たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

シンデレラガールズのエイプリルフール企画「シンデレラパーティー」のやさしい嘘

エイプリルフールって、「嘘をついてもいい日」だよね。
だから、みんなが笑って「嘘かーい!ゲラゲラ」って済ませられたり、ファンサービス的に普段できないネタができるのが、いいよね。
 

でも、元祖モバゲーの「シンデレラガールズ」のエイプリルフールネタ、「シンデレラパーティー 〜ドリーム・ステアウェイ〜」は、「嘘」を「虚構」と捉えてぶつけてきたので、ぼくは慄いているんだ。
 

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ネタバレありでいきますね。
 
プレイした人は口々に言いました。
ゼロ年代のあれだ!」
エロゲーだ!」
「痕だ、雫だ、リーフだ」
仮面ライダー龍騎だ」
聖杯戦争だ」
 
世代で反応変わりますね。
ぼくは「雫だ!」派でした。
 

人の生死と、メタ的な含みのあるストーリー。
長編でした。
ただの「なんちゃってノベルゲームパロディ」じゃない。
一つの笑いもなく静かに幕を閉じる、本格的なノベルゲーム。
一度見たら、次にシンデレラガールズを見た時明らかに見え方が変わってしまう、とんでもないやつ。
 

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簡単にいうと、アイドルがばんばん死ぬ話です。
(正確には「消える」なんですが、途中美穂が「瀕死」になるので、存在が消えることをどう捉えるかはその人次第。物理的攻撃は受けています)
ギャグでもなんでもなく。すごい勢いで、みんないなくなる。
公式ですよ。
 
「アイドル」というのは、かつて伝説のアイドル(こっちは通常の意味)だった存在で、現在進行形でアイドルを目指す女の子のうち、力を持つもの「シンデレラ」に憑く、スタンドのような存在。
夢をかなえるため、「シンデレラ」に覚醒した子たちは、殺し合いを始めます。
主人公の小日向美穂は、自分に「島村卯月」というアイドルが憑いていることに気づきます。
幼なじみの友人の姫川友紀には「本田未央」が、森久保乃々には「渋谷凛」が。
他の「シンデレラ」たちを見つけ、アイドルを操り、ぶつけあう。負けたら脱落、消失。
勝者は敗者から「シンデレラハート」を奪い、夢を手にするアイドルに近づける。
「シンデレラパーティー」とは、その殺し合い。
消滅したシンデレラたちは、「転校」と称されて、静かに学校から姿を消す。
 

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最初読み進めた感想は「おもっしろいけど、単なるデスゲームだったら、やだなー」くらいでした。
とにかくこれはホラーなんだろうと。
特にニナちゃん脱落への布石は本当に怖くて怖くて。

まあ最後までホラーを通して、ラストで「おつかれさまでしたー、クランクアップ!」みたいにハッピーに終わらせてくれるんだろうと。
 
終わらせなかったんだなこれが。
 

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すごいところ。
夢、嘘の意味を問うているところ
夢って、基本「いいもの」として語られる。
でも、ひっくり返せば「執着」でもある。
かつて失った希望を「夢」と言ってしがみつくとき、起きるのは悲劇ばっかり。
人を亡くした悲しみや、トラウマ。それを取り戻したところで、本当の幸せになるんだろうか?
 
シンデレラたちは、各々程度の差はあれ、悲しみを背負っています。
小日向美穂は、私にはそんな悲しみなんてないのに、私は幸せなのに、と首をかしげる。家族に囲まれ、友人がいて、学校に通い……。
実は小日向美穂は、両親を失っていた。
この世界の中では、彼女の「夢」で、両親がいることになっている。
 
姫川友紀もそう。小日向美穂の幼なじみとして登場し、彼女はとても楽しそうにしている。
けれども、彼女は実は幼なじみを亡くしている。
その悲しみを持って、彼女は狂ったようにシンデレラたちを殺していった。
 
希望としての「夢」が、偽りの空間の「夢」の中でのみ叶えられたなら、よかったのに。

 

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すごいところ。
シンデレラガールズプレイヤーのプロデューサーが見ているのは、夢なのか現実なのか問うているところ。
シンデレラガールズと接しているとき、それはもう楽しいですよ。
大好きなアイドルが目の前にいて、彼女たちを愛でながら、ゲームしたり、二次創作したり。
夢ですよ。
 
この夢のナビゲーターは、千川ちひろ
幼なじみを亡くした姫川友紀は、多くのシンデレラに手をかけた。
だから、小日向美穂を「幼なじみ」にして、本当の幼なじみの「夢」を叶えるために踏み進んだ。
彼女は夢の世界のルールにのっとっただけ。誰も攻めることはできない。
 
