たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

「殺し屋さん」にみる、マンガ独特の言葉のイメージの楽しみ方。

●言葉のイメージ●

次にあげる単語を、絵的なイメージで思い浮かべてみてください。

1、女教師
2、コックさん
3、勇者

さて、どんなのが思い浮かんだでしょうか。ちょっと例として、自分の思い浮かべたものを挙げてみます。
1の女教師。メガネかけてちょっと気丈そうな、スーツ姿の女性で、小脇に出席簿、あとのびる支持棒。なんかちょっとむちむちでエロい。と考える自分の脳がエロい。
2のコックさん。白い服で、胸元にリボンみたいなもの、そしてやっぱり頭にはやたら高い帽子。実際のところはあれは厨房のえらい人?しかかぶらないとか聞きましたがイメージではみんなかぶっていそう。
3の勇者。そもそも勇者ってなんだよ、という話ですが、やたらみんなに信頼されていて基本的な魔法が使えて、剣術に長けてそうなな感じ。あんまり弓とか回復魔法だと、勇者って言葉のイメージとあわないかなあ。
 
上に挙げたのはまあ単なる一例なので「あー、俺もそう思う」という人もいれば「いや、私のイメージはこうだな」という人もいると思います。
ただ、一ついえるのは「何らかのイメージを持ちやすい単語」だと言うこと。たとえばこれが「サルベージ作業員」とかだといまいちピンとこないのですが、上記の3つはゲームやマンガなどのメディアで使う言葉なので、目にしやすいですよね。同時に、現場ではあまり使わない単語です。女教師は「女性教員」でしょうしね。コックは使うとしても「さん」をつけるとちょっと雰囲気がマンガチックになります。勇者に至っては境界線がなさすぎ。
このように、「マンガだから」「ゲームだから」使われる特殊な単語の固定イメージってあると思います。
それを極端なまでに研ぎ澄ました作品に、タマちく.先生の殺し屋さんがあります。
ちょっとこの作品を紹介しながら、言葉の独特なイメージの作り方を見てみようと思います。
 

●殺し屋+さん●

「殺し屋」という言葉のイメージだけ取り出したら、どんな感じになるかというと。
・クール
・ニヒル
・男らしい(イケメン・男くさい)
などでしょうか。ゴルゴ13みたいなスナイパーを思い浮かべる人も多いかもしれませんし、必殺仕事人みたいのを思い浮かべる人もいるかもしれませんが、共通してこのへんですよね。
はて、「殺し屋さん」の表紙を見てみると。
殺し屋さん(1) (アクションコミックス)
おお、兼ね備えている!実写化の際はGacktでしょうこれは。
というわけで、帯なしだとぱっと見シリアスにすら見えるのですが、中身は「殺し屋」という言葉に対するイメージをとことんまで突き詰めた強烈なギャグマンガだったりします。
まず、「殺し屋」が、身近な存在じゃなきゃいけないのですよ。だから「さん」付け。コックさんとかおまわりさんと同じ仕組みです。
身近になったら、殺しの依頼もやっぱり日常的じゃなきゃいけません。

パンパカパーン。

近所のスーパーレベルです。このネタ大好き。想像外すぎて。
 
しかし考えてみたら、マンガなどに出てくる殺し屋って、突き詰めれば「どんどん仕事が入ってきて、こなしている」わけですよね。ゴルゴ13レベルに高額だとまた別かもしれませんが、このマンガはあくまでも「殺し屋さん」なので、サービス期間を設定したりもしちゃうわけです。商売だしね。
近所ではゴミをきちんと片付けたり、ボランティア活動に参加したりするよき一般市民なわけです。飲みに誘われることも多々。親愛なる隣人なのですよ。だって「殺し屋+さん」だもの。
実は、殺し屋という商売も、このくらい日常の一つでもおかしくないのかもしれません。
いや、おかしい。
 

●「殺す」だって色々ある。●

「殺す」という言葉自体はまあ、現実には使うべきではないわけです。倫理的なとかウンヌンとかね。あんまり「殺す」って言うと学校の先生に禁止されたり委員長に学級会で取り上げられたりしますから気をつけようね。
しかし、「殺す」といっても色々な意味があるわけで。

