たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

匂いフェチストーカー少女への、恋愛ストックホルム症候群「ラブフェロモンN0.5」

 
きましたよ変態マンガが。
 
ヒロインは表紙の女の子じゃないです。もっと地味なメガネのごく普通の子、香奈です。
本当に普通の少女香奈が、完璧お嬢様のかをりさん(表紙の女の子)にものすごい勢いで求愛される、という百合臭ただよう作品なんですが、その求愛の理由がおかしい。

香奈がいいにおいがするから、です。
匂いフェチなかをりさん、その香奈の「におい」に惹かれて、動物のように求愛する日々が始まります。
「大好きなにおいを四六時中かいでいたい、その芳香に包まれていたい!」というかをりさんの絶愛っぷりが半端じゃない。
暴走機関車というか、周りが見えていないというか。
加害者かをりさん、自分の欲求のために手段を選ばない女。
被害者香奈さん。においかがれまくりさわられまくりちゅっちゅされまくり。
 
まあここまでは「押しかけ女房」の構図で楽しめるんですが(変態だけど)、この作品そこから先、香奈の心理がじわじわ変化していき、「匂いフェチ」との間にどういう関係を作るのかを真剣に考えていくのがえらい面白いんですよ。
そもそもフェティシストのフェチズムでつながった関係から「恋愛」感情なんて芽生えるの、か?
 

●あなたの「におい」が好きです!●


かをりさんの押しかけ女房っぷりは異常です。どのくらい異常なのかは口じゃ説明できないレベル。少なくとも人間の常軌を逸しています。
で、ここで重要なのはかをりさんは基本的に「においが好き>人間が好き」から始まるんですよ。
つまり好きなのは、香奈ではなく「香奈のにおい」だということです。
 
加えて、かをりさんの行動は極めて理不尽で自分勝手。
自分の仕事をほおり投げたり、香奈が困る行動でも自分の都合にあわせたり、と重度のストーキング状態。ヤンデレというよりは、恋は盲目に近いです。
冷静に考えると「ないわー」というかをりさんなんですが、これが不思議なことに…かわいいんですよ。
それもそのはず、自分の気持ちに正直で、「好き!」と言える女の子はやっぱりかわいいのです。
まるで慈しむように香奈を抱きしめ、ほおずりし、顔を赤らめて愛を高らかに叫ぶ。かわいいわけです。
もっともそれ、好きなのって「におい」だよね?
 

ストックホルム症候群

かをりさんは影響力のでかい優等生なため、彼女が香奈を追いかけると周囲に甚大な問題が生じます。
たとえば、かをりさんにはファンクラブ的なものがあるんです、憧れの先輩ってやつです。しかしかをりさんは香奈にお熱、となると…嫉妬がものすごいわけですよ。
こうして、香奈は友人一人を除いて孤立する羽目に…。かをりさんは助けに入りますが、話は悪化の一途でこじれるばかり。
気がつけば、クローズドな園でかをりさんと香奈二人きりになっていきます。そこの心理が、これまた怖面白い。
 
人間の防御心理の一つに「ストックホルム症候群」があります。
自分に害を及ぼす相手と長時間閉鎖的な場所で、非日常な体験を繰り返し続けることによって、愛情を抱いてしまう現象です。監禁事件などでよくあるようです。これは「そうした方が安全」という思い込みや、吊り橋効果的な特殊な環境での混乱が相まって起きる出来事ですが、監禁状態での愛情は確かに分かんではありません。同情転じて…という感じでしょうか。
 
このマンガは別にストックホルム症候群だというわけじゃないですが、似たような経路で香奈の心理が刻々と変化していくんです。
毎日「好き好き」と言われるのは悪い気がしません。確かにうっとうしいし、うざったいかもしれませんが、それでも「好き」って言われるのって嬉しいわけですよ。たとえそれが「自分」じゃなくて「自分のにおい」だとしても。


ここにフェティシストの求めるフェチズムとのギャップが生じます。
いつも「あなたのにおいが好き」と言ってつきまとっていた相手に、さらに好きなにおいが出来たら?
あの「好き好き!」と言われていた日常がなくなる。それはとても安泰でいいことのはずなのに、なぜか異常に切なくなる。
ほらきた、ここに心の隙間!
 
香奈は元々、かをりが好きだったわけじゃないです。猛烈アタックで好きになったというわけでもないです。
彼女の中で「いなくなったらどうしよう」という気持ちが顔をもたげ、不安になるんです。

不安は「もしかしたら自分も好きだったんじゃないか?」に転じます。このへんの流れが絶妙。
確かに思春期の女子でこういうことがあったら、気にかかって錯覚を見てしまうでしょう。
しかし、それは本当に錯覚なの?
かをりさんは「全てが好き」といいました。香奈は受け入れました。
友達のいない香奈と、高嶺の花のかをりです、二人のいる空間は、お互いしか入り込めない密閉空間と何ら変わりません。
ここで感じている「いなくなったらつらい」「追いかけて欲しい」という感情は一体なんなんだろう?
 

●自分達を見直すべき時期がくる●

香奈の少ない友人、角田さんと、かをりの少ない友人の生徒会長がそこに風穴を開けます。まー生徒会長もたいていアレなんですが、いないよりいた方がこの二人にとってはいいでしょう。

相手の強烈なアプローチも、いかんせん入り口が「におい」なので、すっごく不安にもなります。でもその不安はこの非日常が壊れることへの不安なのか、相手の気持ちが分からない不安なのかも定かじゃないんですよ。
 
あらためて冷静に考えましょう。
・相手は「自分のにおい」が好きで近づいてきた。
・あんまりにも積極的すぎて、自分の時間が取れない。
・行動一つ一つがストーキングされている。
・いっしょにいると嫉妬が激しい。
はい、マイナス面ばっかりです。
だから友人視点だと「離れた方が安全だよね?」という話になるわけです。

相手が超絶優等生でアイドル級、というのもまた非日常なんですが、あとは香奈の心次第なんですよね。
かをりは本当に「私」を好きなの?
私はこの人のことをどう思っているの?
 
きっかけは歪ですし、二人の距離が縮まる様子も展開も歪。
歪に歪が重なる展開ですが、結果彼女たちがきちんとお互いを見据えられれば、万事OK。そこまでたどり着けるのかしら。
フェチで始まる恋愛は、ハードルを一個飛び越えている分、心理的ハードルがあがっちゃうんですなあ…。
 

描いているのは30girlで有名な岩崎つばさ先生。30歳じゃないマンガ描いたと思ったら、こんな極北なフェティッシュにたどり着くとは!
まじめなシーン2割、ひどいシーン(褒め言葉)8割のハイテンションラブコメディです。
個人的には脇役の角田と生徒会長の関係がニヤニヤです。むしろかをりさんより危険なのは生徒会長なんじゃないだろうか…なんだこの猛禽類たち。
ド変態な女の子が活躍するマンガといえば内村かなめ先生を思い出します。変態な女の子が元気でキュートでかつ愛されているマンガは、いいですねー。