たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

二つの「帝都物語」。藤原カムイ版と高橋葉介版

ちょっと最近になって、好きなマンガが復刻したので紹介しておきます。
高橋葉介先生版の「帝都物語です。
発表されたのは実に1989年。もう15年以上前の作品になります。
それより少し前の1988年には藤原カムイ先生版の「帝都物語のマンガ版が出ています。
これがどちらも、帝都物語という素材を生かしながらものすごい個性を放ちながら、怪しく美しい町帝都を描いている傑作なのですよ。
そんな二つの、まばゆい魔都の物語がまた見られるのは幸いです。
 
帝都物語 [DVD]帝都物語〈第壱番〉 (角川文庫)
「帝都物語」に関しては、いまさら説明するまでもないほどの有名作品。荒俣宏先生が日本の怪異譚や伝説を生かしながら、東京を中心にその攻防を描いた作品です。ちなみに後半は、よくあるイメージの昔の日本ではなく、昭和73年(?!)までいっています。
幸田露伴寺田寅彦森鴎外など有名人が出てくるのも楽しいですし、将門の怨霊や護法童子などの伝奇の人物が暴れるのもゾクゾクします。怪しい街にただよう不穏な空気や陰陽のトリックも血沸き肉踊ります。辰宮家の人間関係も面白い。
 
だが、だがしかし。この作品最大の魅力で、多くの人の印象に残っているのは、やはり魔人、加藤保憲に他なりません。
特に映画版での嶋田久作のイメージはあまりにも強烈。嶋田久作=加藤という印象があまりにも強くて、他のドラマを見てもそのつながりを払拭しきれないほどのはまり役なんだものなあ。
 

藤原カムイ版「帝都物語」●

マンガも時系列に並んでいて、最初にくるのが藤原カムイ版です。
何種類か出ていますが、「凍結版」がベスト。印刷や内容の整理の関係で、一番しっかりまとまっています。

表紙に描かれている魔人加藤も、映画版で嶋田久作が演じた強烈なイメージどおりなのですが、実はこの本が描かれたのは映画版のキャスティング発表前なのでした。完全にオリジナルで描いたキャラデザ、ということです。
なのにこのイメージのシンクロ率!世界加藤コンテストやってもこんなにはまり役なことありえないですよ。カムイ先生も「驚愕!!」と書いていました。

藤原版帝都物語でも、魔人加藤の軍服の色っぽさや、貪欲な瞳はこれでもかといわんばかりに描かれています。
もうね。真似したくなるよね。手袋にドーマンセーマン描いて手をかざすの。まあ自分は軍手とかレベルですが。
 
はて、藤原カムイ版では加藤に加えて、辰宮一族に焦点が当たっています。
東京を霊的に改造していることに気づいた辰宮洋一郎霊媒体質のため依童に選ばれてしまった巻き込まれの娘由佳里、加藤にはらまされた娘でやはり霊媒体質の雪子と、退廃的な臭気満載な一家です。ほのぼのだね。

特に由佳里の巻き込まれぶりはいっそ気持ちいいほどです。
霊的な生物達に翻弄され、うごめく蟲に囲まれる美しい少女の姿。
しかも兄との関係もなかなか複雑で、エロティックな魅力があふれています。

日本の、あの魔が蠢く世界での美しい瞬間。
そこに縫い付けられた兄妹の姿。
魔人加藤の激しさと対比する、禁忌の美しさを感じるキャラクターとして藤原カムイ先生はこの一族を描きます。

また娘の雪子がすごいんだ。作られ、利用される少女であり、かつ相手をねじ伏せるような威圧感を持っています。
藤原カムイ先生の描く少女は、そういう特殊なオーラを持つことが多いです。このキャラもその魔力をはちきれんばかりに持ち合わせています。
この子の生い立ちはいろいろわけあり。ネタバレなのでここは見ていただくとして。
そして雪子は、続く高橋葉介版の主人公になっていきます。

