たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

恋をしている女性はかわいい、と思っている男性はかわいい。『犬神様にくちづけ』

犬神姫にくちづけ 1巻 (ビームコミックス) 犬神姫にくちづけ 2巻 (ビームコミックス)
 
宮田紘次先生の絵を見ると、すっごく、エンターブレインだなー、という気分になります。なんとなく。
 
「犬神姫」とかいて「わんこ」と読む。
この『犬神姫にくちづけ』が、ときめくんだなー。大人のための純エンタテイメントときめき。
表紙だけ見たら、オフィスラブストーリーのマンガにしか見えませんが、……あ、オフィスラブストーリーです。
オフィスラブ? いやオフィスラブだよな、あれ?
 
ちょっと設定がややこしいくらいで、ストーリーは極めてシンプル。
物語はOLヒロインかずら視点で進みます。処女です。
かずらはラッキー清掃で働いています。普段はほんとただのOL。
ラッキー清掃の中でも、特殊汚染処理課という彼女の部署、普段はぐうたらですが、その実態は、特殊な事情で汚染された物件を浄化する……ようは除霊専門部署。
かずら自体はまーったく何の霊能力も持っていません。
ただし、犬養課長が彼女にキスをすると、犬神の弁天号が彼女の体に降りて、ほぼ無敵といっていいくらいの強烈なパワーを発揮します。
ただし5分だけ。
霊の集まる場所にいったら、まずはメンバーで駆除。とどめを弁天号になったかずらが刺す、という仕組みです。
 
いわゆる「依り代・依巫」の話。かずらは霊を体に宿しやすい体質なんです。
と、ここはよくある妖怪退治もののフォーマットを踏んでいるので、するする読めます。
いろんな霊能力者が、それぞれテクニックを駆使し、トドメにかずらがキスして暴れる様子は、極めて爽快。
 
で、こっからですよ。
彼女が成人女性でOLってのがいいですね。
彼女に犬神が憑くと、犬娘状態になるんですが、それが大人の、でも素朴な女性なわけですよ。
羞恥心もあるし、真面目だし、大人な恋にも憧れる。
心はかなり少女的だけど、体は非常に育っていて大人らしい。
そんな女性が犬の姿で飛び回る、ってのは、これはそそります。そそります。
特に宮田先生が女性の肉感を、筋肉と柔らかさ両立させる方なので、彼女の動物的な動きがどうしようもなくエロティック。
 
あと、もう一つのポイントは処女だ、ということ。
これは依り代になること、仮にも巫女であることを守る最低条件です。
加えてかずらは男性とお付き合いしたことがない。
そんな状態でキスされるもんだから、大人なのに少女のように赤面して悶えちゃう。
正直、毎回変身するたびにキスするんだから、いい加減赤面しなくてもいいでしょ!とは思うよ。
思うけど、どうも彼女がそこまでうぶなねんねなところが犬神に気に入られているらしく、ある意味彼女がここで働いているのは必然なのです、というお話。
 
表紙を見てわかるように、上司の犬養課長がこれまたいい男でして。
女性の中のピュアなところをくすぐって、手のひらの上で転がすタイプなわけですよ。
でもそれでいて、ジゴロではない。ものっすごい紳士で、女性に手を出すようなことはしないし、女性のために身を呈して守ります。
仕事の上では、性欲オフスイッチ入れられるんじゃないかってくらいの紳士っぷり。
男でも濡れるくらいにイカしてる。
そりゃー、惚れるよ。かずらさん惚れちゃいますよ。
 
かずら視点で物語は進むので、犬養課長は毎回かっこよく描かれます。
これは恋です。恋の目線です。
恋をしたOLのピュア女性が赤面しながらキスをして犬になる。
そういうマンガです。もうこの一点で楽しめます。
 
ストーリーはもうここに集中していて、あとは能力バトルの面白みでできているので、本当に読みやすいです。
展開は少年漫画、ヒロインは少女漫画、男性役は女性誌、というミクスチャーみたいな作品なんです。
恋愛と退魔の話がテンポよく進むのですが、出てくるメンツがほぼみんなかずらの気持ちを知っている(犬養課長に惚れている)というのに気づいて、気を利かせる展開が、もうねー。
大人のウブ恋愛はいいねー。
 
で、最初は「犬養課長にまたもてあそばれちゃった、悔しいでも感じちゃう好きビクンビクン」みたいな方向性なんだと思ってましたし、実際そうです。
ですが、どうも二巻入って読み直すと、違う。あれ?
 
実はこれ、「恋する女性をかわいいなあと思って見ている男性」視点で描かれているんじゃないか?
一人称は「恋する女性視点」なんですが、彼女の行動が逐一かわいいので、それを見守っている犬養課長の視点に読者が流されている。
そして、実際かずらにいたずらしたり、彼女を守ったりする犬養課長、めちゃくちゃかずらのことよく見てるんです。
割りとクールで落ち着きのある男性なんですが、かずらのことはとても注目している。嫉妬しているように見えるシーンすらある。
どうも、少女漫画の憧れの男性とは、ちょっと違う。
そうして見ていると、かずらもかわいいんですが、かずらをよく見てかっこつけている犬養課長がかわいく見えるんです。
 
このマンガ、「完璧な男性になって恋する女性を守りつつかっこつけたい」願望をすごい満たしてくれます。
かずら視点で読んで共感していたはずが、あんまりにもうぶすぎるかずらと、完璧ながらかわいげのある犬養課長が逆転して、課長視点で「かずらは本当にかわいいやつだなフフ」と言いたくなるんですよ。
この組み上げ方はうまいなあ。
かずらがかわいいのは、犬養課長が可愛いと思って見ているから、だと考えたら、犬養課長すっげえかわいくないですか。
 
雪山遭難、おしっこ我慢、湖のダイビング、温泉と、フェティッシュなシーンも満載。
とにかくかずらの肉体がきれいで、かつかずらが田舎臭くて、ものっすごい少女っぽい心の持ち主という「パーフェクト守ってあげたいヒロイン」なので、どうしてもニヤニヤしてしまいます。
こりゃ、かっこつけたくもなるってもんです。キザなことをしてみたいもんです。
キザなことして、ビシっと決まるようになってみてえもんだなあ。
 
犬娘は未発達な身体の少女に限るでしょ!、と思っていましたが、大人の女性も、イイ!
特に脚がいい。
ふたりとも本当にピュアなので、安心して読めるオフィスラブストーリーです。
大事な点として、かずらは眉毛が太いです。
太眉赤面は……ずるい!