たまごまごごはん

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「墓場鬼太郎」OPに見る、漫画のエクスタシーと、懐かしのナゴム魂

いやあ、今期のアニメですごい爆弾が来ました。墓場鬼太郎です。
墓場鬼太郎 オフィシャルサイト(微妙に怖いです注意)
日曜朝にやっている「ゲゲゲの鬼太郎」は、王道+今風のよさをうまくミックスした、大人も子供も楽しめる傑作アニメになっています。それと切り離すかのように、こちらは「なんで?」と首をかしげるようなタイミングとネタ選びできました。
墓場鬼太郎が最初に登場したのは実に1960年前後。今から50年も昔の話です。リアルタイムで読んでいて今アニメ見ている人はほとんどいないのではないでしょうか。まずそこが強烈ですよね。
参考・ゲゲゲの鬼太郎(Wikipedia)
日本人ならみんな知っているくらい知名度の高い妖怪のヒーローですが、墓場鬼太郎は思い切りダークで、逆に不吉を撒き散らす存在です。
そんな作品を今になってやる、となるとなかなかハードルが高いと思いますが、ここでOPを入れるとなると「ゲゲゲのゲー」とまったく方向を変えなければいけないわけです。いや、ゲゲゲのゲーは大好きだけれども、同じじゃあだめなんだもの。
そこできたのが、まさかの「電気グルーヴ
え?!電気!?全然昭和っぽくないよ!
何がどうなるか見当がつかなかったのですが、これがまた恐ろしい化学反応を見せてくれました。
 

●白と黒のエクスタシー●


やはりマンガが黒い線で描かれているということは、多くのマンガ好きにとって重要なことです。いやあ、そりゃもうフルカラーだと確かにうれしいですが、それでも日本人はおそらく白地に黒主線で、がりがりと描きこまれたマンガを手放さない気がするのです。
このへんは今後未来どのようになっていくのか想像もできないんですけど、がりがりと描きこまれた集中線や、過剰に塗りこまれたベタの魅力、擬音の美しさはなくならないどころかどんどん発展していくんじゃないか、という感覚はあります。
気持ちいいんですよ、はっきりした線が。3次元の感覚を2次元に変換する、黒くてしっかりした線が。
マンガならではの効果音が。時には感情を記号的にあらわす汗や表情や背景が。小さなコマの中にびっしり詰め込まれた、二色の情報が。

墓場鬼太郎」は、アニメ本編も「最初期の鬼太郎に」というのがコンセプトのようで、極めて忠実に再現されているようです。自分も読んだのですが、もうすっかり記憶にないから買いなおさないと確認できないんですが、確かにあの無駄のないテンポのよさ、サバサバとした陰鬱さは水木しげるワールドへを愛している感覚があります。
ならいっそ、その漫画らしさを、漫画の持っている味そのものを生かそうとした本OP。
いやあ、ここまで「動く漫画」が気持ちいいとは思いませんでした。漫画の白黒感が好きな人ならイっちゃいますよ。水木先生が肌に合うかかどうかをさておいても、最高に気持ちいいです。
 
ちなみに、このような「漫画そのもののコマを動画で見せる」技術は、ものすごいセンスが問われる上に、編集の手間がえらいことになるので、ある意味普通のアニメよりも何倍も、別のベクトルで大変だそうな。作ったことないので詳しいことは分かりませんが、そのへんは「フリクリ」で解説が入っていたのが印象的でした。

またね、下地の色がすばらしいのです。僕らが手にとって見る雑誌の紙って、質素じゃないですか。安っぽくて、ちょっと茶けているじゃないですか。
あれが貸本時代だったら、さらにぱさぱさしていて、色もくすみます。日焼けしたりして、カラー印刷しても色がもっさりとします。
その怪しさ。そのいかがわしさ
子供の時に見たわくわく感と、なんだか見てはいけないものを見ているような興奮。今の単行本のきれいな紙もいいけれど、雑誌や貸本の茶ばんだ感じが心に土足で踏み込んでくる感覚への渇望は、ぼんやりと頭の中にあるんですよ。
いや、墓場鬼太郎の時代にリアルタイムでは見てないんですけれどもね。貸本や紙芝居が好きな方なら、そのへんのチープさが生み出す子供と大人の時間の狭間と薄暮に、さらに気づくのではないかと思います。
それをうまいこと、白と黒のエクスタシーとしてたたき出したこのOP、漫画好きの心をわしづかみにするパワーを存分に秘めています。
 

