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「作る覚悟」と「消費する覚悟」。『げんしけん』初代が描いていた、2つの分かれ目

先日はよもやま語りラジオ『なまたまご。』#03「げんしけん(初代)」聞いてくださった方ありがとうございました。
 
げんしけん(1)

二代目はともかく、初代の頃はブログでの論戦さが大変盛んで、ぼくなんか今更アレコレ言うことはこれっぽっちもないわけですが。
ただ、二代目とテーマを異にする『げんしけん』初代。改めてもう一度見ておきたい。
時代や「オタク」の語のあり方は変わっても、生き方は変わらないわけだから。
 

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ラジオで題材にしたのは「消費者とクリエイター」の話です。
具体的に言うと。
 
消費者→斑目、くがぴー、くっちー
クリエイター→コーサカ、笹原、荻上、田中、大野
 
大野さんはどっちかなあと思いつつも、コスプレは表現だと思うので、こちらで。
コーサカ、笹原、荻上、田中は、ものづくりを仕事にしてしまっていますね。
 

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今回比較したいのは、漫画家になるためしがみついて「クリエイターになる覚悟を決めた荻上と、斑目……じゃなくて、「すっぱりやめて就職し、消費者になったくがぴーの覚悟」
 

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はじまりは、げんしけんが「くじびきアンバランス」の同人誌を作って、コミフェス(コミケみたいの)に出ると決めた時でした。
この時点での荻上とくがぴーの「活動」を比べます。
 
荻上→絵が描ける。そこそこうまい。ただしマンガ類はそこまでガチで描いていない。漫研で騒動を起こし、逃げ出している。
くがぴー→絵が描ける。そこそこうまい。ただし自分の実力を理解していて、趣味の範囲に留めようと考えている。
 
程度の差はあれ、両者実はここではあんまり変わらない。
まあ荻上は家でシャカシャカ描いたり、落書きしたりの時間長いです。その分「上手い」かもしれない。でも「マンガの上達」はしていない。
くがぴーは完全に趣味書き。落書き。そこから「完成」させないので、上手いうまくないの判定にそもそも入りません。
 

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よくある、合同誌空中分解寸前問題。

あるよね。大人になるとさらによくある。
まとめ役が胃をいためても、作家が逃げ出すことは多々ある。
逆にまとめ役が逃げ出すこともある。
 
くがぴーはこの時点で、はっきりと「だから就職活動してる」と、絵を描かない、マンガを描かない宣言をしています。
同人誌を「やろう」と決めた後に、この言い分はズルいのは百も承知です。
ただ、実際に動いた時に彼は悟りました。
「できない」
忙しい。作れない。
自分は、絵を描くのは好きだけど。
漫画家にはなれない。
 
笹原の言い分は全くもって仰るとおりだけど、ちょっときついよね。
 
この問題は、じゃあくがぴーが謝れば済むのかとか、笹原が妥協すればいいのかとか、そういう問題じゃない。
咲ちゃんの制裁で本自体はできました。
そして、くがぴーは趣味も含めて、クリエイターの道を「歩まない」という覚悟が、この瞬間に完全に決まりました。
 

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一方、荻上
彼女は、4年生じゃないということだけじゃなく、初めての同人誌に情熱を傾けて、本気の「マンガ」を描きました。
だからこそ、彼女は空中分解しそうになった時。

荻上には、泣く権利があった。
「女の涙はずるい」とかそんな問題じゃないんだよ。
彼女は、「クリエイター」として一歩ちゃんと踏み出しているんです、すでに。
それは完成させたから
だから、「完成」させた覚悟を踏みにじられようとしている今、彼女は泣いていい。
この涙は、ただの感情の昂ぶりではない。荻上が「ものを作りたい」「完成させたい」という渇望の現れ。
ただし、まだ「覚悟」までいっていません。
 

「覚悟」の一歩手前にあったのが、トラウマ問題と、自分の心の壁でした。
「表現する」ということは、自分をさらけ出すことです。
(表現活動の全てではないですよ)
荻上は極度に自己肯定力の低い子です。
絵とマンガへの自信はちょっとあるとは思う(だから笹原とケンカする)。
ただ「自分」を表現すること、好きなモノを好きだということに、極度に怯える。

だけど彼女は、嫌われ、叩かれ、潰され、消されても、やめない。
やめられない。
荻上千佳は、気づかないうちに「クリエイター」になる覚悟を決めていました。
 

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「消費者になる覚悟」
「クリエイターになる覚悟」
どちらも、大きな決断です。

絵を描くのが好きで、吃音気味のくがぴー。彼は医療機器メーカーで、よりにもよって営業に回されました。
楽しいわけはない。仕事だ。
もちろんオタク趣味はやめない。好きなモノを買うために、働く。
よくぞ決意したと思いますよ。半端にならなかった。
 
荻上も同様に、半端にはならなかった。
というかなれない体質だった。好きで、描きたくて、止められない。
ぼくは、天性の才能なんて言葉はあんまり信じません。
ただ、天性の「好き」は、呪いのようにあると思う。
 

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二代目の子たちは、明るく楽しく、初代のよどみがほとんどありません。
けれど、波戸くんが卒業し、「クリエイター(女装家として生きる表現者)」になるか、消費者としてたまに遊ぶ程度に留めるのかは、いつか決めないといけない。
 
同人誌も同じです。
同人誌を作り続けている人は、クリエイター。
クリエイターとしてどこまで同人誌を作り続けるんだろうか。
コスプレも同様。
大野さんは「コスプレ」という作品のクリエイターとして、いつまで続けるのだろうか。
コンプレックス・エイジ(4) (モーニング KC)
こっちの話になるよね。4巻最高に酷かった(キャラクターのドロドロが)。
 
大人になって社会人になって、どこまで「好き」を貫けるのか。
コスプレ好きが高じて、仕事にした田中は上手いところに収まったと思います。
大野さんどうするんだろう?
ぼくは「覚悟」できていない彼女が一番心配です。
田中が守ってくれると、言っているとはいえども。
 
「二代目」の話は金曜日のラジオでまたやります。
 
 
 
 
 
 
 
 
終わり。