夢の世界なら、なんだってかなうからね。魔法ですよ。永遠にとじこめられる魔法。

「ええ、その通り! どんな願いだって……そう、失われた人の復活だってできるんです。だって、魔法ですからね」
「いいじゃないですか、夢のままで。ここにいれば、どんな願いも思いのままなんですよ」
「ご両親が亡くなって、つらくて……そんな現実に、あなたは帰りたいんですか?」
「この世界に集められたシンデレラたちは、みんな苦しくて悲しいものを背負っています。彼女たちの生まれ育った『現実世界』は、それほど過酷で、辛い状況にあるんです」
「この街は、素晴らしいでしょう?」
「人類にとって一番幸せな時代の、街です……」
「だから、ここで素敵な夢を見続けましょう、美穂さん」
 
小日向美穂は、両親を失って寂しい思いをしていた。だからその心の穴を埋めるように、望まずにシンデレラになってしまった。
しかし彼女は、その力を使って誰かを傷つけることを拒んだ。「夢」の中にいつづける幸せを、拒んだ。
彼女は「夢」が叶わなくても、つらい思いをしても、現実に戻ることを決意します。
いや、それはプロデューサーである「あなた」が選択します。
両親とは、二度と会えません。
 
千川ちひろは「あなた」に語りかけます。
「けれど、どこから夢だったのだろう」
「この夢が消えたら、私は「現実」にいるのだろうか?」
「あとは、「あなた」に任せます」
「「あなた」ならきっと、本物の夢を……作り出せるはずだから」
「その時、もしできるなら、私にもお手伝いさせてくださいね」
 
「そう、四月一日の優しい嘘。」
エイプリルフールに見たこの物語は、やっぱり嘘です。
で、「シンデレラガールズ」って作品も、やっぱりフィクションなのよ。虚構なのよ。
わかってるけど、それ突きつけてくるんだ。
 
作品に触れた時、それを現実社会で見た時。
おそらく人は、ただの「妄想」ではなく、なんらかの形で血肉にして「夢」にできるはず。
それは二次創作かもしれないし、日常生活での心の支えかもしれない。将来の職業かもしれない。
意外とわからないところで、シンデレラガールズが夢の支えになるかもしれない。
もちろん、この夢の世界に入り込んで、自分の「執着」を抱いて、逃げ続けることも、できる。
 
ちひろさんは、ボールだけパスして、消えていきます。
考えるのは、あなたですよ、と。
これが、四月一日の、優しい嘘。


 

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すごいところ。
配役。
もっとも、アイマスでこれをやっちゃうのがすごいよね。
小日向美穂が主人公、というのはまあ、分かる。
一番フラットという意味の「普通」に近くて、かつ芯が強くて根性があって割りと頑固。主人公向きです。
周りを固めるキャラ陣がいいんだよなー。
ユッキですよ。姫川友紀。最初小日向美穂姫川友紀が幼なじみってのみて「ギャグか!」って思うよ。
 
それが、次々他のシンデレラを消し潰していく。
多分、明るく元気で、美穂より大人なユッキじゃないと、この話は重すぎる。
今まで築いてきた、おばかな20歳ユッキだからこそ、うまくこのヘビーな展開をソフトに、そしてラスト彼女だからこその笑顔で演出している。
 
もう一人、森久保乃々が最高にいい。
普段あの子って、逃げ隠れキャラじゃないですか。視線全然合わせてくれない弱虫っ子。(実際はもっと深みあるけど、表向きは)
ところが今回、すごい根性を見せるわけですよ。
友人である美穂を救いたい、だからそのために命を張る。
あんなにかっこいい「むーりぃ」は初めて見た。
もう今後「むーりぃ」見ても、ちょっと違う意味に見えちゃうかもしれない。
 
あとはやっぱり、一ノ瀬志希

そうきますか。姫川友紀の幼なじみにして良心がここに。
彼女の普段浮ついた性格と、それでいて鋭いキャラ性が、今回のシリアスな話のクライマックスを、きっちりまとめあげています。
 
ニュージェネ三人はみんな「アイドル」として非常にいいんだけど、やっぱり本田未央が大変よかった。
姫川友紀のやっていることを、本田未央は「間違い」だと思っている。
けれども、ユッキの思いを見放すではなく、彼女のために黙々と手助けしてあげる。自分がどうなろうと。
この哀しみの表現、本当に見事でした。本田未央ってそういう子だよ。

 
虚構公演ではあったけど、キャラ性はバッチリ出ているんだもの、すごいわ。
 

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すごいところ。
ソフトにも大胆にも受け止められるところ。
ここ相当考えたんじゃないかな。
ネット見ると、「シンデレラパーティー」はわりと絶賛されています。
ただ、もしこれを本編でやったら、アウトだったと思う。
やっぱり、キャラが虚構とはいえ、殺しあうのは相当抵抗ありますよ。ある。
 
