たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

便所飯を、笑うな。「がんばれ便所飯くん」

LO1月号が秋の気配ですね。
北海道はもう冬ですが。雪積もっちゃったよ。
とはいえ、柿と少女はよく似合う。もりもり食べて欲しいです。
ところで先月の12月号の話に戻ります。

掲載三回目のクジラックス先生の「がんばれ便所飯くん」がものっそいよかったので反芻しておきたいと思います。
もう題名の時点でやられますよ。「便所飯」ですよ!
 

●便所飯とはなんぞや。●

エロマンガの話ですが、エロ話は一切ないです。一応収納。
 
 
ランチメイト症候群 - Wikipedia
「便所飯」については昔はwikipediaにすんごい細かい説明が載ってたんですが、削除されてしまいました。残念。
そもそも「便所飯」とはなんぞや、という話です。ネットユーザーならよく耳にする言葉だと思いますが、別に正式な用語でもないです。マンガ「ヨイコノミライ」でも描写されていましたね。
ようするに、便所でお弁当を食べる状態のことです。
もちろん個室の方です。便所でみんなで飯を食うわけじゃない。一人だ。

学校や職場での昼休みなどに トイレの個室で食事をとる行為を「便所飯」と呼ぶとかなんとか
(「がんばれ便所飯くん」より)

便所でご飯が食べたいか?
食べたいわけないだろう。
じゃあなんで便所の個室でご飯を食べるの?
人と会いたくないからに決まってるじゃないか。

みんなが仲良くごはんを食べる、そんな昼休み。あちこちから聞こえる笑い声。
でもその輪の中に入れない。入りたくないんじゃない、入るタイミングを逸してしまったら途中からなんて入れなくなっちゃうんだよ。
一人で教室で食べていてもいいさ。平気だよ?って人もいるだろうさ。
でも、周りの視線に耐えられるほど全ての人間が強くできているわけじゃないんだよ。
 
都市伝説なんじゃないか?と言われた「便所飯」ですが、そんなことないです。
あるよ。ある。
ご飯に限らず、休み時間トイレにこもるのは、学校・職場問わずあります。
「あるわけない」とか「そんなのおかしい」とか言う人には多分、何が起きているのかきっと分からないままかもしれません。それはそれでいいです。その人はそういう人生を送れているのだから、いいのです。
ただ、笑うな、とは言いたい。
 

●入れなくなった会話への恐怖●


誰かと話していないから声が出ない、ってのは簡単に体験できます。
何日か会話を一切しない生活を送れば、すぐ「とっさの声」なんて出なくなります。声がおかしくなるんじゃなくて精神的な問題です。
もっとも仕事などをしていると「何日か会話をしない」という状態を作れないので、なかなか体験出来ないことなんですが、ようは「決して特殊な出来事ではない」ということです。
条件さえ揃えば、誰にでもあり得ることです。
 
この作品、もちろんエロマンガなのでネタとして便所飯状態を扱っています。当然フィクションです。ファンタジーです。エロいです。
でも人との会話に関しての描き方がものすごく繊細なんです。
「他の人達の会話が怖い。」
「何を話せばいいか分からない。」
「できるだけ存在を消していたい。」
冗談としてではなく、実体験のように生々しく描き出します。人の話し声が怖くてその輪には入れない、というのは分からない人には一生分からない経験でしょう。「なんで話せないの?」とwhyを入れる人もいるかもしれません。
でも理由なんてないんです。理由がないところでの恐怖感を非常に細かく描写しているから、読んでいてぞわぞわする。

この図、トイレに女の子を連れ込んだわけじゃないです。
便所飯をしていた少年のところになぜか突然少女が現れた、というハッピーな状態なものの、他人の会話が怖くてただひたすらに黙って気配を消しているんです。
普段から音を一切立てずに食べる技術を持っている彼が、全力でステルスする様がひたすらにつらい。
マッチョ思想だったら「そんなの気にするな!」と言われるかもしれませんが、これ気になっちゃうともう止まらないわけですよ。
 
別に他の人が悪いわけじゃないんです。
誰かがぼくの悪口を言っている・・・? いや、悪口なんて言ってません。上記のコマはそういうのも見事ですね。なんてことない会話なんですよ、しているのは。
しかし、精神的には「自分は蚊帳の外」なんです。
この人達とは世界が違う。世界が違うから入り込めないし、怖い。出来ることならばそりゃあそっちの世界に行って一緒に話せればどれだけ楽なことか。でも出来ない、やりかたが分からないしタイミングも分からない。
だから、ただひたすらに気配を消すしかないのです。
ふとしたときに頭上を飛び交う会話に意味がないのは分かっているけれども、それはまるで弾丸のよう。気配を悟られたら冷たい視線が飛んでくる気すらする恐怖感の中、自分を消すことに集中するしかなくなってしまう悪循環。
 
