たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

無口な女の子ってかわいいでしょ?何でだと思う?「森田さんは無口」

●無口キャラ●

無口キャラ、ってのは一大ジャンルにもなっていますね。
綾波レイをはじめ、ルリルリとか、長門有希とか、タバサとか。
まあどちらかというと「無口」と言うよりも「クールビューティー」と言った方がいいでしょうか。
無口な理由はたくさんあります。話すことがないから。相手に興味がないから。自分のペースがあるから。
そして、森田さんは全く別なタイプの「無口」っ子なのです。
 

●好きで無口なわけではありません。●

森田さんは無口 1 (1) (バンブー・コミックス MOMO SELECTION)
森田さんは無口」のヒロイン、森田さんは、無口です。
しかし、どの回も必ずこういう書き出しで始まっています。

女子高生 
森田真由(16)
人よりちょっぴり
無口です。
 
好きで無口な
訳ではありません。

そう、彼女は無口でいたいわけではないんです。
彼女は感受性が豊かで、とても人のことに気を向け、人一倍やさしい子です。
だからなんです、だからこそ話すタイミングを逸してしまうだけなんです。
たとえばこんなシーン。

結構これは経験したことがある人も多いのではないでしょうか。
言いたいことはいーっぱいあるんだけど、でもどこから話し始めればいいか分からない。自分から話すタイミングが分からない。言ったら迷惑かな?話したら笑われるかな?こう言ったら傷つくかな?この言葉で正しいかな?かな?かな?

言葉のつまりがスパイラルを産み、思考は混乱。
なんてことはない、考えずに話せばいいだけなのですが、その一歩が踏み出せない!
ちゃんとしたこと言わなくちゃ、きっちりまとめて話さなくちゃ…そんな風に思っているうちに、話すタイミングは消失してしまうのです。
これが彼女が無口な原因です。
 
無口なキャラ側の心を真っ正面から描くと、こういう場合もあるのです。
読んでいてハラハラ、見れば見るほどドキドキ。心配なパパ気分で森田さんを見てしまいます。がんばれ!がんばれ!
でも話せない。昨日も今日も明日もあさっても。
でもね、それでもいいんです。
このマンガはそんな無口な森田さんを巡るたくさんの「誤解」と、ほんわかする「和解」で出来ています。
 

●無口を巡る誤解●

無口である、ということは「色々な妄想をされる」ということです。
ひどい言い方ですね。でもそうなんです。いい意味でも悪い意味でも「何考えているんだろう?」と周囲に考えられてしまうわけです。
この作品は視点が森田さん視点と周囲視点で瞬時に切り替わることで、そのギャップをさらりと描いていきます。
たとえばよくあるこんなシーン。

この思考フキダシがやじるしフキダシ(ようは口に出したセリフ)だったら、なんてことのない普通のシーンです。つまり、森田さんの中ではこれは普通なわけです。
しかし彼女はこれを口に出しません。となると誤解も招きます。
どんな誤解を招いたかというと。

やっぱそうなりますよね。
「目は口ほどにものを言う」なんて言いますが、口があるからこそ伝わるのであって目だけではあらぬ誤解も招くという物です。
最初に森田さんの本音、その後に周囲の誤解、という切り返しが笑いを誘いつつも「ちょ、森田さんかわいい…」と彼女の魅力をぐんぐん引き上げていきます。
これが森田マジック!いや、本人意図してないんだけども。
 
特に男子にとって、この彼女の無口っぷりは数多くの妄想を産みまくります。
だってね、そりゃ「分からない」んだから「考える」しかないわけですよ。
女の子が話さず物思いにふけっていたりとかしていたら「何考えているんだろう?」と考えるでしょう。将来のことかな?恋愛の悩みかな?
普段の生活の中でも、声を出さないことが艶を帯びるという、男の都合のいい妄想力は働きます。働くんだって。しかたないんだって。

