たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

『武装錬金』の津村斗貴子さんは、ほんとにパーフェクト・バトル・ヒロインだな

突然ですが、『武装錬金』の津村斗貴子さんは、本当に非の打ち所なしの、バトルアクション漫画のヒロインだな、とつくづく感じているのです。
武装錬金 10 (ジャンプコミックスDIGITAL)

なぜいまさら武装錬金のはなしかというと、最近ぼくが読みなおしたからです。
もう10年たつんだねー。
 
当時もメロメロになっていたものですが、改めて時間をおいてから読み直しても、主人公のカズキの周りを固める人間の配置が、鬼のように完璧な布陣。
中でも斗貴子さんは異常なまでに精密に完成されたヒロインすぎて、慄いています。
 

                                                                                      • -

 

まずはビジュアル面の描写が最高だ、というのは言うまでもなく。
基本的に和月伸宏の描く女性キャラは「かわいくなければいけない」という理論に基づいて描かれているので、全員かわいい。ものすごくかわいい。
じゃあ斗貴子さんの視るべき点はどこかというと、顔の傷、セミロングの髪、そしてです。
 
妹のまひろや桜花、学校の面々は、スカートが長いため、脚がそんなに見えない。
しかし斗貴子さんは、動きやすさ重視のためミニスカートのセーラー服を着ています。
一人だけ、脚の露出がとても多い。
イコール、一人だけ躍動感が大きい、ということ。
 
作者の話によると、本来はスカートの下からバルキリースカートが生えていて、スカートはめくれ上がる設定だったそう。だけどそれだとパンツが見えるのでボツ。
これ英断だと思う。
 
男の子向け漫画だったら、どう考えたってパンツ見えるアクションの方がウケはいいんだよ。
どんなに理屈があろうとも、パンツには勝てないんだよ!
けれど、斗貴子さんってそういうキャラじゃないでしょ。
彼女はスタイリッシュな美しさの権化じゃないといけない。
ならばパンツが少しでも見えようものなら、そっちに意識がいくからだめなんですよ。
 
斗貴子さんの戦いの美しさはすべて脚のしなやかさに集約されています。

これとか絶妙すぎる。
短パン履いてるみたいですが違うよ。足首まであったパジャマ、太ももに黒いラインが入っていたものを履いていた。バルキリースカート展開でちょうど裂けた、というギミック。
あと斗貴子さんは裸足描写がいちいち細かい。特に張り詰めている時の力の入り方が美しく、エロティック。
 
そもそもバルキリースカート、脚より腕についてるほうが断然使いやすいに決まっているのに(移動のことを考えると脚のほうがいいけど)、とことん脚にこだわって表現しつづけたギミック。
手がでかい男の敵キャラが多いのとの対比もあって、彼女の脚のしなやかさが際立ちます。
ほんとたまらん。
 

                                                                                      • -

 
で、彼女は3つの立ち位置になっているキャラ。
1・カズキの先導者、先輩
2・カズキの戦友、背中を預ける相手
3・カズキが守ってあげたいと思う愛しい人
 
カズキは強烈なスピードで成長します。
彼女の存在は、彼を引き立てる。引き立てながら多角的に「少年が感じる女性像」を感じさせてくれる。
 

                                                                                      • -

 
まず先輩としての斗貴子さん。

序盤の名シーン。バルキリースカートの珍妙かつ驚異的な威圧感を表現。
同時に斗貴子さんがカズキにとって、触れることすらできない、強い存在なのをこのコマ一つで見せています。
これも脚がいいよね。
 
彼女のセリフはすべて凛としています。
序盤はカズキを育てる意味合いも、心配する意味合いもあって、非常に口調が厳しい。
であるがゆえに、後半の展開もあわせて「ツンデレ」に見える。
 
でもよくよく読むと、別に彼女ツンデレでもなんでもないよね。
まっすぐに、正直に、カズキに接しているだけで。このシーンでも「彼女が思いうるベストな方法を選んだだけ」。もし彼女が「カズキは来たほうが効率がいい」と判断したら、「来い」と言ったはず。それだけのこと。
恋愛表現は最小限までおさえられた(ってか地球がそれどころじゃない)キャラではあるけど、カズキに対しては常に本音。好きも嫌いも全部出している、割りとストレートな存在だと思います。
 
まっすぐな導き手の存在は、主人公の自分で選択する心までも大きく育てるもの。
そして育っていく主人公によって、導き手がいかに必要だったか、感じさせられる。より一層輝きます。win-win
斗貴子さんが輝いて見えるのは、カズキが輝きはじめるからです。
 

                                                                                      • -

 
戦友としての斗貴子さん。

非常に合理的な行動が出来る人物。ベターな選択を、効率よく選ぶ能力に長けているのが斗貴子さんの強み。
一方でカズキは「矛盾してようが、すべてがうまくいく選択をゴリ押しする」タイプ。
ここで序盤そりがあわなくなる部分ができてきます。
 
斗貴子さんはカズキに感化されすぎて自分を曲げる、ということはほぼない。
中盤、秋水たちを殺そうとするシーンなどは感情的です。けれどそれ以外は、戦士としての彼女の勘の強さ、見抜く力を活かして、最適の方法で切り抜けます。
カズキは別にそれを否定することはしない。ただ自分の意思は、彼女と違っても通そうとする。
 
