たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

幸運と強引さは紙一重だっつってんだろコノヤロウ!『とべっ!!ラック☆ロック☆ガール』

 
顔力ある表紙で思わず買っちゃった。
そして、期待をしたわけです。
これは相当ロックな女の子が出てきて、暴れたり騒いだりするんだろうなと。
こんな女の子が騒ぐんならロックだぜ!
と、思ってました。はい。
 
全然違うじゃないか!
いや、この女の子は騒ぎますよ確かに! めちゃくちゃかましますが!
でも、音楽的要素は皆無!
まあ一応ギター持ってますし、一応バンドを組むので「皆無」ではないんですが、それ音楽じゃなくてもいいよね?と突っ込んでしまいたくなるようなはちゃめちゃさ。
具体的に言うと、アンプをつないでいないエレキギターを女子高生がかき鳴らすと、ものすごい音が響き渡り、信号が全部青になり、自販機からジュースが2本出てき、茶柱が立ち、クララが立ち、モザイクが取れます。
すまん。わからん。
ただ勢いはわかった。
 
音楽漫画というと弊害がありそうなので、あえて言い換えるなら「幸運」と「不幸」のマンガ、と書いておきます。
主人公はもともと学生時代にバンドをやっていたケン。現在29歳。独身。仕事は派遣の土方。特徴は「不幸」
何をやってもうまくいかない、アンラッキーの塊みたいな人間です。
学祭の前には怪我をするし、家が火事になるし、母は家出するし、飯を食えば髪の毛が入ってるし、割り箸を割ればうまく割れないし、コンビニでカップ麺にお湯を入れようとしたらお湯が足りないくらい不幸です。
それは……それは不幸だな。
ある日、公園で昼食を食べようとしていたところ、ギター背負って寝ていた少女の音々(ねおん)に出会います。
当然見たことも会ったこともないはずの彼女、なぜかケンが中学時代に作った歌を知っていて、その声を覚えている。
どういうことだ? と確認する暇もなく、気がつけば飛行機に乗って一路アメリカへ。
アメリカ?!
そこでなんやかんやで、とある国のテロリストのフリンジー、広大な大地に住む二面性ドSお嬢様のメアリを仲間に加え、凸凹バンドを組むことになります。
 
あらすじを書いているはずなんですが、正直書いていても理解できない。
なんでアメリカ?! どういう組み合わせのバンド?! ケンやりたがってないよ?!
 
そこがこのマンガの、ジョークでくるんだ狂気だったりします。
ケンが徹底した「不幸」の持ち主だとしたら、音々が狂ったような「幸運」の持ち主なんです。
ケンがいつも「オレついてないし」と不幸を背負った顔をし、実際不幸になるのと対極。
基本何も考えてない。「ワタシ幸運デス!」と言い切ってしまう音々は「思うようにうまくいく!」と信じきった顔で前にガリガリ進みます。
その前進力が、本当に幸運を引っ張ってきちゃうんです。
ドラマチックな形でではないです。どっちかというと「そうなっちゃうのー!?」的な腰砕けな方向です。
 
友情とか努力とか正義とか勝利とか一切なし。
音々が「こうしたい!」というのにケンが振り回され、不幸と幸運が入り混じるマンガです。
面白いのは、音々の「幸運」の描写。
彼女、全然練習とか努力の跡を見せません。見えません。
これが「練習しなくてもなんでもできる天才」なのか、「実は裏で練習しまくった結果」なのかが全然わからない。
冗談みたいな幸運もありますが、どうにも彼女の引っ張ってくる「幸運」って、彼女が強引に物事を進めるから周りが吸い込まれている「だけ」にも見えるんですよ。
 
ケンの不幸は、間違いなく不幸です。
もっとも、不幸だ不幸だと思えば、不幸は増えるもの。思考のパターンでなんでも不幸に見えてしまう。
音々は恵まれた家庭に育ったようですが、それが一切描かれません。どうも音楽業界からお声もかかりまくってるようですが、それも描かれません。蹴ってるようです。ピンとこなくて。
ただ、彼女は「ピンとくること」「やりたいこと」を探して、思いのままにうろつきまわっていた所でケンを見つけ、彼を強引に引っ張りまわしてアメリカに向かってしまう。
どんな困難でも、困難と考えない超絶ポジティブな性格。
これ「幸運」なんじゃなくて「強引に運を呼び寄せている」んではなかろうか。
こりゃー、ロックな子だぜ。
 
女子高生の音々は本当にひっちゃかめっちゃかな、三白眼百面相少女です。
演奏シーンの迫力は確かにあるけど、実際にアンプをつないで演奏しているシーンはないです。
つまり「気迫だけ」。
その気迫がさいっこうに気持ちいい。
女子高生ということでお色気も期待したんですが、スポンピーン!と全裸になるもののちっともエロくない。
だよねー。どっちかっていうとレッチリっぽかった。
「音楽漫画」ではなく「強引に運を切り開くめちゃくちゃな少女」のマンガとして、ほんと面白いです。
 
見方によっては「強引に(略」ではなく「音楽と強引な思想によって生まれる集団催眠状態」の物語、とも読めるのですが、それはこの後どうなるか次第。ぼくこういう女の子にホイホイ付いて行ってひどい目にあうタイプだわ。