たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

糸目少女のかわいらしさへの挑戦。鬼束直「close to you」

糸目キャラって数自体はそんなに多くないんですが、結構強烈な印象を残す場合が多いと思います。
糸目で定番といえば、河合克敏先生でしょうか。ほぼすべての作品に糸目キャラがいますね。男女共に。
あとはパトレイバー内海課長とか、某モンスターのタケシとか。
比較的冷静だったり、大人っぽいキャラが多いと思います。というのも表情がわかりずらいんですよね。目は口ほどに物を言うというのがそのままで、目がないわけです。そりゃ感情も分からなくなろうというもの。
そして逆に言えばだからこそ、糸目キャラが感情を見せる時には深く印象に残るわけですが。
 
さて、エロマンガで糸目というのは、かなりデメリットが大きいです。
なんせ、目はエロいんですよ。目玉の表現でエロさ左右されるんです。
しかしそこであえて、鬼束先生は糸目に挑みました。
「あえて」糸目に挑んだ鬼束先生の、少女像への飽くなき探求心をちょっと見てみます。
 

●糸目が繰り出す人間性

まあ身体的特徴なので、糸目=冷静、とか、悪巧みしている、とかってわけでもないです。単に目の開きが小さいだけの話です。
しかしマンガ的には意味があります。こと、少女をエロマンガで描く時、それはキャラパーツの一部であるだけではなく、少女の心理そのものをも表現します。
たとえばこんな表情。

かなり印象の強いシーンです。「こんな子いるわー」と思った人も多いのではないでしょうか。
 
糸目である、ということは眼球がまぶたに覆われている、ということでもあります。
だから、顔に表情が浮かぶときには瞳孔こそ見えないものの、目玉の辺りがぷっくりするんですよ。このシーンでは意図的に拗ねている子供っぽさを、頬や口周りのみならず、目のあたりのふくらみで表現しています。
この一枚で、「糸目=目をかかなくて楽」ではないことが分かるんじゃないかと思います。むしろ逆、糸目で感情表現するのはものすごく細かなテクニックを要します。
 

同じ子でも、笑うとこんな表情になります。
この場合でも目はまぶたの下にあるので、ちゃんと膨らみのラインが描かれているのが細かいです。
このコマだけだと、笑顔としてはごく普通なのですが、先ほどのような強ばった表情が多い子だからこそこの弛緩力がものすごく際立つ仕組みになっています。
 
怒り、笑い、ときたら、泣きですね。

ここでも眼球の形と顔の筋肉は相当意識されています。
この3通りの表情を見ると分かると思いますが、この糸目キャラは自然体で糸目であるのも確かなんですが、何かしらの「壁」があります。
 
瞳が見えないことで感情の本音が見えない、というのは読者とキャラだけではありません。キャラ同士でも分からないんです。
逆に言えば、その壁を越えてわかり合えば糸目であるがゆえに「この二人だけの間でわかり合っている」という空間が出来るわけです。
眼球が見えないことでその子は外界に対して虚勢を張っているように見えるかもしれないけれども。
相手の男の目を通して、この少女は感情を露わにするのを感じることが出来るのです。
まさに、自分と少女だけの誰にも不可侵な空間。他の誰も知らない彼女を知っている…恋愛の味です。
 

●ぼくしかしらない、あの子のホンネ●

この糸目少女、今までの鬼束作品の中においても屈指の表情の豊かさを誇ります。
今までは、意図的に表情があまり変わらないことで大人びた少女像を描いたりしてもいたのです。しかし、今回のこの子は鬼束作品で最も年相応の幼さを持っているように思えます。
無論、手放しで幼いワケではありません。
自分(男性キャラ)との関係がしっかりしているからこそ、その幼さが映えるのです。
 
先ほども書きましたが、糸目であるということはその向こうに、誰も見たことのない瞳がある、ということです。

情事前のシーンなんですが、落ち着かないわけですよ。
幾ら大人ぶったって、どんなに子供っぽくしたって、そこにいるのが好きな相手で、どう接すればいいか常に分からないままなんです。
そこにきてこの瞳!レアな瞳描写。
この子の真のホンネがこの表情にこもっている瞬間が、切り取られているんです。
 
実際問題、このコマだけだと「美人顔」の作りではないんです。
むしろもっと泥臭くて、生々しい人間の温度を持った表情です。鼻の穴まで描きこんでいるあたりから、それが意図的にされているのが分かります。
そして、糸目状態の時のかわいさと、この表情のリアルさが相まって「美人顔」じゃないけど「ものすごくかわいい」「愛しい」という感情をくすぐります。
そりゃもうね。「自分にしか見せない表情」をオープンにする子に愛情注がないわけにいきませんて。
 
それでも彼女には、ちょっとだけ壁があるんですよ。
それは彼のことを「先生」と呼び続けること。どうしても恋人関係になりきれず、今まで慣れていた「先生」呼びで終始一貫しています。
しかし、最後の最後にその壁を、がんばって乗り越えるわけです。

あかん、これは。
恋に落ちる。落ちるよ!ぼく(男性キャラ)のために乗り越えてくれたよ!
 
