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梓とさわ子の見た、三年生の肖像「けいおん!!」第八話 その2

その1の続きです。
今まで通ってきた道、これから通る道「けいおん!!」第八話 その1
 
ではネタバレ有りなので収納。
 

ペロペロ(^ω^)
 
 
 
 

●意外とキツイ梓視点●

今回は梓は完全に聞き手としての立ち位置になります。
ムギ・律・澪・和は割とシンクロしながら「唯ちゃんってこうだよねー」と共通意見を図れるのですが、面白いことに梓だけは全然シンクロしないんですよね。

和「あの悪気のない笑顔を見るとなぜか許せちゃうのよねー」
澪・ムギ「わかるわー」
梓「そんなもんですかねー」

実は原作ではこのシーン、梓出てきません。
なので、完全に梓視点は切り離された、カウンターとして彼女たち3年生の世界がどう見えているかを浮き彫りにする役を買っています。
たとえばこのシーン。

梓「またなんかやっちゃったんですか?」
和「また?」
ムギ「あ!ちょ、ちょっとね、進路のことで相談があるみたいなのー」
梓「ふーん?」

この「ふーん?」は何度も聞いて欲しい名演技。
そう、「ふーん?」なんですよ。それ以上でもそれ以下でもないんですよ。
 
梓、今回唯に対して言う事一つ一つが相当厳しいです
まあ普段から唯には厳しい梓ですが、今回の梓の発言はそれぞれ全部、粒ぞろいでキツメ。
先程の「そんなもんですかねー」はその最たる例ですね。
 
結局、唯の持っている「笑顔でマイペースを保てる」というのは、同級生、同じ立場からすると非常に魅力的なわけですが、これが後輩から見ると、ずぼらに見えてしまうんです。
うん、わかる、すごい分かるその気持ち。
唯が悪い子じゃないのは梓だって重々承知、むしろ唯のこと好きですよ梓は。
しかし、実際その「同じ立場」にたっていないため、失敗したりボケをかましたりした時に笑顔でマイペースを貫ける唯を見て笑える同級生と、同じ気持にはなれないんです。
そらそうだ。「うさぎとかめ」でいえば、遠くから見たらウサギの方がはるか前にいるんですもの。亀は「じっくりこつこつ前に進める」というポジティブさを持っているのをわかってはいても、後輩という立場にいる以上「なんかひとりだけ遅い」と見えてしまうのは当然です。
実際3年生中盤で進路を考えていないとか、遅いですもんね。
だから「そんなもんですかねー」「ふーん?」と梓がキツメの言葉をいってしまうのも、わからんでもありません。

梓「やっぱり色々困ったりしました?」

冷静に考えたら先輩に対して言うにはすっげーキツい言葉ですよね。
でもみんな知っているからそこに異を唱えはしません。梓という下級生にしてみれば、振り回されまくっている日常を、ムギ・澪は知っているので、そらそういうわな、共感として「困った」を和ちゃんに求めているんだろうなと。
しかし和の発言の返しが興味深い。

和「え?うーん、困ったって言えば困ったのかな?」

うん。
困ってないんです、和ちゃん。
むしろ唯のマイペースさを楽しんでいますね。
 
この視点の位置に非常に大きなギャップがあります。
「キツイ言い方」ではあるんですが、そりゃ仕方ないんです。梓だけ二年生なんです、3年生の持っている思いを共有出来ない寂しい位置にいるんです。
むしろ、唯のことに関してみんなの感覚(マイペースで唯らしいところが憎めないんだよな、という感覚)が共有出来ていない微妙な歯がゆさ。
比較として、澪に対してはこうです。

ガン見。
後輩としては、見た目にしっかり頼れる先輩の話のほうが興味津々なのは至って当然のことだと思います。

ここの梓の顔もいいですねー。
ムギはレーダーが発動中、唯と律は「イイハナシダナー」状態ですが、梓も澪の失敗談や、ツンデレのデレ部分的要素には素直に共感が出来るんです。

ちなみに、律に対しても梓はキツめです。
「昔は良い子だったんですね!」
昔は、かよ!
 
梓視点は非常に客観的です。
唯の「がんばり」や「いいところ」はきっちり描かれていて、彼女がとても人間として魅力的なのはこの作品では存分に描かれています。
と同時に梓の冷静で客観的な視点が入ることで、唯の抜けている部分、がんばりの足りない部分も、きちんと描かれます。
全肯定なだけじゃだめなんよね。こういうカウンターがあって、プラス部分もマイナス部分も見えてくるからこそ、人間としての魅力はさらに高まるってなもんだと思います。
だって、こんなにキツいこと言っている梓ですが、なんだかんだで唯のこと好きですからね。
 
余談的ですが、梓の「ふーん?」には、自分はみんなとおなじ悩みを共有出来ていない、話に入れない疎外感も個人的には感じました。
ちょっと深よみしすぎかもしれませんが。
 

