たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

ゆったりした少女達とすごす、ゆったりした時間と距離感。「いつも君を感じてる」

自分は色々サーチしつつも拾い切れないのが多いので、エロマンガに関しては比較的表紙買いが多いのですが、今回はがっちり、表紙にやられました。この色使いがツボすぎて。

コミックメガストア」と「コミックメガストアH」に掲載されていた、葉雨たにし先生の初作品集です。
エロマンガのよさを探すときって、重要な要素がいくつかあると思います。
性の感覚をも含むストーリーの流れ、二人の間に流れる雰囲気、愛情あふれる性の感覚、キャラクター達の心情を表した表情、性をも含んだ人間の思想、などなど。
この作品ではとにかくとことんまで「雰囲気」を突き詰めて、それがキャラの心情と距離感を「ああもう、よかったなお前ら!」と思わせる、むずがゆいくらいのラブでぱんぱんになっています。
そう、いきなりガバっとおそいかかって発情するエロマンガも素晴らしいんですが、じわじわっと距離をつめていく感覚。その空気がなんといってもドキドキポイントなわけですよ。
 

●少女の郷愁あふれる表情●

表紙を見ていただければ分かると思いますが、この葉雨たにし先生の描かれる少女は、とにかく不思議な郷愁を抱かせるんです。
裏もステキなんですよ。

ね。
一応時代は最近の話ばかりですが、出てくる少女たちの漂わせる空気が、まさに「大人が何かを思い出すときに感じる、なつかしの女の子像」なんですよ。
少女どころか、さらに幼い子や大人の女性も出てくるのですが、いずれもそこはかとないノスタルジックを抱えています。おそらくその雰囲気は、彼女たちのもっさりとした柔らかい表情に起因するところが大きそう。とにかく全員、顔つきがふんわりスローな感じなんです。
必見なのは、折り返しの部分とカラー。

田舎が舞台の作品はこの作品集でも数編あって、いずれも、田舎のきりりとした空気と温かみをたたえた良作。田舎の空気の描写を、少女の表情でやっちゃうんだから。その描写力にはほとほと恐れ入る。
特にそれが顕著なのが「こたつ大好き」という作品。
こたつ、ってだけで淫靡に感じる自分はエロマンガ脳ですが。でもねでもね、冬の田舎のこたつを、温かみのあるタッチで描かれたら。そりゃもう、中高生時代の甘酸っぱい思い出が口に広がるっつうもんです。ですよね。冬の木造の田舎の家でこたつですよ。
経験なくても田舎の小さな恋を疑似体験できる、大人の特権。
18禁媒体だからこそ感じられれる、性の感覚の酸味を含んだ郷愁の思い。
 

●柔らかな表情で、彼女は僕のことを見た。●


妹のように親しくしていた少女との、ふんわりした距離感を描く「眠れない夜に…」より。
この表情の柔らかさ、少女漫画の柔らかさとエロマンガの色気がしっかり融合されているんだものなあ。
なかなか今まで距離を詰めることができなかった少年少女が、じわじわとその存在を感じてしまって求めてしまう、そんな流れが非常にほんわかとしたタッチで描かれています。「初々しい」という表現でいえばそのとおりですが、さらにもっと二人の胸の鼓動が聞こえてくるような感覚がいいんです。
実際エロシーンの描写も非常にうまいんですが、やはりそこにいたるまでの過程が秀逸。これもやはり少女の表情がしっかりと独自の線で描かれているからだと思います。

そしてマユゲ。「僕が彼女を好きな理由」より。
こういう、あまりあかぬけない感じの少女のたたえる雰囲気が全体に満ちているから、男子側もがばっといくわけじゃなく、お互いじわじわと距離を詰めて詰めてためてためて…。
そこまでの流れがあるからこそ、心と体が触れ合う瞬間がいとおしい。
 
トーンを一切使わないあたたかみあふれる描写で、少年少女を描く本作品集。すべてハッピーエンドのラブラブのみ。
すごい勢いのエロマンガもいいけれど、時にはこういうやさしいエロマンガで、いつか見たようなデジャブに浸りながらのんびりとエロスを楽しんでみるのもいいんじゃないかな、と思わせる良作でした。
問題点があるとしたら、次の作品集がいつになるかわからないこと、くらいでしょうか。この本出るまでに4年かかっているようです。
もっと見たいです、葉雨先生!

 
〜関連リンク〜
葉雨たにし『いつも君を感じてる』(枳棘庵漫画文庫)