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「少女記号」至上主義を「ロリコンフェニックス」から考える。

ロリコンフェニックス 1 (角川コミックス ドラゴンJr. 103-1)
ネット各地で「すごい変態マンガだ!」と話題の「ロリコンフェニックス」。ええ、変態マンガでした。異論はないです。
万人にすすめられるわけがないのは、題名の「ロリコン」の文字がその証。それを手に取って買える人だけ読んでくれというものすごいリトマス試験紙があるこの本、んじゃすすめるかすすめないかと言われると、…んーと、オススメします(二秒悩んだ
いや、確かに変態マンガなんですよ。でも最初から「変態マンガ」だから読むゼ!という人もいるかもしれませんが、「変態マンガ」だからちょっとなあ、という人の方が多いはず。
しかしここで、「ロリコン」の文字を冠しているけれど、それがのどから手を伸ばしきって求めてやまない「少女」が何なのかをちょっと妄想してみました。
あ、妄想といっても少女の脚のこととかを妄想するわけじゃないですヨ?…うそです、少し考えました。
 

●「少女」という記号を詰め合わせた、ベストオブ少女●


このマンガ、どういうマンガかというと「変態から少女を守る変態の話」です。
「変態」という言葉も使い勝手の難しいもので、ただ連呼するだけでは「変態」性を読者に突きつけることができません。しかしその変態が愛するものが、読者にとっても「まぎれもない本物」であると思わせられたときに、その「変態」は蔑みの言葉から「笑い」や「共感」につながっていきます。ほら、「お前エロいな!」「あんたもな!」と言ったときのあの後ろめたい連帯感。あれですヨ。
変態が集中して視線を寄せるのは、少女of少女な「渡部未亜」ちゃん。
容姿端麗、おしとやか、お金持ちのお嬢様でちょっとドジ。加えて服装もたくさんのリボンにランドセルにニーソックスに子供パンツにフリルのスカート。11歳。
いやあ、ここまで「いかにも少女」を詰め込むと、イチゴと生クリームとカスタードクリームとあんこと砂糖菓子とゼリービーンズをのせたケーキみたいで、さすがに濃厚すぎます。しかしそれが、このマンガのキモだと思いました。
この作品に出てくる、愛すべき変態たちが欲しているのは、「本物の少女」ではなくて「少女」の記号なんだと思うのですよ。
だから、こんなネットワークもできます。

ベストオブ少女。
「少女っぷり」って言葉、すっごい今のオタ文化を表すようで個人的にツボなんです。「女っぷり」でも「子供っぷり」でもなくて「少女っぷり」。彼らが愛しているのは「渡部未亜」であると同時に、「未亜が持っている、理想の少女性」です。
 
「少女性」の記号として昔からよく使われるのは「リボン」。確かに大人になるとなかなかつけないアイテムです。未亜はどんな時も、このマンガでは少女でなくてはいけません。だから、

お風呂の中でもリボンです。
こんなにされているのに髪はサラサラ、リボンもしっかり結ばれています。このシーン、ロリコンカエルのスーパーケロリンがボディーソープをかける、というなんとも変態的なシーンですが、決して髪の毛やリボンにはかけないんですよね。しかも、主人公のフェニックス(未亜を守る決意をしているロリコン)も、スーパーケロリンも、未亜が裸だというのに決して手は出さない。ロリコンならこんなにおいしいシーンはないはずなのに、裸を見ようとも触ろうとも決してしないんですヨ。
ここまで変態マンガなのに、そこがとても気になるポイントでした。
つまり、「少女性」を決して「汚してはならない」という暗黙のルールがあるようです。
 

●触れることのできない高貴なる存在、少女性。●


大げさな表現で書いてみましたが、でもそういうのがこのマンガの根底に流れている気がします。
色々「少女」が出てきて、フェニックスはそれを欲して、守るためにのみ活動するわけです。しかし絶対に自分の欲求のために手を出したりせず、「特別な人種」として少女達を見続けています。フェニックスはかなりクセのあるキャラですが、それでもその一途さには目を見張るものがあります。

リアリティの中の「少女性」の部分だけを抜き出した日常は、フェニックスから見た世界の風景のようです。このコマ、天才的ですね。いろいろな意味で。
少年がいない世界ではないんですよね、題8話でエキセントリックな坊主が出てきますし。ですがまったく愛されていません。いやまあ、キャラがキャラだからなんですが。
もう一人出てくる少年もまた特殊ですが、後述。
 