表情が見えないことを使って逆に表情を描き、壁があることでさらにその二人の間を密着させ、読者を疑似恋愛体験にたたき込む。
見事であります。
ころころ変わる表情の繊細さは是非見て欲しいのです。
またキャッチコピーがいいんだ。
「糸目少女の瞳の色は、たぶんきっと澄んでいる。」
そしてそれを見ることができるのは、自分(読者)だけなのです。
 

●「少女」に挑戦しつづける作家、鬼束直先生●

鬼束先生のスタンダードみたいな少女像ってのはやっぱりあります。得意としている女の子像、と言った方がいいでしょうか。
明るくて、大人を振り回して、幼いのに「大人の女」の誘惑性を持っている。そんなキャラクター達です。
今回はそれを大きく毛色が違い、新たな「かわいらしさ」「少女らしさ」に挑んでいる気概を感じます。
今までも「描きやすいキャラ」だけではなく、様々な少女像に挑んでいるのがこの作家さんから分かるので、少しだけ紹介してみます。
 
たとえば、「HugHug」に出てくる女の子。普段の鬼束キャラよりちょっとぽっちゃりさんです。

このシーンだけでただならぬモノを感じた人がいたら、それは少女レーダー敏感な人だと思います。
この子自体、絵の雰囲気からしても幼い少女なのはわかります。が、この瞳の様子、子供ではありません。大人の女性のそれです。
色々少女を描いている作家さんですが、おそらくもっとも精神年齢が高く、かつ独自のテンポを持っているのがこの子でしょう。このあと、完全に彼女のペースで男性は流されていきます。SとかMじゃなく、まさに「男と女」。
だからこそ、ロリコンじゃない人が読んでも反応しちゃうのよね。
 
逆に、すごく生々しい少女臭をたたえていたのが「あーちょっと待ってみようか」の子。

このシーンでピクっときたらロリコンであることを自覚していいと思います。
鬼束流の「美人顔」じゃないわけですよ。意図的に細かい部分をいじって、マンガ絵を限りなくリアルな少女の存在に近づけようとする試みが見られます。
とことんまで記号的な「かわいさ」を省いているんですよね。服は信じられないくらいに質素で、かつ「ありそう」です。髪の毛もツインテールなどのファンタジーではなく、どこにでもいそうな髪型。
普段は「かわいい子」として、キュートな髪型やおしゃれな服装を描く作家さんなだけに、この回のリアルさは強烈でした。
性格は大人びているので、そのギャップに振り回される男性のロリコンっぷりがどんどん際立ちます。題名もいいですよね。男の情けなさがじわじわ出ています。
 
ロリコン系のマンガの中でも、かなりリアルよりの絵柄の鬼束先生ですが、同時にロリコンだけではなく多くの男性が持つ「受け入れて欲しい」というファンタジー的な欲求を満たしてくれます。そこがすごいんだなあ。
時には男性視点を通してものすごく大人女性に見えるんですが、時折少女らしい気まぐれさを出すのが絶妙です。
「ロリマンガは興味あるけど、痛々しいからやなんだよなあ」という人はこの作家さんから入るのがいいのではないか、と思います。
そしてロリマンガの表現の面白さを味わっちゃえばいいじゃない!
 

 
今月は神号だったね!(毎月言ってる気がする)
東山翔先生のもステキでしたが、個人的にせきはん先生はたまらなく好きなので、その持ち味である少女同士の関係がにじんでいて大満足でした。単行本出るまで描いて欲しいなー。
そして、上田裕先生はどんどん伸びますね。スタンダードながら確実に力をつけている作家さんなので、単行本出たらすごい売れそうな予感がします。需要を満たす作品、です。
バーぴぃ先生のトんだ設定の背徳感もよかったなあ。あとオオカミうお先生のスパッツは最高でした。最高でした。