●大人になったらわかること●

年下から見た唯達は、非常に幼い。これは事実です。
実際幼いと思います。
しかし、それを見守るさわ子視点が今回のキモにもなっています。

一応教師なので、進路に関してはかなり厳しめのさわちゃん。
さわ子って律に対してだけはやたらと厳しいですよね。つねったり、叩いたり。
自分に通じるところがあるからなんじゃないかと密かに踏んでいます。ウフフ。
 
さわ子は高校三年間の間、軽音楽に没頭していました。
動機は「好きな人に近づくため」という不純なものでしたが、音楽が好きだったのは本気。ガチメタラーでした。
いいじゃない、若い頃に、もてるために楽器をやる!
とてもいい動機だと、おっさんになった僕は、思うな!
あるいは「モテないから発散するためにやる」とかね。大好きそういうの。
 
そうなんだよ、入り口は「好きな人に近づきたい」だったけど、さわ子は楽しかったんだよ、楽しい高校生活を悔い無く過ごしまくったんですよ、あ、ちょっと違うね、悔いはあるね。でも120%満足しているはず。
だから、唯と律が第一志望に「ミュージシャン」と書いてきたとき、こんな反応をします。

最初は却下したものの、二人を見るさわ子の目は限りなく優しいんです。
優しい?
いや、違う、そうじゃないだろ、親切とか、大人だからとか、そうじゃないだろ!

さわ子からみたら、律と唯は「自分」なんだよ。
二枚目のこの顔、いいですね。本当にいい。
無論先生として、やるべきことをきちんとする、言うべきことをきちんと言う、それは果たしているんです。立派な先生だと思います。
しかし同時に、さわ子だって今をリアルタイムで生きている人間です。
感情だって、感傷だってあります。
 
この「けいおん!!」という作品を、さわ子視点で見ている人は相当多いんじゃないかと思います。
無論、律視点だったりムギ視点だったり、まったくの箱庭視点だったりの人もいると思いますが、おそらくアラサーに近い人たちで「けいおん!!」が心のフックに引っかかっちゃった人で、さわ子とシンクロしてしまう人はいるはず。
だって、そういう描写なんだモン。ずるいよねほんとにね!
この回に限って言えば、泣いたり笑ったり以上に、さわ子と同じ顔で見ちゃったよ、唯達をさ。もう。
 
自分は高校時代は割とまっくろけーでした。何もしませんでした。いや受験勉強一筋でした。つまらん3年間でした。
もう一回やりたいですかといわれたらNO!という感じ。でも「今の記憶を持った状態でやり直したいですか?」といわれたらYES。
しかしそれは無理です。無理なんです。
高校時代に楽しいことも辛いことも味わっているからこそ、今の自分の感覚があるわけで、その感覚は高校時代に持てと言われてもできないんだよ。
 
さわ子のこの顔は、自分の中の黒歴史も楽しかったことも全部ひっくるめて思い出せるからこその顔です。
そら黒歴史部分は「楽しい」とは言い切れない部分もあるでしょうが、それでも楽しかったし、「明日どうなるか」なんて考えてる暇なかったわけです。
その後、唯が悩みに悩みに悩んで、結局具体的な例を書けなかったのを見てのさわ子の顔がまたいいんだ。

最初、もう分かっちゃうんですこの唯のいっぱいいっぱいな気持ちが。
だから「そうだよな」「仕方ないよね」「あるある」という思い出いっぱいのとても優しい表情になります。
いや、だから「優しい」じゃないなあ。共感なんですよね。

その後、きりっと開き直って叱る側に回る彼女がとても凛々しい。
きっと、さわ子も「第一志望:ミュージシャン」とか書いちゃった口なんじゃないでしょうか。
それを先生にたしなめられたり怒られたりして……気づけば自分が「きちんと出しなさい」と言う側に回っていた。
なかなか不思議な感覚ですよね。20代・30代・40代って、中高時代には遥か遠い感覚がありました。1年ってスゲー長いな、高校三年間ってものすごい時間だなと。
でも実際過ぎてみると本当にあっという間。まして20・30・40と歳をとっても、あんまり変わらんのですよ、気持ちは。うれしいことはうれしいし、悲しいことは悲しい。そして、楽しいものは楽しい。
感性は積み重なっていき、高校時代よりも色々な面でアンテナが高くなります。あるいは逆にジャミングが増えてアンテナがにぶることもありますが、感情が変わるわけではありません。感動もするし、笑いもするんです。思ったほど高校時代と30代は変わらない。
違うのは、立場
 
今回は特に、「幼少期を見る高校三年生」という構図がありました。
思い出しながら、彼女たちは笑ったりはしゃいだりするわけじゃないですか。
それと同じように、「大人から見た高校生」という構図がさわ子と高校生の間でも見られます。
ただし、思い出しはするけど、はしゃいだりせず自分の立場から話を責任を持ってしています。
 
