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「たまこラブストーリー」が、傑作だと確信できたのはなぜか

『たまこラブストーリー』公式サイト

映画「たまこラブストーリー」、本気で最初期待全くしてなかったんです。
そりゃ「たまこまーけっと」は好きだけど、もち蔵とかどうでもいいよ、南の島のデラちゃんとかなんなの、ってか続編で「ラブストーリー」とか恥ずかしいんだけど!くらい。
見に行かなくてもいいかなって思ってた。
 
とんでもなかった。
これ大傑作なので、見てない人は是非見に行ってください。行け。行くんだ。
多分今後の、テレビアニメの劇場化の方向に一つ釘を打ち込んだと思う。
 

●傑作だと思う理由1・一本の映画としての探求●

感動したとかは一旦全部おいておきます。
 
この映画が挑んでいるのは、「テレビアニメの劇場版」を、ファンムービーでも続編でも総集編でもなく、「一本の物語」にすること。
テレビアニメ見てないほうが映画素直に楽しめるんじゃないかってくらい。
 
TVアニメの劇場版ってすっごい難しい。
テレビアニメファンが納得できるものになっているか。一旦収束したものの続きをどう魅せるのか。
複雑な設定やキャラの性格はTV版抜きで伝わるのか。今までの歩みが果たしてシリーズ見ていない人に伝わるのか。
 
選択肢としては「総集編」「最初からテレビアニメファン向けと振り切る」「間口を広げつつファン向けに作る」。
さじ加減めっちゃくちゃ難しいです。
 
たまこラブストーリー」は、「恋愛映画」一点に絞りました。
だから、もう何にも知らなくても楽しめる。
出てくる少年と少女が恋をする。ほら、十分じゃないか。
 
「商店街が舞台」「たまこともち蔵は幼なじみ」くらい知ってればいい、というざっくりした構造を活かしました。
次に、デラちゃん達南国組を完全に切り離し、テレビ版ストーリーをカット。彼らは短編に出てくるのでファンが楽しめる配慮もある。
そして、キャラの解説は仕草と表情で全部表現しているから、解説がなくても一発でわかる。
 
例えば、複雑なキャラとしてみどりちゃんがいます。
たまこに友達以上の思いを寄せながらそれをどうにもできず、もち蔵がたまこに片思いしているのも知っていて苛立ち、周囲にはトゲトゲしい態度をとってしまうけどそれは優しさと自己嫌悪の賜物で……とても説明が大変。
この子を、表情とセリフの機微で、映画内だけで完璧に表現しています。余計な説明は一切ありません。
 
他のキャラも全部そうです。
群像劇「たまこまーけっと」をテレビから引き継いで説明しようとしない。「たまこラブストーリー」という一本の映画で、新しい世界を再構築しました。
 
だから、テレビ版見てない人、是非行ってください。
これは「たまこまーけっと」じゃなくて「たまこラブストーリー」。
テレビアニメ劇場版化の、一つの最適解への挑戦です。
 

●傑作だと思う理由2・ラブストーリーではない何か●

「ラブストーリー」とは謳っていますが、実質ラブストーリーではないです。
(恋愛映画ではあります。詳しくは下記)
全く別のテーマがあります。これにはやられた。
なんだよタイトルめ!
 
商店街という変わらない空間が、どう維持されているのか、みんながどう生きていたのかの裏側が匂わされている。
たまこまーけっと」本編では、気を使うがゆえに、距離感を大切にするがゆえに、言葉にしない、近づき過ぎない、という人間関係が描かれていました。
それをさらにもう一歩引いて見ている。変わらないということは、すっごく離れた位置から見たらなんなのか。
高校生の視野から見たらそれはなんなのか。
 
大人も子供も、何かしらに共感できるフックがいっぱいある作品。誰かに共感できるはずです。
たまこやもち蔵に全く共感できなくてもいい。別の誰かにぐっとくるかもしれない。
 
だからこそ、疲れた大人にこの丁寧な作り、語りすぎない作りは刺さると思います。
恋愛でリア充爆発、なんて一切思わない作品です。
思えないですよこんな作りされたら。
 

●傑作だと思う理由3・多様な切り口の「映画」●

ものすごく「映画」を意識した作品だと思います。
この一本で何もかもがまとまって、作品化しようとしている。
 
となると、これって何映画なの?という疑問がわきます。
 
まずは「恋愛映画」です。
ラブストーリーって書いてますしね。そりゃそうですよ。どストレートです。
人が人を好きになる時に感じるいろーんな事がきちんと詰まっています。
まあ、もち蔵とたまこのやりとりをどう受け取るかはその人次第。でもカップルで見に行って満足はできるんじゃないかなあ。見守る気持ちで。
 