こういう1コママンガが毎回入って、色々な意味で「殺す」のがまた楽しい。「殺し屋さん」は依頼されればなんだって殺すのです。1円から数十億円まで多様なニーズにこたえます。これぞ「殺し屋」の鏡。*1
あと、殺すと言っても射殺ばかりが殺害方法ではありません。いろいろな意味でいろいろな殺し方をしてこそ、真の殺し屋ですよ。

コレ見て黒歴史がうずいたら死亡。
うっ(死んだ)
もちろん実際に手にかけて殺すシーンもいっぱいあるのですが、彼は狙った獲物をいろんな意味で「殺す」ために、手段は選ばないのです。いや、選びすぎてわけがわからなくなっています。
 

●殺し屋は、妄想が豊かなんだ。●

とはいえ。数多くの人を殺している殺し屋です。うらみも大いに買います。遺族がいないわけではないのです。
そんな遺族を代表するのが「父の仇女」。名前がこれだからすごい。
制服日本刀で前髪パッツンという、なんとも個人的にツボなキャラデザなんですが、この子も「殺し屋さん」と同じ位置にいるわけで、相当頭が弱い子です。そこがいいのですが。
 
殺し屋さん、妄想力激しすぎ。こういう下ネタが毎回入るからなんとも…面白いな!
実際人気の高いキャラのようで、作者も、読者のエロ意欲に押されて描いているそうです。うん、わからんでもない。
殺し屋さんの妄想力はあまりにも強すぎるのですが、1巻を読み終えた頃には、気がつくと「殺し屋さんの妄想は自分達が楽しんでいる妄想の代弁者なのでは?」とふと気づかされます。
そして、そのとき。「殺し屋さん」に自分達の心が殺されていることにようやく気づくのです。性的な意味で。
 

●あくまでも「殺し屋」「さん」の言葉にこだわっているからこその面白さ●

一番最初にも挙げましたが、「女教師」とか「勇者」とかの意味を、マンガを読みながら突き詰めてリアリティだけ求めてしまったら、面白みは減ってしまうことってあると思います。それをリアルにするのがメインテーマではない場合。「女教師ってこんなイメージだよなー(現実的じゃないけど)」くらいでキャラとして動いている方が、キャラ個性としては映えます。言葉の魔術的な部分なんでしょうねコレ。
そして、それがおおげさになればなるほど、キャラは立ってきます。
そんな、マンガ的な「言葉に対する思考の流れ」をあえて際立たせて、マンガ的言葉に浸りこむ楽しさを引き出したのがこの「殺し屋さん」という作品だと思います。
だから、「父の仇女」にも「弟子」にも名前がないままなんですよね。「殺し屋さん」には一応「佐々木竜一」という名前があるのですが、ほとんどといって出ません。そのへん「殺し屋さん」の名が彼のすべてで、アイデンティティそのものだからなのでしょう。
この作品、ある人からしたら、人を冗談で殺し続ける不謹慎なマンガ、ともとれるかもしれません。実際作者も「不謹慎」と言っています。が、そこはほら、「殺し屋」が記号であれば、「殺される」も記号なんです。マンガルールで。
読者の中のマンガルールを掘り出してつついて楽しませる。この作品の本当の面白さの一つは、僕らが愛してやまない「マンガらしいうわべの表現」の共有感なのかもしれません。
 

とりあえずこういうのスキだったらかなり楽しめると思います。
殺し屋ことわざと殺し屋年表は意外と役に立ちそうで立ちません。いや、立つかも。いや立たないな。
 
殺し屋さん(1) (アクションコミックス) 殺し屋さん 2 (アクションコミックス) 4ジゲン 1 (花とゆめCOMICS)
にざかなの「にざ」先生がネタを作っているので、そちらが好きな人は必見、と言いたいところですが、下ネタが結構多いので、…おすすめです。
 
〜参考リンク〜
殺し屋さん検定
マンガ全部読んだ人向けのウンチククイズ。面白いです。
手抜き道
「にざ」こと一條マサヒデ先生のHP

*1:1円の殺しもちゃんと本編で出てくるので、見て確かめてください。なかなかいい仕事です。