●ヴァーチャルな昭和郷愁●

そこまでしてるのに、あえてテクノ?という疑問は最初見る前にありました。
でもねでもね!これはテクノだからいいんですよ。というか、電気グルーヴ起用はあまりにも天才的なチョイスだったと言っていい。

もうこの題字での自分の興奮は計り知れませんでした。
整理してみます。

・一発で感じられる昭和期の空気。
・フォントだけで感じる昭和臭
・本屋(貸本?)とアンパン。子供の好きなもののコンボ。
鬼太郎ねずみ男のキャラが感じられる、怪しくも身近なノリ
・「誰が政治しとるのか!!」

「誰が政治しとるのか!!」だけでおかしくて仕方ないのですが。
確かにここにレトロな曲を乗せるのもステキだと思います。昭和歌謡風の。
でもね、でもね。今はあくまでこれを見ているのは、20代から30代がメインなわけですよ。その層が「リアルなだけの昭和」を見ても、体験しているわけではないので、50・60台の人の感覚に叶うわけありません。むしろ、分からないことだらけです。10円のアンパンなんて食べたことないっつうの。
ならば、視点を一気に引き込んで、未来から見ている昭和というバーチャルに徹したほうが面白いわけですよ。
貸し本屋「があったんだろうなあ」。夕暮れは怪しい雰囲気「だったんだろうなあ」。
今喫茶店などでも昭和レトロブームのようなものがあって、自分も大好きなんですが、そこで味わっているものって実際に自分が子供の頃には無かったものです。失われたテクノロジーの雰囲気を再現している場所が、心地いいんです
 

ナゴムの鬱屈魂、墓場から生まれる。●

逆に、自分たちの世代で懐かしいのは、80年代だったり90年代です。ある人はYMOを聞いて育ったでしょう。ある人は頭脳警察を聞いて漏らしたでしょう。ある人はブルーハーツを聞いて飛び跳ねたでしょう。
そして、ここで自分が懐かしく感じるのはナゴムレコードです。
 
参考
ナゴムレコード(wikipedia)
ナゴムレコード(ALL THE OLD PUNKS)
 
今でも多くの人がトラウマ的に抱え込んでいる音楽を量産し、爆発させたとんでもない核爆弾だと思ってます。電気グルーヴ筋肉少女帯、たま、有頂天、ばちかぶり、などなど。アングラサブカル好きな人から、ライトリスナーまで影響を与え続けています。
奇怪さやトンデモな部分から、しっかりした音楽性まで。また、ロックというジャンルから、アニメマンガの現代サブカル文化まで。いわばサブカルの妖怪になりつつある存在*1

ファン層も厚く神格化されるからには、それ相応の理由がやはりあるのです。
電気は特に、今では世界を駆けるほどのDJとしての石野卓球の活躍も話題ではありますが、ナゴム時代の暴れっぷり、安定した音作り、それでいて妙に生活に密着した感覚が特異です。
微妙に陰湿で後ろめたい生の生活の部分を、テクノのリズムに乗せて笑い飛ばしながらぬるま湯につかる。そんな電気の独自な音楽は、20代・30代にとってはかえってリアルな「懐かしさ」を与えてくれます。こっちのほうが、なぜか夕暮れの怪しさを肌に感じるんですよ。
ORANGE
電気グルーヴのアルバム「オレンジ」に収録されている、「なんとも言えないわびしい気持ちになったことはあるかい?」なんかがまさにどんぴしゃです。オレンジはそういう妙なリアルを叩き出している名盤なので、聞いていない人は是非。
 
