たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

あずまんが大王10周年記念本「大阪万博」は里見英樹ファンのための本ですな。

大阪万博が、いつの間にか出ました。
27日発売という話だったけどやたら早く発売されていた。あれー?
でも大阪が表紙なので、そのへんはまあどうでもいいかなあという気分になりました。そんなもんです。
 
で、色々感想を見て回りましたが「前半最高!」という人と「後半最高!」という人に分かれていて面白い。これか…これが10年の差というやつなのか!
確かに「あずまんが大王」への熱いこだわりが強い人には「二次創作パロディ」「クロスオーバー」自体が受け付けないでしょうし、最近の4コマファンであれば前半の資料はいまいちピンとこないかもしれません。
しかし、多分「全部最高じゃね?」というサイレントマジョリティ(←使ってみたかった)が多数なんじゃないかと自分は思いました。
いやいや、これ面白いですよ。
 

あずまんが大王カタログが里見すぎる件●

前半は、あずまんが大王に関わるアイテムの写真カタログになっています。
大阪万博
オフィシャルに写真載っているので、これを見るのが一番分かりやすいです。
 
分かりやすいんですが、これでは本当の面白さはわからない。
 
カタログってそれぞれ短い解説を入れてあるじゃないですか。
たとえば。

ちよ父リュック(ムービック)。一見、腕に見える部分がリュックのヒモになっている。背中のチャックを開ければちゃんと収納スペースが現れます。
(「大阪万博」より)

普通ですね。
しかし、待ってほしい。
この本のテキストを書いているのは全て里見英樹さんだ。

忠吉さんアンブレラ(ムービック)。収納袋つきの折りたたみ傘。空から雨が降ってきたときに、ひろげて頭にかざすことで濡れることから防いでくれるというグッズ。梅雨のシーズンにあわせて制作。
(「大阪万博」より)

だんだん風向きがおかしくなってきました。
いや、傘だし…。こうなると突っ込んでいいのか、どうすればいいのかすら迷う。

ちよ父帽子(バンダイ)。いま「ちよちち」と入力したら「ちよ乳」と変換された。いくらなんでも帽子とは関係ないだろうと思うのだが。
(「大阪万博」より)

その解説が関係ないよ!
 
里見さんという人は、ご存じの通りのトリックスターなデザイナーさんです。
デザインのセンスのピカイチですが、言葉の使い方があまりにも個性的すぎて、いい具合に脱力させてくれます。誤解を恐れずに言えば、いい具合に「適当」です。
いつもマイペースな里見英樹さん。
これが前半127ページほぼ全てのアイテムに解説で入っているんだもん、写真カタログとしての資料価値があるのはもちろんですが、とにかく1つずつ読んでいくだけで、脱力感が強烈。MP吸い取られまくりです。
一冊読み終わった頃には、多分「突っ込み養成ギブス」並の威力を発揮するんじゃないかと思います。
 

パッドダス(バンダイ)。ガシャポンのようにマウスパッドがランダムで出てくる。シールダスの親戚のようなもの。こうなるといろいろ出したくなってくる。お金を入れるとレシートだけが出てくる機械とか。
(「大阪万博」より)

すいませんそれいりません。と思ったけど「あずまんが大王レシート」ならほし…くないよバカー。

全4巻発売中のポスター。5枚の連作になっている。1巻のイラストなので、神楽がいない。6枚目に神楽がいると思ってください。着替え中の。こうやって存在しないものに妄想を馳せることで、物語の余韻を楽しむことが出来ます。
(「大阪万博」より)

後半の蛇足っぷりがすごい。けどあずまんがだし里見さんだから仕方ない。余韻て。

UFOキャッチャー景品(セガ)より。ミニクッション。歩み寄ろうとしてるんですよ、一般層に! ゲームセンターに来るカップルや、家族連れに! グッズに適当に添えられた英語を見ると、心がすごく和みます。
(「大阪万博」より)

