たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

いつもマイペースな里見英樹さん。

今知人の家に泊まっているのですが、そこで里見英樹さんの話で盛り上がっていました。
漫画をよく読む人であれば、観て一発で担当した本がわかるくらい個性溢れるデザイナーさん。
よつばと!を初めとして、色々なデザインを手掛けているわけですが、観ていてぼんやりと「里見さんだな」と感じるのはセンスが良いというより天才的な個性を持っているんだと思います。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%88%E3%81%A4%E3%81%B0%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%82%B8%E3%82%AA

こうして一覧を見ると、あーなるほどーと。
 
その里見さん、非常にトリックスターっぷりが面白い。ようするに嘘とネタをごちゃまぜにして、どこまでが本当なのかわからなくしてしまう話術があまりにも見事。もちろん観る人が「面白っ!」と感じるようにしている・・・んですが、本人とあずまきよひこ先生が楽しんでいるとしか思えない。というかあずま先生は里見さんの影響ばりばりうけてるんだなー。
 
詳しくはこちら。
里見英樹といふ人の才能 - フラン☆Skin はてな支店
 
2000年から電撃大王で連載されていた「よつばスタジオ繁盛記」を読ませて貰ったのですが、これもまた痛快というか、漫才状態。編集もされているんでしょうけれども、きっとかなりの部分里見さんの素のような気がします。もちろん繁盛記的なことは書かれていません。里見ワールドというべき言語センスをたたみかけるように積み上げていくのが爽快。

A「あんたはいつも知識の使い方が汚いよ!」
S「てゆーか、おしっこをする穴とうんこをする穴は判るんだけども、もう一つの穴は何に使うの?」
A「きききき汚いことを言うなあ!」
よつばスタジオ繁盛記 vol.4 より)

会話を噛み合わせる気がないというか。素晴らしい。
エッセイになるとさらに里見全開。とにかく「本当」っぽいんですよ。
ものすごく知識のある方なので、難しい用語や時々まじる「本物」がいかにもリアル。ホントにそう話しているっぽい。
っぽいんだけど、まじめであればあるほどオチがひどくて、最後の最後に「・・・だまされた!」となります。

会社のロゴを作るときに最初に考えたのが「四つ葉のクローバ−」をモチーフにしたものでした。もちろん、社名の「よつばスタジオ」からの発想です。
(中略)
そのとき思いついたのがロジェ・カイヨワの「遊びと人間」という本で提唱されていた「遊び」の4つの要素、「競争(アゴン)」「運(アレア)」「模擬(ミミクリ)」「目眩(イリンクス)」のことです。これは会社をやっていくなかで関わってくることにそのまま当てはまります。「競争」と「運」は語義どおりだし、「模擬」は社会人として必要な社交辞令、「目眩」は会社というシステムに翻弄されてオロオロする様子・・・。カイヨワが唱えた「遊び」の4つの定義が、そのまま会社の活動姿勢に一致したわけです。
(中略)
これでロゴの秘密がお分かりになったでしょうか? もっとも僕にはどうみてもメガネとオッパイにしか見えないのですが。
よつばスタジオ繁盛記 vol.2 より)

最後の一文で今まで書いてきたまじめっぽいことが全て台無しに。
むしろそれが本当かどうかすら怪しい感じになります。ああ・・・なにを企んでいるかさっぱりわかりませんがなんだろうこの騙された後の爽快感。

S「こういうふうにサラリーマン的なものをタテに、ムチャ言う人間を上手にあしらうのもクリエイターの大事な能力だ。正しいことばっか言ってると、世の中ですぐに潰されちゃうよ?」
A「そういう子供みたいな社会批判はやめろって言ってるんだよ!」
S「もういい加減コドモ扱いするのはよしてよ!」
A「だったら大人になれよ・・・」
S「お兄ちゃん・・・わたし、もうオトナなんだよ?胸だってホラ、こんなに・・・」
A「・・・・・・」
S「いつになったらわたしのこと一人前の女の子として見てくれるの・・・?」
A「それは永遠にムリだと思うが・・・」
S「わたしの気持ちに気付いてるくせに、妹あつかいするのはもうやめて!」
A「気持ちって・・・」
S「印税を少しわけて欲しいの・・・・・・」
A「やだよ」
よつばスタジオ繁盛記 最終回 より)

言いたい放題けっこう批判的なことも書きまくる里見さんですが、こういうネタのおかげでいやみが全然ない。計算されてというより、単にこの適当さ加減を楽しんだり楽しませたりしている感じがするのですいすい読めます。まあ「やだよ」って言いますわな。
 
この「よつばスタジオ繁盛記」、余りにも面白いので、是非今こそ本にしてほしいです。どうですか電撃大王さん?
 
まあこれは2000年の話なので今はだいぶたっているのですが、2009年5月の雑誌「アイデア」でインタビューが載っています。
こちらはかなり真面目なのですが、それでも後半どんどん里見節が。

(里見)自分の編集者としての視点から、自分の装丁を客観的にみると、評価は恐ろしく低いです。どれを見ても「これぐらいなら自分でもデザインできる」程度のレベルを脱していませんから。
(インタビュアー)それは自分でやってるのだから当然なのでは?
(里見)一応、いまのは笑うところです。
 
(アイデア 2009年5月号 より)

大分丸くなったとはいえ、全部自分のペースに持って行っちゃう里見さんすごい。
 
個人的に一番好きなのは、先ほどのエントリにあったこれ。

3月24日(水)  春

「猫って咲かないな」 

里見さんが(以下略)。 

「はい?」 

「春になると花が咲くだろ? 

 なのに猫はどうして咲き乱れないんだろう」 

「さあ…」 

言語センスの切れ味がまったく他所の世界に行ってしまっています。
 
だからこそ、あんなに面白いコピーとデザインができるんでしょうな。
うーん、このセンスうらやましい。