とはいえさわ子はわりといい具合に生徒達に近い立場(一緒にお茶飲んだり)なのでなおのこと感情移入しやすいんですよね。
それでも、「まあいいんじゃない」と甘いことを言わずに、きちんと呼び出しをかけて、再提出をするように厳しく言うさわ子が本気で愛しくて仕方ない。そうなんだよ。言わないといけないんだよ。いう立場が今の大人側なんだよ。
 
亀の歩みでいいじゃない。
ただし前には進もう。2歩下がったら3歩進もう。
 

●「けいおん!」と「けいおん!!」の視点●

けいおん!」は割と「楽しい!」をテーマにしていたため、中高生視点が非常に強めだった印象があります。だからこそ9話や11話の心の葛藤や、「ライブハウス!」の興奮がダイレクトに伝わってきたりします。
けいおん!!」になってからは、梓の寂しさやさわ子の見た軽音部、そして引きのカットが大量に使われることで、高校時代への憧憬部分が強めになっている印象があります。

無論、見方は人それぞれですし、なんといってもリアル高校生がこの作品をみて「面白い!」と思えるのが一番だと思っています。高校生がこの作品を見て「こんな風にやれるだけのことやりたい!」「恥ずかしくてもがんばってみたい!」と思えるならいいなあと本気で思います。熱血とは違う路線の「楽しさ」の魅せ方ですね。
自分はもう大人になってから見ているので、やはりこの架空の「高校の空間」への憧れが異常に強いです。
「めんどくせー」という律を見ていると、その「めんどくせー」がいかに価値があったのかを感じてしまいます。

「ずっと先のことだから想像出来なくて」という唯の気持ちがすごいジワジワくる。
そう、ずっと先だと思ってたんだよなあ。
そう思えたあの瞬間はやっぱり、辛いなあという気持ちもありつつ貴重でした。
ただし、やはり理想どおりの高校生活は送れないから……「けいおん!」で補完し、「けいおん!!」で懐かしむ。
 
さわ子視線と梓視点が入ることで、この作品の深みがぐっと増している感じがします。
「閉じてない」んですよね。空間が。クローズドな空間でのキャッキャウフフで終わらない、なんだかわからないんだけど心に引っかかるものが残る。
特に今回はそういう部分を意図的に入れている感があり、わかりやすい気もします。しますが、よくよく見直すとそういう演出じゃない部分、教室の一角やちょっとした部分でも「あっ!」となるところ、多い不思議な作品だと思います。
個人的に今回やたら気になったのはここかなー。

律が「いろんなことがあって人は強くなっていくってことだよ」と適当なことを言うシーンで、なぜか全員が注目する中で座るまでを描いています。そのあと「ふーん?」と全員が妙な顔をしつつも、そこに突っ込まないんですよね。自然に唯の方に話が変わってる。
なぜ?
これちょっと自分にも分からないんですがやけに心に引っかかります。そこリアクションで澪が「なにいってんだか」とか返すところじゃないの? 返さないんだなこれが。
おそらく全員が、その言葉に心当たりが有るからだとは思いますが……これは謎のまま自分の心に残しつつ、次以降の回を見ていこうと思います。
そしたら何か気づくこともあるのかもしれない。
 

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余談コーナー。
 
余談その1


すっげー無駄なシーン!(褒め言葉
律が「それ一年生の範囲だぞ」と言われてショックを受けるシーンを、こんなにも色々なアングルから。
そういえば「けいおん!」一期の、勉強会に転がり込むシーンでもこんな感じで色々なアングルから無駄に、本当に無駄に描写していましたね。

このおおげさなケレン味が、律の魅力だと思うのです。
 
余談その2

相変わらず適当な律&唯。
しかし……ムギ・和・澪が優等生中の優等生なだけで、律と唯も意外とそこそこ出来ている、気が、するんですがどうか。
少なくとも原作では、勉強大嫌いで嫌がる割に、まあまあできてはいますよね。周辺が優等生過ぎるんだと思うんだナー。
 
余談その3

今回何が面白いって、律がおでこに「目」と書かれたまま、消しもしないでそのまま淡々と物語が進むところでしょうか。
すごいよね、誰もツッコミを入れない空間。今回はこの空振り感が妙にしっくりくるから不思議。
しかし三つの目を見て、「三つ目がとおる」を思い出すか、「サザンアイズ」を思い出すか、「ドラゴンボール」を思い出すかで歳が変わりそう。気功砲
 
余談その4


唯七変化(実際は5つ)。
色々「無理だろ」方向に話が進んでいますが、唯ってこのへん意外とそつなくこなすような気がするんだけどどうでしょう。
事務仕事はチト難しいかな?という気はしますが。
しっかし、一番最初に出てくる職業が「花屋さん」って。小学生みたいなそのピュアすぎる感性大好きだよ!!
 

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