フェニックスから見た世界は、「お母さん」と「BL団(敵)」と「少女」なわけです。このへんの世界観の「狭さ」は「ラブやん」にも通じるものがあるかもしれません。または言い換えると「子供の視線」です。どでかいところには向かず、ただひたすらに「少女」がヒエラルヒーの頂点に君臨している、そんな世界観です。
「ありえねえ!」と言いたくなるところですが、意外と自分達にもそういう瞬間ってあるんですよね。たとえばものすごくおなかが減っているとき、世界的な大ニュースよりごはんが気になったり。眠くてたまらないときに友達から真剣な相談を持ちかけられても、一番ピラミッドの頂点に燦然と輝くのは布団だったり。
もうちょっと言い換えると、猛烈にやりたくて仕方ないゲームの発売日が明日なんだけど大学の講義がびっしり入っているときとか。ああっ、そんなときに講義なんて覚えらんないッス!みたいな。
ある意味、とてもピュアな感情が視界の焦点をぐっと絞るともいえます。絞られた視界から見える「少女」は、結晶のようになっていきます。だから「少女性」の記号の集合体みたいに高濃度になるのも必然。
高濃度化された「少女性」は、憧れの塊へと昇華されていきます。だから「触れてはいけない」し「犯してはいけない領域」になります。
彼が「ロリコン」といわれるキャラの中でも、愛しさを強く感じられて「こいつこそ真のロリコン!」と呼びたくなるのは、その純粋な魂と、未亜ちゃんに必要以上に触れることのない崇敬の心を持っているからです。
え?呼びたくないですか、そうですか。
でも、高いところに「少女性」を置いて、触れるか触れないかは、さまざまな作品の根っこでベクトルを左右するポイントだと思ったりします。
 

●「少女はお菓子で出来ている」論●

男の子は何で出来てるの?
男の子は何で出来てるの?
カエル カタツムリ
小犬の尻尾
そんなこんなで出来てるさ。
女の子は何で出来てるの?
女の子は何で出来てるの?
砂糖 スパイス
素敵な何か
そんなこんなで出来てるわ。
マザーグースより)


フェニックスが見ている少女は、おかしを食べるけれどもトイレにはいかない気がします。もちろん「そんなのありえない」のですが、フェニックスは「少女の幻影」を常に追い求め、それに命をかけているのですからそれでいいのです。BL団も「少女の美しいところ」のみをピックアップして、それだけをひたすらに崇めているので問題はありません。いや、あるんですけどね。
少女がお菓子と何かで出来ている、ってのはよく使われますね。パワーパフガールズもそんなでしたっけ?あと思い出したのはコレ。

タカハシマコ「女の子は特別教」より。
タカハシマコ先生も「少女」を特別な、永遠なものとして描く作家さんです。ただ、女性の観点で描かれているため、生々しい部分もしっかり描かれています。身体感覚…といってもさしつかえないかなあ。毒やトゲトゲしさも交えた「少女性」なんですよね。
しかし、今の「萌え絵」やこの「ロリコンフェニックス」の「少女」はその毒の分も抜いた「偶像少女」だったりします。マザーグースでいう「スパイス」の部分が抜けて落ちているというか。
しかしそんな「砂糖菓子+素敵ななにかで何が悪い?」といわれると、はい、悪くないじゃないか。
さて、未亜ちゃんは砂糖菓子+素敵ななにか、で出来たキャラなのですが、スパイスを加えたキャラもしっかり出てきます。

美女装少年。
この子がまた、かわいらしい上にちょっと毒っけを持っているキャラです。変な話ですが未亜ちゃんの「できすぎた少女像」よりよっぽどリアルで生々しく「少女」してるんですよね。
何回か書いてきましたが、「女装少年」は「少女のイメージと男性の感覚」を持ち合わせたある意味パーフェクト「少女像」。まだ一回しか出てきていませんが、彼がどう活躍するか楽しみです。
 

●マンガ内の「ロリコン」の正しい?位置●

さきほどもあげた「ラブやん」の主人公カズフサも、猛烈なロリコンです。小学生メガネ女子の萌ちゃんにマジ恋愛(というか性欲)をし、玉砕を繰り返します。確かにカズフサはリアルに「ロリコン」を体現しているのですが、彼に突きつけられるのは「時間の流れ」という現実。少女はいつまでも少女なわけではありません。萌ちゃんも女への段階を踏んでいきます。カズフサはただ、取り残されていく。
ラブやん」と「ロリコンフェニックス」の立ち位置って、「ロリコン」という単語で見た場合、「ヨイコノミライ」と「究極超人あ〜る」みたいな関係なんだろうなあと思いました。ああ、例が適切じゃないかもしれませんが、そんな感じってことです。
このマンガの、少女至上主義世界がどこまで続くかはわかりませんが、フェニックスにはプラトニックな騎士でいつづけてほしいものです。襲ったり心移りしちゃあいけない。いや、するかもわからんですが(ギャグマンガですし)、彼にとって、少女が永遠に「少女」のままでありますようになんとなく願うのです。そういう「ロリコン」道を見たいです。
 
と、色々書きましたが、頭空っぽにして読むべきマンガですコレ。いやあ、だって面白いもの。ただ、フェニックスを指さして笑うのもいいですが、時には彼のピュアなところを感じて「ふふふ」と、連帯感を持って楽しむのも、面白いと思うのでした。胸を張って「少女はいいな!」と楽しむもよし、ちょっと後ろめたさを感じながらにやけるもよし。
ニヤけたら後楽園でぼくと握手!
 
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とっても「古賀亮一」文法で書かれているマンガなので、そのへんとっつける人なら読みやすいと思います。