゃんの学習帳 1 (ヤングジャンプコミックス)