たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

女の子、冷静に男を見る。関谷あさみ「a blow of groundbeast」

一応エロマンガ話なので収納。
 
 

●男という名の下等生物へ●

エロマンガってどうしても男性優位のものが多いように見られますが…うん、実際男性優位だと思います。そりゃそうです、基本男の子向けなので。
しかし近年は女性でもエロマンガを読む人は増えていますし(というか昔からいたけどネットのおかげで堂々と言えるようにもなった)、女性に優位に立たれたい男性もまた多いので、女性視点のエロマンガも目立つようになりました。
とはいっても、どうしても男性だと見えない部分があるものです。男女は永遠に、「完璧に理解しあえる」事はあり得ません。だからこそ面白い。それを掘り下げようと出来るエロマンガは。
女性、特に発達途上でしっかりとした愛や目的が分からない段階の少女の心理を描く作家、関谷あさみ先生の短編「a blow of groundbeast」は、男性視点としてはなかなか強烈が作品でした。
題名を直訳すれば「下等生物への打撃」
男女が付き合うとき、それぞれ相手をどう思うかというのはとても興味がありつつ、一番おっかない所でもあります。あれ、今付き合ってるけどほんとに好きなのかな。俺に惚れ込んでるけどこいつバカなんじゃない?私の腕の中でえらそうにしてるけどほんと騙されやすいよね…。なんて思ってたりするかと思うと、もうね。怖いね。
少女は、相手の男をどう見ているのか、ちょっと覗いてみましょう。
 

●ぶぁーか●

年の差カップルをメインに描く関谷先生。今回も男性が年上、少女はずっと年下。
そんな二人が睦み合っているのですが、流れが一発でわかるコマをちょっと引用してみます。

ぶぁーーーーーか。
この照れた顔とセリフのギャップをドンとたたき出すことに、驚きます。
いやだいやだといいつつ感じてるんだろ?ほれほれとかやってる男側に対して、赤面しつつ口ごもりながら、実際に思ってることは「ぶぁーか」
やってることは結構ハードなんですが、この冷静でかつ冷ややかな視線が繰り返されるのがあまりにもおもしろい。
年の差や男女の差を手に取って、「おれがリードしている」と思っていたら手痛いしっぺ返し。女の子がいっつもテンションマックスになるたぁ思うなよ、意外とドライに見てるかもしれないよ。
 

この関係をエロマンガで描いちゃうこと自体がすごいです。男性だったらなるべく考えたくない部分ですが、女性視点で丁寧に描くとこんなにも面白いのかっ。
セリフ回しがあまりにも見事ですよね。
「なんて思ってる事もこの人は気づいてない」
そう、色々冷静な視線で見ながら「わかってないよね」と流すのです。
 
エロマンガで、お互いがエッチに没頭し本能のままに行動するのはとても見ていて楽しいです。
しかし、こういう風に自分と相手を、もう一人の自分の視点から見る描写が、特に一部の女性作家は本当にうまい。関谷先生もそうですし、あと宮内由香先生もすごく落ち着いた目線を入れたりしますね。

顔は紅潮し、体もほてっているんだけれども、そんな自分と相手を別の、なんだか遠く離れたところから淡々と見ています。
そう、相手は下等生物。私よりも劣っている。
呪文のように黙々と唱えられることで、二人の心理状態がどんどん興味深くパズルのようになっていきます。
切り離して「劣っている」とすれば確かにバランスは保たれるのだけど、体はどんどん流されてはいるんですよね。少女は無理な安定のためにそう念じているのか、あるいは本気で男をバカにしているのか、一瞬読者が分からなくなります。
そんな二面性を常に保っているのがあまりにも強烈。裏と表をいっぺんに差し出されるのです。
 

●下等生物とわたし●


実際、ダメな男なんだと思います。特に年の差カップルで、年上の男性のダメな所を見ると、少女側としてはものすごく軽蔑や落胆の気持ちが芽生えるわけです。
多分この男は「ごめんね、ひどいことしてごめんね。大丈夫?」とか言うんですよ。「あー、またかーばかだなあ」と思いながら「うん、大丈夫」と受け入れるのは少女側。
自分の中で育っている、大人の女性の感覚に戸惑いながら、少女は男性を見ます。下の存在として見ます。
そうすることで、相手を支配できる。
 
エロマンガは支配・被支配、服従・被服従の図式が裏側に隠れている場合が多いですが、その普段隠れてしまう部分をモノローグと絵柄のギャップで描くのが面白いのなんの。エロマンガならではの人間描写です。
あと、少女ならでは、というのも付け加えておきましょう。

それの両面を分かって読者が読むもんだから、この表情が本当に最高。最後まで読んだ後もう一度読むとぐっときます。
なぜこの関係が成立しているのか、というのが一番の疑問になります。そこまでけなし、バカにした視線で見ているのに、なぜこの二人はこの場所にいるのか?それは最後の最後で分かるようになっています。まーその見せ方がまたうまいんだ。
 
ここしばらく関谷先生は他の作品でも、少女と青年が激しく情をかわしながらも、少女側の心が別の所にある描写をしていました。
「心」と「体」というものが本当に別なのか、それとも連動しているのかという問いは白黒で分けることが出来ません。ましてや不安定な少女期ならなおのこと。
「繊細な」という表現だけではあまりにも言葉足らずなほど、アンバランスな危うさを潜めた関谷あさみ作品。男性が読んでも十分興奮できるのですが、是非とも女性に読んでいただきたい作品だと思います。
 

RINで関谷あさみ先生が、ひたすらに少女を追求し続けてくれていることが、自分としてはあまりにも嬉しいです。「リアル」と「かわいい偶像」、色々な角度の少女像を、エロありで探求し続ける作家さんがいることに心から感謝。
それにしても関谷先生の描く女の子の、柔らかいことよ。
 
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純粋かと思っていたら意外とすれている。
すれているかと思ったら意外と純粋。
少女という存在は、男から見ても分からないし、女からみてもわからない。それが魅力。
 
女性が見る少女像と、男性が見る少女像の差異について、非常に面白いWEB拍手があったので、明日以降にご紹介させていただきます。