たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

子役という仕事はいつだって残酷だと『このゆびとまれ』は訴える。

このゆびとまれ(1) (ニチブンコミックス)
このゆびとまれ 2 (ニチブンコミックス)
このゆびとまれ (3) (ニチブンコミックス)
なんかあちこちで書いているので、ひょっとしたらうちの日記でも書いてるかもしれない。だがまた書く。
 
子役を主人公にした『このゆびとまれ』は、とても残酷だ。
 

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主人公の人気子役、藤江恵那。小学1年生。
芦田愛菜ちゃんみたいなのを想像すればOK。

天使。
かわいいルックスと、卓越した演技力で、超一流の子役として活動しています。
しかしこれは、表の姿。
実際はというと。

悪魔。
芸能界の酸いも甘いも知り尽くしている彼女。マネージャーの田代の前でだけは、素の表情でストレス発散。けるわ殴るわこき使うわで大変です。
 

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そんな彼女が、芸能人をばっさばっさを切り捨て、取り入っていくのが痛快なマンガ。
子供だってなめてんじゃねえぞ感が、大変気持ちいい。
大人は手球に取られっぱなしです。
たとえばこのシーン。

失敗をして(フリだけど)、歯ぎしりしながらリテイクに挑む恵那。
これ実は、あまりに現場がゆるい空気だったので、引き締めるために取った演技。
子供にこんな顔されちゃねえ。ゆるい空気ではやってられないですよ。
大人のケツたたくような、一発です。
 
基本「自分が有利になるため」ならなんでもする、腹黒い子。
しかし、自分が関わった仕事を良い物にするためなら、手段を選ばず、子供であることを利用し叱咤します。
割りと、いい子なんです。
 

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大変気持のいい、恵那無双マンガ。
子供が強いのって、気持ちいいんだよね。
もちろん「ガキのくせに生意気な」と感じる人もいるかもしれない。
けどここまで賢く、一刀両断してくると、爽快でしかない。
 

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面白いのは彼女が取り入っていく芸能人のモデルが、実在の芸能人だ、ということ。
鶴瓶師匠だったり、北野武だったり。
3巻では、超巨人であるこの人でした。

さんま。
「はまち」という名前で登場します。まあ、さんまだよね。
 
芸能界では、モンスターですよ。
テレビで見ている側としては指差して笑わせてくれる、素敵なお笑い芸人。
でも同じ芸能界にいたら、おっそろしい存在じゃないかな。
 
おっかねえなと思ったのは、このシーン。

基本さんまは相手をうまーく立てて、笑いに変えていくスタンスの人。
しかし一方で、看板番組への執着がものすごく強い、なんていうゴシップもある人です。
ゴシップとはいえ、そのブラックな一面を聞いてからさんまを見ると、「そうかもしれない」というゾワり感がある。
 
これを芸能界にいる人間側から見たらどうか。
マンガの中では、はまちが恵那を品定めします。
恵那は、わかってるんですね。基本立てて笑わせてくれるけど、一筋縄ではいかない人間だというのを。
ヘタしたら、足元をすくわれるのを。
恵那は鋭いので、このピンチをチャンスに変えます。
 
普段はここまでスレスレのやりとりはしない。恵那無双。
この回は、ゾクっとしました。
 

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彼女が苦手としている相手は、飄々として恵那の本質を見抜いている、松田という芸能人だけ。
それ以外はガシガシ前に進みます。
 
なにを武器にガシガシ進むか。
「子供」であるということ。
これって、ものすごく残酷。
 

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今は小学1年生という強力な武器を持っています。
子供に対して、邪険にそうそう扱えるものではありません。
今は。
 
彼女がなりたいのは、女優。
でも今は小学1年生。
みんな「女優」としてじゃなく「子役」としてしか見てくれない。
だから彼女は「子役・藤江恵那」という武器をかざし、演じ、戦っています。
じゃあ「子役」じゃない藤江恵那はどこにいるんだろう?
 

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恵那の周りは刺だらけです。
子役であることをかざしている今。年を取ったらどうなるんだろう。
また、今この時点で、子役として負けたら、武器を失ってしまう。
常に綱渡り。全部一人で抱え込んでいる。
こなせてはいるけれど、彼女だって人間だ。
 

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3巻ではじめて、恵那を打ち負かす「子役」が登場します。
桃田萌々、7歳。
今まで他の子役に負けたことなんてなかった。圧倒的オーラで完膚なきまでに打ち負かしていた。
でも、この子だけは「何か」が違って、勝てなかった。
 
「子役」で負けてしまったら、恵那の武器は、今ない。
 

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この萌々には、ちょっとした面倒な裏があります。
ネタバレになるので、そこは読んでみて。
これまた、いかにもありそうな話しだから残酷。
 
恵那が本音を出せる相手は、マネージャーの田代しかいません。
まあ頼りないマネージャーです。圧倒的に恵那に勝てない大人です。
とはいえ、「大人」なんです。
どんなに努力しても、「子供」と「大人」の溝は埋まらない。
「大人」にしかできないことは、あります。
「子供」にしか許されないことも、あります。
 

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恵那が立ち向かう世界。
2巻までは手のひらの上だったけど、3巻からは熾烈な戦いになります。
表紙がいいよね。1巻から3巻まで。全部恵那の、色んな側面です。
 
2巻までの無双パターンをずーっと続けていくのもいいけれど、3巻で大きく舵を切って、恵那の人間味が出てきました。
彼女を唯一打ち負かした大人、松田がまたいい味出してるんだ。
彼が完璧な大人とは限らないのも、3巻で見ることができます。
 

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みんな人間。
子供だろうが大人だろうが、カメラの前ではみんな演者。
心身を削って戦う恵那は、八艘飛びを続ける超人じゃない。
地獄の針の山を登り続ける、一人の少女だ。
 
でも痛みを伴って針の山を登った先には、何かあるんじゃないかな。
って、思いたい。
そんなマンガ。
Mっけのあるロリコンにもオススメです。
 
 
 
おわり。