そもそもナゴムレコードの面々が出す音楽は、文科系青年の鬱屈したものが爆発したパンクでした。昔の電気のアナーキーっぷりは伝説に残るほどです。まあ、さらにアナーキーなのが一世代前にいるので、パフォーマンスでとどまってはいますが。
墓場からのそのそ出てきて、人に不幸をもたらしてケケケケと笑う鬼太郎は、まるで鬱屈した魂が墓場から這い出してきたナゴムの面々のようじゃないか。身近な陰湿さという意味では電気グルーヴ、内面的な欝とトラウマは筋肉少女帯、夕暮れ時のさみしさにたたずむ物悲しさはたま。ナゴムの音楽はいつも前向きで破壊的。
そうだよ、ぼくらにしてみれば、彼らが妖怪じゃないか。心のそこからあこがれる妖怪じゃないか。
 
音はテクノだから近未来的なんですが、その本質が抱えている郷愁の部分が、白と黒で描かれる漫画と恐ろしいほどにマッチしました。まさかこんなOPを見ることができるとは。悦楽です。
レトロ感覚の快感は、マンガ・アニメのさよなら絶望先生でも上手い具合に出されていると思います。あれもオーケンなので、ナゴム発ですね。あと久米田先生の描く絶望の扉絵の影絵は、毎回あまりにもエロティック。
絶望先生の和風の感覚についてはもうちょい掘り下げたいのですが、なんだかんだ言っていつの時代も日本人は、和風の怪しさがもつ色気がたまらなく好きなんです。
あとはそれを、時代にあわせてチョイスするセンス。暗闇の奥でテクノに乗って踊り狂うモノノケ達を必要とする時代が来たのかもしれませんよ。
 
そういえば、不景気になると妖怪ものがはやる、なんていうよく言われるジンクスがありますが、あながち間違っていないような気がしてきました。10年置きにはいる鬼太郎は、今後もいつまでも続きそうな予感。ドラえもんやアトムのようなヒーローと違う方向のダークさを日本人が好み続ける、というのは面白いところです。
墓場鬼太郎」アニメ本編も、鬼太郎の声優が元祖の野沢雅子というこだわりっぷり。しかもどっかの回でピエール瀧が「トランプ重井」という役で出るよ!
アニメ「墓場鬼太郎」OPに電気グルーヴ(路じうらダマシイ!)
これに出ている「トランク永井」がかなりアヤシイ。
蛇足ですが、かつて電気グルーヴ(人生のころ)は、「カランコロンの唄」をカバーしていたことがあります。明らかにわざと間違った方向性で。えーと、必聴ではないです。コアな電気ファンは聴くべき。
 
墓場鬼太郎 (1) (角川文庫―貸本まんが復刻版 (み18-7))墓場鬼太郎 (2) 貸本まんが復刻版 (角川文庫)墓場鬼太郎 (3) (角川文庫―貸本まんが復刻版 (み18-9))
墓場鬼太郎 (4) (角川文庫―貸本まんが復刻版 (み18-10))墓場鬼太郎 (5) (角川文庫―貸本まんが復刻版 (み18-11))墓場鬼太郎 6 (角川文庫 み 18-12)
うああ、全然覚えてないから新鮮に映る。これ集めようかしら。

snow tears(DVD付)
EDはしょこたんでした。いっそここまできたらしょこたんがEDの絵を描いたのが見てみたいです。
(追記)情報ありがとうございます!水木しげる先生画の電気パッケージもう出ているようです。しかし、瀧はそのままなじんでいるのがすごいですなこれ。

ついでにこれも載せておきます。
ナゴムの話人生 ナゴムコレクション
ナゴムを知らない世代の人がナゴムを聞き始めるきっかけができたらうれしいなあー。
だがしかしですよ。電気が墓場鬼太郎のOPなのはすごううれしいんですが、人間椅子の出番はまだですか?
無限の住人のアニメでは期待してもいいですかあああああああ!?
 
〜関連記事〜
「さよなら絶望先生」OPにみる、少女解体とオブジェ観

*1:さらにその前の段階で、今のロッカーにしてみたら妖怪のような存在がいるわけですがっ。