たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

「萌え4コマ」と「ファミリー4コマ」の境界線ってどこだろう?

かたぎりあつこ先生の「ハッピーカムカム」がとても楽しいです。まんがタイムジャンボで連載し、実に4年越しでやっとでた単行本です。
「家庭的な女の子になろう!」という女の子達が集まって、家庭的部(not 家庭科部)を結成する漫画で、出てくるのは超個性的女の子ばかり。当然、家庭的の典型のような女の子はその中におらず、もじゃもじゃ・・・。という展開。
めがねで料理がうまいけど致命的なミスの多いおっとりしたちえり、自分を家庭的だと思ってはばからず大きく道を外れる黒髪ロングのみずき、ショートカットでさぼり魔っぽいわりに突っ込み要員で熱いあみ、女の子っぽく見せかけて堂々と腹黒っぽさを晒すハナエ、ちっちゃくて家庭科万能でも子供にしか見えないホコ。
キュートな中学生のはちゃめちゃライフ!
…って書くとすごく萌え系4コマっぽいんですががが。
 
後書きがちょっと面白いのです。
かたぎり先生、萌え系4コマの可愛い女の子が大好きで、そちらに行きたくてメインキャラ設定を作ったそうです。
確かにこうしてみてみると、萌え4コマのフォーマットを踏んでいるキャラはいますね。
ところがどっこい。

後書きより。
かたぎり先生、連載であることに加えて「萌え4コマ」を意識して相当苦しまれたようです。
掲載誌が「まんがタイムジャンボ」であることを考えれば分かるのですが、こんな続きが。

「萌え4コマじゃなくて、やっぱりどーしてもファミリー系ですよねー」
ふあー、やはりというか、芳文社内では「きらら枠(萌え枠)」と「ファミリー枠(タイム、ジャンボなど)」を何らかの基準で分けて考えているようです。当然、作家さんも。
 

●「きらら枠」の「萌え」●

どこかで似たような展開を見たぞ?と思ったら、「となりのなにげさん」でした。

気づけば手助けしてくれるこの娘が…愛しい!「となりのなにげさん」
これも後書きで、「萌え4コマ」を狙ったという裏話があります。

となりのなにげさん」は、なにげさんという神出鬼没に人を助ける、特殊なヒロインを中心にした4コマ漫画です。
女の子がたくさん出てくる漫画で、ヒロインもとてもかわいいので一見すると確かに「萌え4コマ」っぽいのですが、芳文社の見解は非常に明快でした。

5秒で萌え失敗。
そして、ファミリー向けのホームで大受け。
これはなかなか、興味深い線引きです。
 
なにげさん自体を最初から作者は「きららに持ち込もう」としているので、作者側の意識としては「萌え4コマ」だったわけです。
芳文社側では「これはきららではない」「ファミリー向けとして優秀」という判断をしているのがポイントだと思います。これは「ハッピーカムカム」以上に、はっきりと見切っているみたいですね。

となりのなにげさん」にあって、萌え4コマにないもの(あるいはその逆)を考えれば、「萌え4コマ」のラインが見えてくるんじゃないかと思います。

1・時間の流れがない。
萌え系4コマでももちろん曖昧な物はたくさんありますが、それ以上にサザエさん時空が徹底されていることが多いです。ファミリー向けの方が長期連載を視野に入れているから、というのが主な理由ではないかと。
 
2・一人目立つキャラクターがいる
主人公がものすごく明快です。萌え系4コマは複数人がそれぞれ交わりあうことで展開する物が多いので、明確な主人公がいない場合が多々あるのですが、これは「なにげさん」がドラ○もん状態なので分かりやすいです。
 
3・毎回のパターンがある。
OPに一定のパターンがあるのでどこからでも読める、という親切設計な作品がファミリー向けにはいくつかあります。これも「必ず」ではないですが、萌え系にはあまりない設計。

このへんじゃないかと。
 
「萌え系」4コマの場合、一番重要なのは「かわいいか否か」ですが、かわいいって外見のことじゃないんですよね最終的には。
それぞれがお互い、どういう関係をキャラ同士に抱いているか、ここでかわいらしさが決まると言っていいと思います。
なので、萌え系4コマは、場が非常にクローズドです。主人公達だけの世界になることが多々あります。
 
考えてみれば中高生の視野は子供視点なので、友達の枠から大きく外に出ません。なので「知らない人」が出てこなくていいわけです。
しかしファミリー向け4コマは視点が外部視点です。なので知らない人もたくさん出てきます。名無しのモブが大量に投入され、消えていきます。それが社会から見た視点の子供像だからです。
 

