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『すみっこプリマ U-15』は「スポットライトを浴びるプリマたち」になるだろう

『すみっこプリマ U-15』第1巻 三ツ沢大介 【日刊マンガガイド】  |  このマンガがすごい!WEB
最近「このマンガがすごい!web」に書かせて頂いてます。
 
で、このマンガは本当にすごいんですよ。
(すごいマンガしかこのサイトにはないけどさ)
100の言葉を重ねても、マンガの本を開いて読む体験には勝てない。
これがマンガの力か!
 


 
コマ割りが素晴らしいっていうところから説明するのはおかしいんだけどさあ。
物語もキャラクターも素晴らしいから、そっちから話すべきなんだけどさあ。
 
マンガを読んでいる人なら多分ペラペラっと見た時、すっごいゾクゾクッとくると思う。
これは今までにない(はず)。
 
マンガって斜め右上から横にスライド、下に下がって、左下のコマへ、っていう視点誘導が一般的。
少女漫画だと右から左へ動かすことも。
そして4コママンガは、右列を縦に、左列を縦に読みます。
ぼくは「最低限、4コマ目はオチか、話の区切りになるはず」と思っていた。
 
違うんだよこのマンガは。
4コマ目から次の一コマ目にスっと移動する。
というか4コマですらない。3コマとか5コマとか。斜め切りもある。
4コママンガのフォーマットを利用して、全く別の、独自のマンガにしている。
だからマンガ読み慣れている人が最初読んだら、きっと「あれ?」ってなるはず。
 
決して奇をてらっているわけじゃない。
こうすることで、このマンガは「小説」になってる。
 
アクションの多い、フットサルマンガ。
ものすごくフットサル愛あふれています。描写は丁寧です。
と同時に、
・数の多いキャラクター心理をいかに丁寧に描くか
・キャラクターの身体をどう個性を持たせて描くか
・躍動感の動、思考の静のメリハリをいかにもたせるか。
これを全部盛り込んでいる。
ものすごい贅沢だと思う。
 
4コママンガをたくさん読んでいる人ならわかると思う、同じ8ページだと、ストーリー漫画コマ割りと、4コマ漫画コマ割りでは物語の作り方が全く違う。
4コマ漫画はものすごく情報量が多い。けれど制約もとても多い。
 
「すみっこプリマ U-15」は
・4コマ漫画の制約を破壊
・4コマ漫画の情報量の多さを利用
・通常コマ割りのマンガと併用してメリハリもつけ、読みやすくしている。
これだけで、すごいって分かってもらえると思う。
 

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「キャラクターの身体」の個性を描くための手段としても、この4コマ変化球がすごく功を奏しています。
ほら、縦長じゃん4コマ割りって。
主人公のボタンは、元プリマだから、立ち振舞いひとつひとつが、すっごい、すっごいきれいなのよ。
立ち姿、歩き方、走り方、座り方、ちょっとしたストレッチ、などすべて。
背筋がスッと伸びているからなんだろうなあ。
あと脚。脚が美しい。
筋肉のつきかたがしなやか。
 
ぼくはバレエ詳しくないからわからないです。
でも、彼女の身体がどのくらいきれいかはわかるよ!
多分すごく研究された描写だと思う。
 
これでいて、一巻で彼女が「もともとバレエをやっていた」というのをひた隠しにし続け、バレていないというのも面白い。
無理やり隠している感はないんです。
(最近のリュウ掲載分ではちょっと意味ありげになってる)
筋肉フェチのタンゴが惚れ込んで、声をかけるのもよくわかる。
 

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一巻であまり「ボタンはプリマであることを隠している」というのを前面に押し出しているのは、彼女だけが主役じゃないからだと思う。
もちろん中心はボタン。
でもこの作品は群像劇。どの女の子も、主役。
実際、副題も「ボタンの話」「ハナオの話」「マサミの話」……と名前がついていて、スポットがそれぞれにあたっています。
(最近は全員の話なので、「体力測定の話」などになっています)
 
ぼくが好きなのは……全員だけど、身長の小さいサチ。
やっぱりサッカーだと、脚の長さ、身長の高さで差がついてしまう。
ものすごいテクニック持ち。けれどもモヤモヤが残ってしまう。
「……そもそもあたし、何が楽しくてサッカーをやってたんだろうね」
 
サチの描写は、ボタンの真逆です。
ボタンがしなやかに動くとしたら、サチはちょこまかと動く。
ところがこのちょこまかが、4コマサイズの中で華麗に、舞うように踊っているんだもの、見惚れるよ。
そして決める時、コマは普通のサイズに戻って、ハッとさせられる。
(そのゴールの決め方がまた、いいんだ。人間関係のドラマがあって。)
 

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雑誌で読んでいた時と、単行本で読むのとはずいぶん印象が違うなーと感じました。
やっぱり雑誌だと、コマサイズ自体がでかいので、あんまり違和感ないのね。
けれど単行本だと、いかに工夫が凝らされているかよくわかる。
細長いコマだからこそ、誰が誰を見ているコマなのか、複雑さがなくてわかりやすい。
この技術自体がすごいんじゃなくて、このアイデアを利用して、キャラ同士の関係性と物語を描いていくのがすごいんだ。
 

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デザインも含めて表紙がいいよなあー。

エロくないフェティッシュ
 

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もうダダ流しで書きました。
好きでしかたないんです、『すみっこプリマ U-15』。
なんていうかね、日本人の「踏み込まない優しさ」が全体にあるのが心地いい。
ぼくの好きなキャラに(こればっかり)ハナオっていうそばかすっ子のフットサル仲間がいます。
彼女は自分ももともとバレリーナで、ボタンに出会ったのを覚えている。
けれどボタンは自分からはバレエをやっていたことを言わない。
ハナオはそこに踏み込まない。
彼女のおばあさんがそれを観て言います。
「こちらが窓をしめてなきゃ、いつか向こうからあいさつしてくれる事もあるだろうさ」
多分ね、このマンガのテーマってここなんだと思う。
だから、今は「すみっこ」。
 

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このマンガがすごいのは、もう見ればみんなわかるはずなので、あんまりしつこく言うのも野暮かなーと思う。
多分あっという間に、作品そのものは注目されると思う。
(もうされてるか。)
物語の中の子たちは今はまだみんな、お互いを思いやって「すみっこ」かもしれない。
けどきっと、全員が光を浴びるプリマになる日が来ると思うんだ。
 
 
 
ぼくもタンゴみたいに筋肉フェチになりそうでやばい。