だから、エイプリルフールにやった。
今までミニゲーム「ダイスdeシンデレラ」のような、割りと優しく和むネタをやってきたにもかかわらず、好評だったそれをやらない、という選択肢をあえて選んで、このメタフィクション的なノベルゲームをぶち込んできた。
この日だから、許される、というのを最大限に活用してきてるんだよ。
エイプリルフールという日の、こんな使い方、ぼくは人生で初めて見たよ。
 
一応「キャスト」として最後クレジットされるので、この世界観は映画みたいに演じていますよー、と取れるのもうまい。
最後は含みのあるハッピーエンドになっているのもいい。もちろん、現実がハッピーエンドかどうかは、見る人によりますね。
 
一方でハードな二次創作への穴をぶち空けました。
シンデレラガールズでシリアスものを書いている人は多くいらっしゃいます。
けどやっぱり「これ以上は、どんなに物語的に必要でも、読者の気持ちを逆なでするんじゃないか?」という懸念もあって、ブレーキ踏むこともまた多いと思うのですよ。
それを、公式で「しっかりできていれば、アイドルがひどい目にあってもちゃんと感動できるし、受け入れられる」と風穴を開いたのは、本当にでかい。
 
夏コミで、この風穴から多くの創作が出るの、本当に楽しみです。
もちろん、シンデレラパーティーの二次創作もね。
どのシンデレラが、どのアイドルを覚醒できるのか。ジョジョみたいに考えるだけでも相当楽しいですよ。
 

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すごいところ。
四月一日だけで、この話は消滅すること。
正直、もったいない!
お金払うから、とっといてほしい。繰り返してみたいよ!
けど、これは「夢」であり「嘘」なんだから、四月一日だけで消えないといけない。
ゲームでも、12時間きっかりで針が回って現実に戻るんだから、このゲームそのものが一日で消える、というのは極めて正しい。
今後なんらかのアーカイブとして復活する可能性もあるけど、消えることに意義があるエイプリルフールって、ちょっとゾワッとするよ。
 

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相当きっちり作られた作品なので、キャラクターの魅力を再認識できるし、どういう意図で作ったメタフィクションなのかも考えられるし、このパーティーの世界観を考えるのも絶対面白いはず。
なんで(本当の意味で)死んだ一ノ瀬志希が出てきたのか。
小日向美穂の両親と違って、姫川友紀の夢が創りだしたわけではない。
彼女がここにいるの、相当業の深い世界ですよこれ。
 
さらっと出てきたクラリス、ニナ、美羽、泉、リナ、レナあたりがどういう立ち位置なのかも大変気になる。
ちひろさんの言うことを鵜呑みにすれば、全員なんらかの心の傷を負っていることになる。
もっともサイドストーリー見る限り、乃々みたいな意外なトラウマもあるので、一概に生死が関わっているわけでもない。
 
肉体は眠ったままで、精神だけが塊になっているのがこの世界らしい。
じゃあ肉体は現実でどうなっていたんだろう?
マトリックスみたいな感じだろうか?
 
いわゆる「脳ハッピーエンド(夢の中で永遠に幸せになる)」を選択したら(てか選択できます)どうなるんだろう。
とか。
 
あと、生死をかけた深すぎる付き合いなので、百合物件としての深度が半端じゃない。
美穂乃々、最高でした。ユッキ志希、最高でした。
美穂卯月とユッキ未央のバトルの哀しさ、考えるだけで頭がゴワゴワする!
 
じっくり読んで飲み込むもよし。
最高の遊びツールを手に入れたと考えるもよし。
 
すごい。
 

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すごいところ。
デレステでは、夢の中で、千川ちひろさんが今日だけ、歌って踊りました。

夢。
これ、つなげずに見るの、無理だよ。
小日向美穂が頑張って手に入れた、みんなが必死に努力している、アイドルの世界なのかな。
その架け橋としてのちひろさんなのかな。
とかね。
これからのキャラの見え方、がらっと変わりそうです。
 
追記
「アイドル」という言葉の本質をつついてきたな、と思いました。
ちひろさんいわく、女の子たちの、輝くキラキラしたもの。
小日向美穂が悲しんでいた時、心を支え、憧れさせたもの。
たくさんの人がなりたいと憧れる夢。
そのために人を蹴落とす、という選択をすることもできてしまうもの。
夢を虚構の中に閉じ込めるもの。
誰かの夢を、叶えるもの。
 
真っ暗闇の中の、小さな光。
周りに見える観客の海は、現実なのか、幻影なのか。
「アイドル」とはなにか、それは答えのない問い。
 
 
終わり