●「ハッピーカムカム」の基準値●

「ハッピーカムカム」は絵柄は非常に「萌え4コマ」と言っても問題がないくらいかわいいです。

「なにげさん」は絵柄もファミリー向けにシフトしたので分かりやすいのですが、ハッピーカムカムはこんな感じで非常におしゃれでキュート。どちらかというと少女漫画の絵柄に近いと思いますが、作者が萌え4コマ好きでそちらを狙っているのも感じられます。
中でもハナエさんは髪型も現実味のある女子中学生らしく、服装や行動もなにげにおしゃれ。小悪魔な所も含めて女の子臭が強めで、逆に萌え4コマには余りいないタイプかもしれません。

ネタの方はというと、基本は「家庭科部」で行われる駄目な日常を描いているので、非常にまったりしています。
基本「家庭科」ネタで徹底しているので、非常に分かりやすいです。あまり小難しさはありません。
5人の関係を見ていると、それぞれにつながりがありとてもかわいいです。特に自分はみずきとハナエの組み合わせに激しく惹かれました何あの夫婦関係。
 
こうしてみると非常に、「萌え4コマ」「ファミリー向け」のラインのぎりぎり境界線上、どちらでもやっていけるレベルにある作品なのが分かります。
あえてこの作品を芳文社側が「ファミリー向け」だと見たのは、おそらくホコの存在と視点の位置だと思います。

この絵とかは特にファミリー向けっぽいですよね。
ホコが非常に幼くかわいらしいマスコット系女の子キャラとして機能していますが、そうすることで自然と読者の視点は「友人・恋人」視点から「保護者」視点に変わります。

もう小動物みたいなんですよホコは!ちなみに手前にいるかいちょーさんのツンデレっぷりは必見。すげーかわいい。
 
ホコを見る視線は、恋人に向けるそれではありません。
娘、妹、ペットに向けるものに近いです。
「ファミリー向け」になったギリギリのラインが、ホコから引き出されて保護者目線になるこの部分ではないかと思います。ひいては、それが他のキャラ全員に対しても同様に適用されていくのではないかなー?と。モブキャラも多いですしね。
 

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もっとも、「萌え4コマか否か」というのは、実は読者側にとってはどうでもいいことだったりします。
面白い漫画なら「萌え4コマ」でも「ファミリー向け」でもいいわけで! ファミリー向けだって萌えまくるよ!
ですが、作者や編集サイドにしてみたら「どこに視点を向けて、面白みを追究するか」を明確化させるのは非常に重要ですから、「ハッピーカムカム」や「なにげさん」のような打ち合わせが行われるんでしょう。
どちらの4コマも自分はとても読みやすく、はっきりと面白さを感じて読めました。特に「ハッピーカムカム」はファミリー層オタク層少女漫画層を取り込める万能選手なんじゃないかなあ。
なんにしろハナエさんのキャラ説明にある「みずきの事はほとんど彼氏扱い」ここですここ。二人のつかず離れずでも腐れ縁ってのがこう、ぐっとね! ぐっと!
サイドストーリーとか、出ないかな!(←取り込まれる百合オタ層)

 
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絵柄も重要な要素ですが、必ずしもそれだけじゃないんだなーと痛感。余談ですが「萌え系4コマ」と呼ばれる中でファミリー向けぎりぎりのラインにいそうなのが「GA」じゃないかなー、なんて思ったりします。人間関係テーマにしてキャラ萌えメインじゃなくて、芸術ネタを楽しむことがメインですし。
ファミリー向けからの境界線ギリギリなのは「恋愛ラボ」とかでしょうか。でもあれは視点が結構はっきりしてるから違うかな。「ちとせげっちゅ!!」が受取手次第でぎりぎりというかんじも。自分は麻子先生ラブだけどね!
いずれにしろあまりこっちが「ここからが萌え4コマ」とか分けすぎると弊害(そういう色眼鏡で見てしまう)もあるので気をつけないといけませんが、作者側で何を考えて描いているのかは興味津々です。「萌え系4コマで描きたい物がある」「ファミリー向けでやっていきたいものがある」その思いを知りたい!
 
蛇足・「萌え枠」「ファミリー枠」の他に「シモネタ枠」ははずしたらあかんですよね。
で、それらは4コマ専門誌内での話であって、あまり外部の雑誌の4コマ(例・「サナギさん」「カテゴリテリトリ」「どろ高」「WORKING!!」「辣韮の皮」「生徒会のヲタのしみ」など)には当てはまらないのも気になるところ。