もう一人の主役が目方恵子。加藤を倒すために辰宮家にやってきた妻です。
彼女もまた、高橋葉介版で重要な役割を果たしますが、藤原カムイ版でも非常に美しく凛々しい、魔を払う女性として描かれています。
 
目方恵子と、辰宮由佳里。この二人の対称的なキャラクターと立場、そしてそれを手中にしようとする魔人加藤のかっこよさが、魔の都いっぱいに広がるこのエクスタシー。それでいて古臭いではなく、新しさとセンスのよさを持った藤原カムイ先生らしい、スピードのあるポップさにも満ちています。
ちょっと新しく、ちょっと昭和の奇怪な美しさを詰め込んだ、日本ならではのマンガだと思います。
 

高橋葉介版「帝都物語」●

帝都物語―ワイド版 (高橋葉介ベストセレクション)
そして、復刊した高橋葉介先生版。時代は二次大戦前後の日本になります。
ところで、高橋葉介先生といえば、もうあのキャラですよ。

そう、夢幻魔実也夢幻紳士の主役で、少年キャプテン版のドタバタ喜劇から、怪奇編のホラーまでこなす、美しい青年です。
ああ、今見ても魅力的すぎる。80年・90年代らしさをあらわす代表的なキャラだとも思います*1
このキャラがストーリーテラーとして物語を進行していきます。

主役は先ほど述べた、由佳里の娘の雪子。前作では幼く無垢な少女だったものが、ずいぶんと変わったものです。すっかり女してます。
つったって、こんな魔の都で、しかも混乱を極めた辰宮家で生きていくにはそのくらいの精神力が必要なわけですよ。読んでいけば彼女がどんな少女なのかよくわかります。
高橋版ではその雪子の魅力と、もう一人の凛々しい女性、目方恵子を軸に物語は進んでいきます。強くなければ生きていけないのです。

もちろん、魔人加藤の怪しさも健在。
常に何かに影響力を与えている不可思議な男としての印象が強いかもしれません。それは、もう一人強烈な力を放つ男が登場するからです。

それが、謎のイタリア人トマーゾ
このキャラクター、高橋先生ならではのデザインと気持ち悪さ。ここまで生理的に嫌悪感が強い上に、対処法に困るキャラを描けることに感服です。じっと見てたくないです。絵柄だけではなく、そのねちねちとした行動自体が嫌味たっぷりで。しかも理解がしずらいので余計に見ていてイヤになる。
だから、加藤は怪しいけれどこちらでは、人間味が強まります。相対的なものでしょうね。トマーゾと比べたらそりゃもう。加えて、もう一人のヒロインである目方恵子の芯の強さが彼の周りにあるから、ともいえます。恵子と加藤の関係は必見。高橋葉介先生だからこそ描ける大人の関係を見ることができます。
 

●未来から見た、魔の都のエクスタシー●


高橋葉介先生の真髄は、やはりこういう怪異と女性のコラボです。
藤原カムイ版でその凛々しさと魔を払う戦いを、高橋葉介版で退廃感あふれる日本と魔の美しさを堪能してみる。
そんな21世紀は幸せいっぱいです。
もうかなり前のマンガではありますが、藤原先生・高橋先生ともに世界観が人一倍強い作家さんですので、今読んでもまったく古さを感じさせません。むしろその魔都の様子と魔人の姿は、改めて読むと目新しさに満ちています。
できれば続けて読むのをオススメいたします。カムイ版は廃版ですが、比較的中古で手に入りやすいハズ。

 帝都物語―ワイド版 (高橋葉介ベストセレクション)
ほかに川口敬先生も描いていたそうですが、単行本化していないので見たことないです。
にしても加藤保憲は、日本が誇るダークヒーローの代表格の一人だと思ってなりません。憧れますよねえ。軍服かっこよすぎるんだってば。

*1:あと、東京バビロンとか吸血姫美夕とか…