たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

セックスなんてろくなんもんじゃねえ。楓牙『兄と妹の事情。』

久しぶりにエロマンガの記事を書くね。
 
 
 
 

楓牙先生がすごいの描いて来ましたね。
 
楓牙先生は元々大好きで買い続けています。
今の「エロシーンは半分以上!」が鉄則みたいなエロマンガ界隈で、エロシーン2割くらいなんじゃないかってくらいストーリー寄せの作品を描く、珍しい立ち位置の作家さんです。
そのストーリーの描き方が特徴的で、すごく会話の間が多い。淡々とすすむ。
感情の起伏が多くない、実際は多いんだけど絵で描かない、不思議な作風の作者さんです。
で、毎回エロい。
『男の子女の子』と『先生を見てください』は文句なしにススメられるエロさです。僕的には。
それでもエロシーンの割合少ないんですが。至るまでがエロいから。空気がもうエロいから。
 
で、それを期待して『兄と妹の事情。』を買って、気づいたら毒薬を飲まされてました。
エロいよ、すごくエロいんですよ。
でもそのエロって、鬱勃起の方だった。
どうしようもなく悲しくて、自分の視野がみるみる狭まって。
他に逃げ道はじつはあるんだけど、無くなってしまっているように感じてしまう。
セックスはするんだけど、したあとに絶望しか残らなくて、どうしようもなくやり続けるしかなくなってしまう。
そういう、エロなんです。
 
楓牙
ここで1話丸々読めるので、読める人はそっちが早いと思います。
表紙と、「兄と妹の事情。」っていうタイトルと、「黒髪ロングの妹は好きですか(ハート)」っていう帯の煽り文は、いい意味で詐欺です。
いや、これ見て、中身の鬱展開に怒る人もいるかもしれないんですが、「黒髪ロングの妹は好きですか」であってるんですよ。
だって、もう主人公、妹の事しか見てないですから。
 
本当のタイトルは「死んだ私の物語」
確かにこれは表題にしたら売れなさそうです。でもこれも正しい。
 
妹の里奈は非常にかわいい姫カットの少女。
真面目で立派な兄と一緒に暮らしています。まーいいお兄ちゃんでして。かっこいいですよ。
ふたり暮らし。里奈は兄がもう好きで仕方ないのです。
 
ここで、いきなり兄が好きって都合良くないか?と感じるかもですが、一話見てもらえばわかります。
ものっすごいいじめにあってるんですよ。
美咲というクラスメイトに、ひどいいじめにあっています。
 
トロいんです、里奈。
どうにもワンテンポずれている。だからいじめられてしまう。
理由は読めばわかるのですが、表向きはいじめの原因は彼女のズレにあるように見えます。
 
兄は妹を守りたくてもう必死で。
彼が立派になったのは妹を守るためでした。
いじめられてひどい目にあうのなら、俺だけのものにする、と。
と同時に、この兄妹の両親が死んでいる事実も明確になってきます。
妹は兄を心から慕っていますから、二人の性関係は成立します。
ここが、瓶詰めの地獄のはじまり。
 
いじめはどんどん陰惨になっていきます。
このエスカレートっぷりが尋常じゃない。
妹がレイプされそうになる、という、まあエロマンガ的には想像の範疇の出来事もあるんですが。
それよりも妹に見せつけるために、美咲が連れてきた香織梨という、兄を慕っている少女と兄とのセックスシーンを入れているのが、攻撃的。
慕っている香織梨の心を使い、兄の妹を守る心を使い、妹の兄を慕う心を使って、美咲が行動に出ている、という事実がすごい。
(正確には香織梨が美咲に提案し、それを美咲が利用し、それには裏があり…これはややこしいので割愛)
セックスによって子供ができるという行動を、相手への心理攻撃のためだけに用いてしまう流れがすごい。
 
なんでそこまでいじめるのか、見ていてわけわからなくなっちゃうんですよ。
陰惨ないじめにあっても淡々とした表情の里奈の心理も、じわじわ描かれます。
美咲の心理が最後に回収されて、性に転げ落ちる様の、救いの無さ。
多分、そこが一番、エロくて、救いがない。
 
妹と兄のセックスは、詳しくはここには書きませんが、あることからお互いの心を守るための、完全な依存関係。
美咲とのセックスは、依存した相手のことをつなぎとめる唯一の方法としての、こうするしかない逃避関係。
香織梨とのセックスは、ただいたずらに状況を利用し、そうしたことで絶望するしかない行き詰まりの関係。
全くセックスに、幸せがない。
でもおどろくべきことに、全部合意セックスなのです。
 
出てくる人物はおそらくほぼ全員、依存気味。
依存って言葉使うの難しいんですが、ざっくりと「これなしでは生きていけない」という視野の狭さ、くらいの感覚で使うなら、まさにそれ。
兄は妹なしで生きていけないし、妹は兄なしで生きていけない。
美咲は……さらに悪化しているかも。
 
で、じゃあセックスしないといけなかったのかというと、そんなことはないんですよ。
もっと大きな視野で、皆が助かる方法はいくらでもあった。
病院に行くとか、学校を休むとか。でもそれを選択しない。
自分たちの手で、自分たちだけの感情でなんとかしようとして、みんなだめになります。
「だめになる」。
うん、だめになるとしかいいようがない。
だって、幸せなセックスしてないもん。逃げであり、防御であり、攻撃でしかない。
 
表紙めくったところに、細かい設定が載っていますが、それはマンガを読んでからがいいと思います。
ものすごい陰鬱な話なので、読んでいて滅入ることもあると思いますが、それでも興奮してしまう感覚はちょっと味わってみて欲しい気もします。オススメしていいのかわかんないけど。
依存しながら転げ落ちてしまうエロティシズムは、リアルでは味わいたくないからフィクションで……。
意味深なラストシーンも、いいんだ。
魔法みたいな終わり方に見えて、実は一切解決していないというね。
 
楓牙先生のマンガは、色々な作品でクロスオーバーしています。
なので、今後この兄と妹、美咲も他の作品に出てくるかもしれませんし、出てこないかもしれません。
この『兄と妹の事情。』は極めて、本当に極めて視野の狭いセカイでの破滅の話ですが、楓牙ワールドはマクロにでかいです。
どこかで、もしかしたら救いがあるのかもしれません。
 
一番驚いたのは、猫が大好きな楓牙先生が、猫を虐待するシーンを描いたことです。
 

7日発売の板場広し先生の『アニメーター、家出少女を拾う。』も、アニメ業界のリアルとエロをすごいきっちりまとめて、納得できる仕方で、抜けるマンガになっていてすごくよいです。
MUJINは単行本で読む派なんですが、ここにきてとんでもないのが二冊きたなーという感じ。