たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

浅野いにお作品が、すごすぎて、苦手だったんだ

苦手だったんだ。
浅野いにお作品。すごすぎて、どうも頭がついていかない。
すごいのはわかるんだ。日常のどうしようもない気だるさにどう戦うか、みたいなテーマがぎっちり詰まっていて。
でもそれが必ずしも自分の感覚とあうとは限らないわけで、あう人にはそれはもうドンピシャ、貫かれると思う。
でもぼくはだめだった。「おやすみプンプン」はニントモカントモ心が乗らなかった。年を取ったのかな、と思った。

虹ヶ原 ホログラフ
「虹ヶ原ホログラフ」はズシンと来た。浅野いにお作品でもすごく「ぼく」にハマったんだと思う。ひとりよがりなやつばっかりで、感情移入ができないやつばっかりで、そこが感情移入できた。大好きな作品。皆不安でしゃーねーんだからしょうがねえだろ感がもりもり出ている。

その前の「ソラニン」は、嫌いと言っていいほど、読んだ当時苦手な作品だった。
ソラニン(1) (ヤングサンデーコミックス)
多分浅野いにお作品では、もっともわかりやすい作品だと思う。
大学卒業、同棲をして、仕事がうまくいかなくて、だらだら悩んで、仕事をやめて、バンドをやって。
読んだばっかりの時は「ふざけんな!」ッて思った。
バンドは仕事しながらやれよ! 働けよ! なにがおれが支えるだ、支えられてない子供の集団じゃないか、どうして、どうしてみんな夢追い人で、「できる可能性」から逃げてるだけなんだよ。
ふざけんなよ!
ふざけるんじゃねえよ!
ぼくだって……辛くて苦しくて恋人もいなくて寂しくて仕事も嫌で死にたくて……でもドラム叩いてたんだ……お前らふざけんじゃねえよ……。
 
改めて、今もういいおっさんになって読みました。
いい漫画だった。
浅野いにお作品では「虹ヶ原ホログラフ」と同じくらい好きになれた。
多分、1巻はだめだ。まだ受け入れられない。
マンガとしては素晴らしいけど、キャラクターの思想が受け入れられない。
でも2巻では、キャラがみんな「大人」になる折り合いをつける。
 
最高に素晴らしいのは、同棲してた種田のギターを持って、井上がライブのステージに登るシーン。
小さい箱だ。決してメジャーじゃない、アウェーな場所。
歌う歌は、種田の作ったソラニン。一緒に演奏する相手は、種田のバンド。
真っ白になる頭のなか、ただフェンダームスタングを弾いて歌った。
 
「あたしは今日、ギターを弾いて歌った。心臓の鼓動のせいか、音なんて全然聞こえなくて、声は何回も裏返って、きっと目茶苦茶な演奏だったけど、最後の曲、ソラニンはまちがえずに歌えたよ
 
「東京で働きもせず、何やってんだあたしは。……なんて、まぁ考えるけど、こんな日があってもいいな。……って思うよ。」
 
「だけど……この曲が終わったら、またいつもの生活がはじまるんだ。」
 
「あ……曲が終わる……」
 
「曲が……曲が……曲が…………終わった」
 
ぼくは、バンドをやっていたとき、曲が終わるのがいやだった。
中には「よっしゃー!」という喜びの人もいる。でもぼくは、一生でも弾いていたいんだ。
終わったら……終わったらいつもの日常に戻っちゃう……もっと、もっと叩きたいのに……。
 
この経験を経て、井上にどうしようもなく共感し、この作品がどうしようもなく好きになった。仕事はしろよと思いつつも、君はボクと同じだ、と手を繋ぎたくなった。
 
浅野いにお作品は、技術に関しては喝采があると思う。キャラクターに関しては多分万人が喝采する作品じゃない。
「死ぬほど共感する」か「全く共感できない」かの二択だ。どの作品も。
あるスイッチが入って、死ぬほど共感できたとき、宝物になると思う。
そうでなければ、無理して共感しなくていいと思う、そのくらい遠く距離が離れている感覚だから。
 
デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 2 (ビッグコミックススペシャル)
今のところ、デデデデは「萌えとSFに挑戦する気満々だなー」という印象。
面白い試みになりそうだけど、2巻ではまだなんともいえないので見守り中。少なくとも今までのプンプンみたいな共感性を求める作品からは足を洗っているみたい。
そういうのができるのが、器用なんだよなあ。
 
浅野いにおは、かつての虹ヶ原やソラニンのような作品は「今はもう描けない」と言っていた。
あの頃だったから描けた、と。
だろうなーと思う。
だから、その時期の浅野いにおの感性に触れられる人は、どっぷり浸かってほしいなって思う。
つかれなかったぼくのような人は、遠くから見守っててもいいと思う。
うまいのには変わりないんだから。けなすつもりもないし、どっぷりハマった人に文句を言うつもりもない。
ただ、社会現象として「ソラニン」「虹ヶ原ホログラフ」が存在したことは、留意しておく程度のことはしたい。
 
ああ、音楽が、終わる。
また弾きたい。弾ける日がくるんだろうか。
今は、石塚真一「ブルージャイアント」に救いを求めています。
響け!ユーフォニアム」も楽しみ。低音楽器アニメとか最高でしょ。
 
でも最終的に選択して、弾くのは、ぼくだ。

 
 
おわり