昼休みが憂鬱で「死にたい」と漏らすこともあるけど別に本当に死にたいわけじゃない。
でも「死にたい」と漏らすくらい苦痛なのも、事実。
自分のいる空間は、何時間も続くアウェー。社会人なら能動的行動も取れるけれども、学校は校舎という枠組みがあるから抜け出せない。
教室が牢獄ならば、いっそトイレのほうがどれだけ気が楽になるかってはなしですよ。
 

●抜け出したくないわけじゃない●

「対人関係能力がどうのこうの」とか言われてしまえばそれまでよ。
実際そうだし、解決するのは端から見たら簡単に見えるでしょう。
でもそうじゃない、そうじゃないから苦しいんです便所飯は。

決して望んでこの状態におちいってるわけじゃないんですよ。そりゃそうだ。
自分一人でいても平気でいられる精神力は欲しいし、それよりなにより…みんなと仲良くしたくないわけじゃない。
できるなら仲良くしたいよ!抜け出したいよ!
ステルス状態でのご飯が楽になるわけじゃないし、それに慣れても全然嬉しくなんかない。
望んでいるモノは、俗っぽいと言われるかもしれないけれども、友達と安心できる場所。
ただ、手に入る手段は分からない。
 
この主人公、トイレで少女らしき何かに告白をします。

いないんだ…一緒に食べる友達が…
高校入ったら…今度こそうまくやろうって思ってたんだけど…
気づいたら…トイレで食べてた…
(「がんばれ便所飯くん」より)

「高校入ったら」のセリフが胸を打ちます。変わろうとは思ってたのに、変わり損ねたつらさ。今までも苦しんでいたことが感じられる痛み。
完全に透明人間化していた彼がこの少女に告白出来たのは、自分の汚い部分も、性的な部分も、駄目な部分も全部ありのまま受け入れてくれたからでした。
本当になんてことはないんです。ただ、それを分かってくれる人はほとんどいないし、きっかけもつかめない。
分かってくれる人がいさえすれば!
タイミングさえあれば!
その「さえ」が、なかなか現れない。
 
この物語、エロを軸にしつつもしっかり彼の顛末を描ききっていることに自分は心握りつぶされそうになりました。
確かに落ち込んでいる状態で「がんばれ」っていうのは逆効果かもしれません。便所飯している状態の彼に「がんばれ」と言うのは言葉の暴力にもなりかねないでしょう。
しかしきっかけとタイミングをつかんだなら、一歩前に進むことができたなら、彼の気持ちを分かった上で「がんばれ」と言ってもいいと思う。
題名にわざわざ「がんばれ」と入っているのは、きっとわざと。
うん。
がんばれ!
 

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この作品、ものすごくエロいです。ロリエロいです。
特にぎりぎり限界まで女の子が我慢しているシーンはもうたまらないです。
とはいえ、エロと「便所飯」という繊細な題材のバランスを崩すことなく、双方をまとめあげることでラストシーンにつながっていく構成は見事すぎるの一言。
自分も某アルバイトで居場所が見つからず、何があったというわけでもなく孤立してしまい、ひどく苦しんだ経験があるのですが、そういう経験って言えないんですよ! 恥ずかしくて。     忘れたいし。
だから「便所飯」は都市伝説状態になるのかもしれませんが、「誰にも分からないだろうなあ」と思ってだまりこみつつ、やっぱりこういう気持ちが存在することは分かって欲しい。わがままなんですけどね!
そんな気持ちを、ロリエロい気持ちとあわせていっぺんに受け止めてくれたこの作品に感謝。ああ、分かってくれる作家さん、いたんだ! 
もやもやとしたものが、ようやく昇華された気分です。
ありがとう、と言いたい。言わせて。
 
エロマンガって、色々な人のマイノリティな性的嗜好をも受け止めてくれる貴重な場所だと思うんですが、こういう扱いづらい心理をも受け止めてくれるのはすごいことだと思います。

クジラックス先生の一つ前の作品「らぶいずぶらいんど」では眼の見えない男性を主人公にした物語を描いていました。クジラックス先生はまだ3回しかLOでは描いていないのですが、現時点では社会的に弱い立場の人間の描写が非常に秀逸な作家さんです。
 
二次元少女の幻想は、人の身体的・精神的に弱い部分を支えてくれる。
人間がんばっているから、たまには甘えたくなることもあるんです。うまくいく行かないは別としても。
エロい気持ちと共に、行き場のない気持ちをただ単純に受け止めてほしいこともあるんです。
 

 
関連・クジラックス(オフィシャルHP)
ブログの方に制作にまつわる話や、ラフ絵などものっているので、特に一回この作品を読んでいる人は必見。「電話ボックス飯」の下りは泣きそうになった。
また、「便所飯くん」でぐっと来た人は、サイトにあるWEBマンガ「お守りはカッター。」「車上生活」「ラサツ」なども必見です。
あと、ぼくはクジラックス先生のTOP絵がすごくすきです。ただひたすらにいい。
便所飯 - アンサイクロペディア
さっそく「便所飯くん」のコマが!