なのでぶつかることも当然ある。
ぶつかりあい、なかば殺し合いに近いことを行ったからこそ、完全に信じて背中を預ける戦友になりました。
 
これは別に男性キャラ同士でも問題ない。中盤のバディものとしての「武装錬金」は本当にバランスがいい。
ただ、バトルヒロインが相棒、というシチュエーションはもーたまらないのね。特に斗貴子さんみたいに「自分より強い(強さのベクトルが違う)」「共闘することでさらに変幻自在に戦える」相手。自分の足りないところを補ってくれる相互補完の存在。
これが女の子となると、途端に男の子としては、がんばり度10割増です。
カズキは自分の信念のために戦うけど、心のどこかに、斗貴子さんのことが常にあったんじゃないかなあ。
ないわけないだろ?
 

逃避行をする3人。最高っすよね。剛太の切ない幸せな一瞬です。
最も強い斗貴子さんが、彼女を慕う男二人にはさまれて慌てるこのかわいさ。
カズキと並んだシーンだと、斗貴子さんは小ささが目立ちます。何度も言いますが脚が華奢です。
最凶の少女も、揺るがない信念の少年と並んだ時、一気に「愛しい」存在に変わる。
男のエゴ? いいえ、少年の、女性への憧憬です。
 

                                                                                      • -

 
守るべき愛しい存在としての斗貴子さん。

カズキ貫禄ありすぎだろ。ブラボー!
どうしても赤面斗貴子さんに目が行くんだけど、これ一番いいのは右下の背伸びだよ。
彼女は、小さいの! カズキよりも背が小さいの!
カズキは斗貴子さんを、見下ろせるの!
序盤、彼女のバルキリースカートに屈服させられていたカズキが、宇宙規模の成長を遂げ、完全に信頼して命を預けられる存在になった上で、彼が自分の想像をこえた成長をしている。
斗貴子さんの顔は、愛しい恋人を見る顔。同時に、一心同体として大きく育った、自分のもう一つの命への敬意がある。
 
ただここで欠かせないのは、カズキを信じているのは斗貴子さんだけではないということ。

もう一人のヒロイン、パピヨン
これも素晴らしい構図だよね、バルキリースカートを使うとき、もっとがにまたになったりおおぶりになったりしてもいいのに、彼女の脚って基本女性的に動いている。まあ見事なものです。
 
カズキがラスト月から帰ってくるかどうかを待っている時、帰還を信じていたのはパピヨンだけでした。斗貴子さんですら信じきれなかった。
ちょっとゆらぎますよね。斗貴子さんという本妻が、パピヨンという愛人に揺らがされるシーン。
だからこそ、より一層斗貴子さんの信頼は増すわけですが。
 

                                                                                      • -

 
武装錬金のカズキ周りの布陣が蝶・鉄壁。
守るべき存在の妹まひろ。
恋人のように信じあうライバルのパピヨン
彼を導き、同時に最大の壁になる、キャプテンブラボー。
斗貴子さんとの関係をより際立たせる、恋敵の剛太。
帰る場所としての、学校の友人たち。
驚くほど隙がない。
 
そんな中で、先輩であり、戦友であり、守るべき存在にあたる、斗貴子さん。
別に二人の関係が変わったわけじゃない。
まっすぐ槍のように突き進むカズキに対して、まっすぐ平行に、時に絡み合いながら同じスピードで進み続ける斗貴子さんがいた、というだけの話。
並走していれば、たくさんの角度の「少女・斗貴子」が見えてくる。
見えてきた時、読者も主人公も、ぐっと成長させられます。
 

                                                                                      • -

 

傷に触れるシーンは、実にフェティッシュ
この作品の斗貴子さんへの徹底したフェチズムは、彼女の心理の奥底へ触れる行為に近い。この傷のシーンなんてまさにダイレクトですね。
「内臓をぶち撒けろ」とは斗貴子さんの決め台詞ですが、心理面で内臓をぶち撒けて進み続けているのは斗貴子さん側。
今までの信念を貫くだけでなく、更に前にカズキと進むため、自分の醜い部分まで全部さらけだす。ぶちまける。
ぶちまけたことで、ふたりとも強くなる。
 
こんなにドまっすぐで、自分を成長させながら、主人公をロケットスタートさせるヒロインなかなかいない。
いやいるか。「ねじまきカギュー」なんかはそうかも。中の人つながりで「キルラキル」の皐月様も。
 
おっかなさと、美しさと、恋しさがすべて詰まったヒロインって、漫画経験で出会えたなら、宝物ですよ。少年の女性観に影響しまくりですよ。
若い頃「武装錬金」を読んで、斗貴子さんに出会って、ときめいた経験がある人は本当に幸せだと思う。
本当にここまで緻密に、丁寧に、愛情注いで描かれたヒロインに出会えたなんて。
主人公にシンクロしながら、ともに戦う仲間として信頼しあい、命を賭けて守ってあげたいと感じた少女のこと。一生忘れられないはず。
 
 
 
 
おわり。