適当かい。
 
さらーっと里見節全開の解説が入ることで、あざといと言われるタイプの商品も、清々しく見えるからなんともマジック。
実際全部見てみるとわかるのですが、もーーーーんのすごく「狙った商品」が山のようにあるんです。えっ、そんなものまで?というのがてんこ盛り。他にもグッズ展開を狙った作品は数あると思いますが、改めて「あずまんが大王」がいかに四方八方に展開しまくっていたかがよーく分かります。
ここまで努力して、かつ楽しみながら試行錯誤し、色々作っているとなると「あざとい」は褒め言葉ですね。
 
里見節が強烈すぎて、1ページ読むごとにおかしくてしかたないんですが、さすがデザイナー、それぞれの心臓にあたるデザインのポイントや気を配った点はしっかり真面目に掲載されています。
あずまんが大王」は4コママンガの大きな転換点の一つだろうなあ、と自分は思うんですが、「4コママンガやキャラグッズのデザイン」の大きな転換点でもあったんだなと再認識させられます。
 

●「あずまんが大王」という受け皿●

後半のトリビュートマンガですが、自分は全部好きな作家さんだったのでえらく楽しめました。なんという俺得。
が、とにかく作家さんのカラーがものっすごい濃いめ。
そのため「原作のあずまんが大王と違うじゃないか!」と言う人も間違いなくいるだろうなーと思って読んでいました。それはもう仕方ないです。

観客を意識しすぎて普段の芸風が発揮できなくては、参加していただく意味がない。だから皆さんには「原作によけいな気を遣う必要はないので、できるだけ自分の演技を見せて下さい」という依頼をした。
(「大阪万博」あとがきより)

里見さんとしては「あえてフリーダムにした」ということなんですね。
実際、ものっすごいフリーダムです。うさくん先生や道満晴明先生が参加している時点でいかにフリーダムかは分かると思います。
ぶっちゃけうさくん先生のは「うさくん大王」という感じでした。
ネタも当然というか、相当毒っけが強いので、確かに「あずまんが大王」を読もうとしている人には刺激強いかもしれません。
 
個人的には、後半の攻撃性がとても気に入っていました。
なんというか「あずまんが大王」よいしょ、じゃないんですよ。
先ほどの里見さんの、さらっと書いていた解説の一部を思い出します。直接は関係ないはずの文なんですが、妙に胸に残る。
「こうやって存在しないものに妄想を馳せることで、物語の余韻を楽しむことが出来ます。」
あずまんが大王」は、ゲッサンでの連載もあわせて、終わりました。
そして、本連載から10年経ちます。
10年っつったら色々あります。カップルの差でいえば小五と二十歳です(by青樹うめ先生)。色々考え方も変わるし、新規層も増えるし、影響を受けてマンガ家になる人もいます。
そのくらいとにかくでかい時間生き残った作品です。すごいね。
 
で、その期間を経て「あずまんが大王」は、あらゆるものを受け入れることのできる受け皿になるまででかく成長したんじゃないかな?と個人的に思いました。
あずまんが大王」としては存在しない世界でも、そこから派生して新しいものを考えてくださいな、ちょっとやそっとじゃゆるがないよと。
新しい作品が新しい視点の方向からぶつけられることで、「あずまんが大王」の形はさらに浮かび上がるんだよと。
 
あずまんが大王」は、もしかしたら「一つの作品」から「土壌」に変化しようとしているのかもしれません。
 

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あずまんが大王1年生 (少年サンデーコミックススペシャル) あずまんが大王 2年生 (少年サンデーコミックススペシャル) あずまんが大王 3年生 (少年サンデーコミックススペシャル)
篠房六郎先生の4コマが面白すぎて泣いた。しめに持ってきただけのことはあるなあと思いました。才能と才能がぶつかるとこんな化学反応が起きるのか…。
氷川へきる先生のマンガなんかは、完全にクロスオーバーなのでどっちものファンだったら二倍おいしいです。