ね、仕方ないでしょう?!
まあ森田さんにしてみたら失礼千万な話でありまして。いわば「話さない子だから勝手にどきどきしちゃうよ」ってなわけです。
森田さんが周りの誤解を全部知ったら、そりゃあもう怒るでしょう。いやがるでしょう。私そんなこと思ってません!えっちなことはいけないと思います!
ごめんね、ごめんね森田さん。えっちなこと考えてごめんね!
でもね、でもね…。

こんな表情を無口なまま見せられたら…。

だよな、だよな。ですよな。
ああごめん森田さん。
無口なのをいいことに、ぼくは勝手にあなたに「萌えて」ます。
 

●無口だから伝わる思い●

誤解だけではあまりにも森田さんがかわいそうです。
それだけではきっと「ひどい」誤解もどんどん受けていくでしょう。
しかし、この作品がいいところは「無口故に伝わることもたくさんある」ことをしっかりと描き、彼女の本当の魅力を「理解」や「和解」で表現しているところです。
 
「沈黙は金、雄弁は銀」なんて言いますが、それは単に「話さないのが偉い」というわけではありません。
物事をじっくりと自分の中で考えているだろうか。
自分自身を省みて、自分への問いかけをしているだろうか。
相手の話を相手の立場になって聞き入れているだろうか。
相手との心の通じ合いを、語り合う以上のもので得ているだろうか。
それが「沈黙」なのです。
そして、森田さんはそれが出来るからこそみなに愛されるのです。

森田さんは相手のことをよく観察します。相手の話を最後まで聞きます。
自分の思いは表現できないかもしれないけれども、決して相手をないがしろにしません。傷つけることは言わず、自分の中で思いを整理しようと必死になります。
それは相手にとってどれだけ救いになるでしょう。

そして、それを自慢しません。それを誇りません。
それが、森田さんなのです。
 
もちろん森田さんだってたくさん表現はしたいのです。
したいけれども、まずは相手のことを考える。どうすればいいのか、どう接すればいいのか。それを真剣に考える人の沈黙は、ちゃんと伝わるよ。ちゃんと相手に伝わるよ。

森田さんは本当に他のキャラと会話を交わしません。本当に全編を通して、ほとんど会話をしません。
しませんが様々な形でみんなとコミュニケーションをとります。無関心で逃げるわけではありません。コミュニケーションを嫌がっているわけではありません。むしろ誰よりもコミュニケーションを大事にしている子なんです。
言葉を越えた関係を築くことの出来る少女だから、森田さんは「無口でかわいい」のです。
かわいいよ。すっごくね。
 

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本当に魅力的なキャラというのは、じわじわと内面からしみ出てくる魅力がちゃんと描かれているんだということをしっかり教えられる、そんな秀作なマンガです。
きっとこれを読み終わったときには、みんな森田さんが親友になっていることでしょう。
え、恋人?んー、恋人…むふ(無口故への勝手な妄想が始まる)…あ!いやいや、なんでもないよ?
自分は「むだなくらいよく動く子」の方が好みなのですが、今回に限っては完敗です。森田さんかわいい。ただ一緒に黙って座って二人で音楽でも聴いていたいよ。

折り返しのカラーでヘッドフォン裸足森田がいるあたり、にくいね!
無口少女の魅力が存分に詰め込まれた一作なのです。
 
そういえば4コマでいうと「らいか・デイズ」のらいかも比較的(自分のことに関しては)無口ですね。でもやはりしっかりしているから愛されている。
人の心って、伝わるものなんだなー。
 

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ものすごい余談ですが、「沈黙は金、雄弁は銀」に関しては、色々な解釈方法があります。かつては金よりも銀が価値があったので「雄弁のほうが優れている」という意味が含まれていたりとか。ただ一つ言えるのは雄弁には価値がある、克己する沈黙にも価値がある、という点でしょう。
森田さんがただしゃべらないだけの子だったら自分も惹かれません。彼女がきちんとした考えを持ち、タイミングを逸しながらも自分の中で黙すことをも知っている子だからこそ。
この作品には「雄弁」の代理人のようなキャラとして、クラス委員の山本りつきちゃんという子も出てきますが、彼女もとても魅力的。そう、どっちもいい。そのバランスが最高なんです。