次に「青春映画」です。
ぼくはこの視点で見てました。高校三年生、間もなくみんな卒業するかもしれない。
ここでかんなちゃんが、いいんだー。あと映研の男の子達がめちゃくちゃいい。
劇場版のけいおん!が心に刺さっている人は大満足できるはず。会話で語らない、表情と仕草の一つ一つで語ります。
難しい心のヒダは、ちゃーんとカフェのマスターが語ってくれる。
 
そして「家族映画」です。
もち蔵の家、たまこの家の様子がこれでもかと詳細に描かれます。
学校のシーンもすごい多いのに、やたら印象に残るんですよ、家族が。
両方の家の父親と、子供の距離感がとてもいい。食事のシーンも素晴らしい。
大人の人はこの視点で見る人多いかもしれません。もし自分の家の娘・息子が恋をしたら。
 
これだけややこしい切り口を、忙しくないリズムで盛り込んでいます。
しつこいようですが、表情と声に全力を込めています。
「うん」と言うシーンひとつにどれだけの労力を割いたんだろう。
その「うん」にこの3つが詰まってる。
 

●傑作だと思う理由4・もちろんファンが楽しめる●

と、ここまでは「見ていない人が楽しめる要素」を書きました。
無論、「たまこまーけっと」ファンならゾクゾクするほど楽しめます。
 
なんせ、全キャラ出てきますからね。
あんだけ多いキャラを、過不足無く、しかもそれぞれに見せ場を持たせているのは、執念かと思いました。
 
でもこの映画、全キャラ出ないと意味が無いんですよ。
 
この部分は初見でも十二分に伝わる構造です。
テレビ版見てる人なら、さらに思い入れがあるじゃないですか。
例えば豆腐屋のアフロは色々あったよなーとか。ぼくあいつ好きなんです。
そういう所を丁寧にさらっている。このキャラはこう変わった。このキャラはここにいる。このキャラはこんなことをしていた。
すげえですよ。全員でそれやるんだから。
 
もちろんみどりちゃん、かんなちゃん、史織ちゃんは、本当に大きくなってーと感慨に浸ってしまいます。
特に史織ちゃんじゃないかなすごいのは。かんなちゃんの最初のあれも素敵。みどりちゃんについては後で語らせろ。
 
「南の島のデラちゃん」は、笑えるけど正直ひきます。
いや、悪口じゃないの! ヒかせるようにわざと作ってるの!!
それも含めてファンならにやけるはず。本編にもつながりますしね。
 

●傑作だと思う理由5・みどりちゃんへの尋常ならざるこだわり●

山田尚子監督と、脚本の吉田玲子、どこまでみどりちゃんに魂注いでるんだろう!?
これ、「たまこラブストーリー」であり、「みどりストーリー」だよね。
ってくらいに、この映画の主役レベルのみどりちゃん。
二人の思いがむき出しでぶっこまれています。
 
これをもろにぶつけられるとちょっとキツいわけですよ。
そこが、たまこともち蔵がクッションになってうまーく話がまとめられている。みどりちゃんは二人を突く役回りのように見える。
見えるけど、この作品のテーマにもっとも近くて、繊細な部分はみどりちゃんに詰め込まれています。
……みどりちゃんについて書いたら、多分ネタバレ無しでは無理なので、我慢する。
 
 
感動とか、泣けるとか、合う合わないとか、あのシーンがどうこうとかは伏せます。もっと詳しく書ける方いらっしゃるので。
ここまで思い切った構成にするのは、京アニの自社タイトルだからできる技だとは思うんです。でもテレビアニメ劇場版の新しい一歩を加えた作品として、何回も単品で見られる作品として、是非見てほしい。
 
最大の難点は、「たまこラブストーリー」の名前で敬遠してしまうんじゃないかということです。
ぼくがそうでした。気恥ずかしかったし、何やるかわからなかったし。
でもそれじゃ、もったいないんだよ!
 
 

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テレビ版見ている人なら、本編はじまって数分で涙腺にくる。これはほんとに。