帰り道、ミクロな視点で見つかる楽しさと、見つからない恋がある「放課後帰宅びより」
ぼくは「お前ら付き合ってるんでしょ、えっまだなの?うそ?どうみても付き合ってるだろなにやってるの!」系漫画が大好きでして。
「からかい上手の高木さん」をはじめとして「好きな子がめがねを忘れた」「今日から始める幼なじみ」「宇崎ちゃんは遊びたい!」等々。途中から付き合うのはもちろんOK!
その中でも最近ぼくの中でメガヒットなのが「放課後帰宅びより」。
簡単にいうと「帰宅部」を真剣に行う「ハイパー帰宅部」の漫画。
足を痛めてスポーツ全般ができなくなった少年・佐藤瞬。全力で帰宅をするちょっと変な先輩の女の子・佐藤直希に誘われて、「ハイパー帰宅部」に入部して一緒に全力で帰宅をする、という作品です。
…っていうふうに書くと、あまりにも地味すぎて、この作品の面白いところが伝わらないんですよ。毎回悩む。すげー面白いしときめくしワクワクするのに、「帰宅する漫画」というまっすぐな感想だと、何にも面白くなさそう。面白さを伝えるために、あがいてみるね!
すぐに帰ろうとする直希こと、ついたあだ名は「直帰ちゃん」がかわいいというのは言うまでもなし。「君は◯◯なのか」「◯◯してくれ」「◯◯なのだ」という武士みたいな言葉遣いをする、ちっちゃくて子どもみたいな見た目のボブカットの女の子。そして先輩。序盤は瞬が男子ということを全く意識しておらず、かわいい後輩という距離感でぐいぐい迫ってくる。運動神経はゼロ。でもいつも楽しいことを見つけてニコニコ。
序盤は直帰ちゃんの視点のミクロさが、この作品の面白さに直結しています。高校生ともなれば、学校生活ってこうだよな、みたいな大きな視点で、今までの知識を元にうまくやるテクニックを身に着けているものです。しかし直帰ちゃんは純粋な子ども視点であるがゆえに、落ちている石や枝を見つける度に目をキラキラさせます。彼女の想像の中ではその枝は偉大なる剣のようなもの。
道草って、想像力で新しい発見をする楽しさが根底にあったと思います。それはマクロな視点で道全体、区域全体を見下ろしているとわからなくなるもの。地面をよく見て、近所の動物と触れ合って、初めて発見できるものです。なので直帰ちゃんのミクロすぎる視点は他の人が見ている視点と全然異なります。これを人は変人と呼ぶのかもしれないけれども、切り口が人と違うだけです。
この体験を、自身の子ども時代と重ねられる人は、この漫画めちゃくちゃ面白く読めると思います。
そんな体験ないよ?という方に、この作品のラブコメぇな部分をプッシュします。
瞬としては急にかわいい先輩女子に引き連れられて毎日ハイパーな帰宅をすることになったら、そりゃ意識もしますよ。男の子だもん。
彼は最初は直帰ちゃんの行動にツッコミをいれたりもしていたんですが、次第に彼女と一緒に視点を変えることを楽しく思うようになります。そして、自分がスポーツをやりたかったのに足の怪我でできなくなったことを、彼女に打ち明け泣いてしまうほどに心を開くようになります。これがふたりの大きな転機。
なので序盤は「瞬が見た直帰ちゃんの奇行と、新しい視点探し」というのがメインになっています。
ところが最近、直帰ちゃん側が気づいちゃったんですよ! 自分の方こそが瞬と一緒にいたいと、ふたりきりでいたいと願っていたことに! 気づいちゃった瞬間の超赤面がかわいすぎるので、見て!こっちまで顔真っ赤になっちゃう!
まあ、最初に書いたように周りからみたら「え、お前ら付き合ってるんじゃないの!?」案件なのですが。ミクロ視点で物事を素敵に切り取れる人間だからこそ、客観視ができていないのよ。
そこからは漫画も「直帰ちゃんが見た瞬との日々」に視点が変化していくのが、表現としてすごいうまい。直帰ちゃん自身も、自分が瞬を見て感じる胸の高鳴りがなんなのかわかっておらず、慌てるばかり。今まで笑顔で棒を振り回していた子が、自分を制御できず無意識に赤面しまくる様子があまりにもかわいらしい。
個人的に好きなエピソードが、美術の授業の話です。4巻収録34話「絵を描こう」。高校生活の思い出、自分の青春を絵に描いてください、というお題に対し、帰り道と野良猫のボスを描こうとする直帰ちゃん。
最初は題材として「道」「ボス」だけ、少し離れた位置から描く予定でした。でもそこはやはり、ミクロ視点でよいものを見つける直帰ちゃんなだけあります。どんどん好きなものに近寄ってしまう。
描いた絵は、ボスを撫でている瞬の大きな手、画面からあふれんばかりのボス。帰宅時の夕日に照らされて、ふたりの姿はオレンジ色で塗られています。彼女が自身の視点の切り口で描くと、好きなもの(瞬とボス)はとてもとても大きくて、それによって心が満ちているのがよくわかる話です。
もう一個、2巻のカセットテープの話も「今を切り取る」「ロマンを感じる」という点で非常によくできた話なので、おすすめ。今の子はカセットテープしらないよね。
帰り道に後輩の瞬と大好きなものをいっぱい見つけていたから楽しかった。瞬も大好きなもののひとつで、それはLIKEだったはず。でも気がついたら、瞬への意識が強くなっている自分に気がついた。いいラブコメだと思います。
と同時に、瞬と直帰ちゃんが恋愛方面に目が行き過ぎると、せっかくふたりが世界を楽しく切り取ってきたのに、それが鈍るんじゃないかという余計な不安も湧いてきてしまいます。4巻はまさにその瀬戸際だったのですが、絵の話をはじめとしてちゃんと世界は何もかも楽しめるワンダーランドである視点を忘れていなかったので、期待できると強く確信できました。
とても地味な話ですが、だからこそ読んで、かつて心の中だけで遊んでいたものと重ねて欲しいですし、ふたりの淡すぎる恋模様にキュンキュンしてほしい、素敵すぎる作品です。
これは個人的に感じる蛇足なのですが、この作品は男子と女子がそこまで極端に強調されていない、むしろ一部未分化ですらあるのが魅力だと思っています。男子はバカで、女子もバカ。高校生って子どもだし、子どもだから見える大切な視点がある。それがうらやましいんだ。歩こう歩こう私は元気。