たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

乙女達だけが許された、天駆ける自由への翼。「アルト」

自分が空にあこがれたのは、「天空の城ラピュタ」を見てからでした。
最初のうち、雲の中に飛び込んでみたい、触ってみたいとどれだけ夢見たことか。実際は触れないけど、ナウシカラピュタでは雲に船を押し付けるシーンがあって、もふっとしてるんですもの。
それがそのうち、アニメから離れ、純粋に空への憧れを感じるようになりました。今でも飛行機の席は必ず窓側を取ります。あのタイヤが陸を離れる瞬間とのふんわり感と、雲海から機体が飛び出す瞬間がたまらないんですよね。
まだ鉄の塊に包まれていないといることの出来ない場所だけど、空を眺めるだけで心ときめく人は、きっととても多いはず。
飛びたい。自由に。
それは人間が鳥の羽を持っていないからこそ持ち続け、そしておそらく永遠に鳥にはなりえないのではという気持ちもあるから生まれる、複雑な感情です。しかし自由に憧れ続ける限り、空にも憧れるのでしょう。
 

●純潔の乙女だけが、空を許された●

空への憧れを描いた作品は数多くありますが、ここでこいおみなと先生の「アルト」を紹介したいと思います。色々別の意味でも話題になったようですが、そんなの気にしない。だってマンガとして面白いですもんこれ。とりあえずマンガはマンガ、読んでみないともったいない爽やかな良作ですよ。…最後まで続いてくれるかどうかだけ心配ですが。
 
基本的には19世紀後半のヨーロッパ風なんですが、何より基本設定がかなりかわっています。
まずこの世界、鳥がいないんですよ。
空にあこがれる人間ってたいてい鳥にあこがれるものですが、んじゃ鳥がいない世界だったら空になんてあこがれないでしょうか。いえ、憧れます。絶対憧れます。人間の空への憧れはそんな簡単なものじゃないんだよ。
なぜか?と言われると・・・あれ?なぜでしょう。
それは、空に対して憧れのある人ならなんらかの答えをそれぞれ持っていると思いますが、この作品でも今後語られていくテーマになっていくでしょう。
 
そんな「空への憧れ」がさらに神聖化していく手段として、もう一つ面白い設定があります。
空を飛ぶ行為は、神に近づく行為。だから純潔な乙女だけが、飛行機を作り、飛ぶことを許されるのです。
「ククルカン」なんかも空に近づく魅力を描いているマンガですが、こちらは逆に男性の力強さにそって共に飛ぶために、少女が男装しています。「アルト」は全く反対ですね。空を飛ぶために、純潔の乙女でいなければいけないのです。

これがヒロインのアルト。澄んだ目をした子です。まあいろいろアレなんですが、それは内緒。この子が全力で、空への憧れを胸に駆け出すところから物語は始まります。
やはりどんなものであろうと、一つのことに憧れていたり、夢中になっている人の瞳っつうのは読者を引き込むものなんです。この子は加えて、行動力もあり、全力疾走で駆け抜けようとするからこそまた気持ちいいんだ。
空を飛べ、乙女達。
しかし、少女たちが空を飛ぶのは、アルトが思うほど華やかで夢の詰まっているものではありませんでした。そのギャップのぎごちなさが、物語を面白くしていきます。自由を求めるものと、束縛に圧迫されるものたちの、そんな視線の違いです。
 

●夢にカベを作る少女●

もう一人のヒロイン、アンジェラお嬢様は、そんな「地位や名誉の渦巻くややこしい世界」を体言するかのように登場します。

これがまた気が強くてプライドが高くて子供っぽくて、すげーよいんだ!踏まれたい方向的に。
そんな気持ちを汲んでくれるがごとく、アンジェラとアルトの関係は主従へ変化していくのが自分的に大変よいです。ハナマル。

メイドですよ。メイド好きな人は満足できるような描写満載ですよ。
他の方面でも目覚めてしまいそうですが。
 
はて、このアンジェラお嬢様のまわり、非常にシビアな問題が山盛りです。
地位狙いの人間関係、一筋縄でいかないお金の問題、亡くなった姉。とてもじゃないけれどアルトのように澄んだ瞳で空を見ることは出来ません。
とはいえ、そのギャップは重く描かれません。いや、重いんだけど、アルトの存在はさらにものすごい勢いで疾走しているんですよ。
1巻の構成はそのへんがよくできており、ちょうど一冊でアルトとアンジェラが勢いをつけて気持ちにはずみをつけて飛び出すまでの感情の動きが描かれています。同時に飛行機が、あまり飛ぶことのできない飛行機が、アンジェラにとって虚栄であり絶望であった飛行機が。
飛びます。
 

●超低空の滑走から、そのまま大空へ●


飛ぶ、といってもそんなに高くはまだ飛べません。設定としてもちょっと特殊な力を使っているため、そちらも描かれていかないとまだまだ高くは飛べないでしょう。
しかし、確かに一歩ずつ、アンジェラとアルトは陸から解き放たれ始めていくその様子が非常に心地よいんです。
飛行機がでてくる作品のよさは、その飛び立つ描写と、自由を感じさせる風景への視線にあると思います。もうね、解き放たれて疾走したいんですよ。
それが、同時にキャラ達の、読者の心も解き放ってくれるから。
この作品が今後どうなるのかまだまだ序盤なのでわかりませんが、お願い、飛んで。
 
アルト(1) (シリウスKC)
一見表紙だけだとどんなマンガかわからないかも。中をひらいたら、古い乗り物フェチにはたまらない世界が広がっています。モト萌え。
あと、ここでは書けないほどの致命的なネタバレが、非常にある面において開眼しそうなくらい素晴らしいので…ああ、言いたい言いたい。とりあえず自分の属性にはぴったりあいすぎだとだけ記しておきます。アンジェラ嬢との関係的に。
 
〜関連記事〜
「ククルカン」に見る、戦争ネタのいいとこどりな楽しみ方。
「ビーチスターズ」に見る、駆け回る少女の疾走感
少年が疾走するのも最高にステキなんですが、やっぱりここは少女ですよ。
  
〜関連リンク〜
アルト(ぽてと男爵)
こいおみなと-アルト(マンガ一巻読破)
ほんと、色々大変なようですが、こんなに爽快な作品を失速させないでほしいです、どんどん加速して、天高く舞ってください。そのくらいの勢いは、一巻のなかに詰まっているんですもの。飛翔飛翔!