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恐怖が生まれるその場所へ、拳握っていくんだろ?「ゆうやみ特攻隊」

世界は案外「正しいもの」で出来ていることが多いともさ。
もっともな道理で作られて、ぐうの音も出ない事の方が多いともさ。
それでも、正しそうな理論じゃあ通じないものが確かにあります。どうにもならないのに感情が掴まれることがあります。飾り付けた豪華さよりも突き抜けるものがあります。
押切蓮介先生のマンガは、そういうマンガです。 
 

●「怖い」ということ●

「ゆうやみ特攻隊」は、あらすじだけ大まかに書くと、悪霊に姉を殺された少年辻君が復讐を誓って心霊探偵部に入る物語。一応コメディとして始まっています。
おばけは怖い、そして面白い。
そんな押切節全開なので「おばけホラー」としても存分に楽しいのですが、この作品の強烈なパワーはその向こう側にあります。
 
なんせこの除霊方法がいたってシンプル。

徒手空拳で、霊に向かう!
それだけ。
 
しかし、相手を畏怖させる一番のものはその人間の持つ信念だったり怒りだったり恨みなわけです。
たとえば。お化けって怖いじゃん。
なぜ?
命の危険があるから。得体が知れないから。死のにおいがするから。
それ以上に一番恐ろしいのは、自分を超越した感情の、止まらない勢い。
理論でどうこうできない、数字や言葉で打ち負かす事のできない力強さがあるからです。たとえ手を出さないようなお化けだって、そこが怖い。
そんな「恐怖」を、この心霊探偵部の花岡隊長(女子高生)はさらなる「恐怖」で打ち負かします。
 
押切先生がこの作品で描く霊の恐怖は、その威圧感。そして花岡隊長が画面いっぱいに震わせるのはさらなる威圧感です。
そこがおもしろかっこいいところなんですが、そこに辻君の「恐怖」が対比され、迫力は加速していくわけです。
 

●怖いよ、怖いよ、怖いよ●

辻君は第一話から「霊に殺された姉の復讐をしたい」というディープな設定を抱えた子ですが、そんな簡単に感情が恐怖心を克服するわけないやんか。

隊長はそりゃあもう「克服した人間」なのですが、普通は辻君と同じように「怖い!」と思います。でも彼の中の感情はそこでぶつかりあってスパークして、負けます。負けるんです。
一巻の時点では隊長があまりにも万能なため、辻君と一緒に「怖いよ!」というのを楽しむことが出来ますが、そこで終わるわけにいかないんですよ。
 
負の感情が、どうしようもないくらい波のように押し寄せていく中、怒りをもって本当に進めるか?
このマンガはものすごい線の勢いでガリガリと霊を描きます。その絵から噴出すのはこれまたどうしようもないくらいの、止まる事を知らない感情の爆弾なのですよ。
その中を本当に突っ切るのか?死ぬぞ。いや、死ぬどころじゃないぞ。多分何もかも、魂すらも流されるぞ。
その怒りの感情すらも、押しつぶされるぞ。負けるぞお前。

辻君はおびえます。全然ヒーローではありません。
震えます。泣きます。苦しみます。
そんな絶望的なほどに覆いかぶさるような深い水の底から、それでも眼を上げようと必死に顔を上げようとするのですよ。
 

●たった一つの方法●

神々しいほどに力強い、そんな隊長はこう言います。

「いたって単純」
そう、いたって単純なことが唯一の方法です。
隊長がなぜ突き進めるのか。辻君がなぜ砕け散りそうなこの世界で特攻していくのかが、回を追うごとにどんどん描かれていきます。
 
それは本当にシンプルで。でもそのシンプルな一点に魂を込めるのは生半可なことではありません。
この信念が、押切先生のマンガの描き方に如実に現れたのがこの作品だと思います。ものすごいパワーと念をこめて描いたような描写方法、キャラクターの愚直な生き方、恐怖と人間の位置関係がそれはもう豪速球で。
このマンガは間違いなくホラーマンガです。
そして同時に、恐怖に立ち向かう人間の挑戦そのものです。
ゆうやみ特攻隊(1) (シリウスKC) ゆうやみ特攻隊(2) (シリウスKC)
極めて個人的な感想なんですが、押切先生の絵はなぜか見ていてえらい心臓のツボに刺さっていつも泣きそうになります。なんでだろう。多分「人間の感情ってなんだろう?」の部分をとてつもないところから共振させるものがあるからだと思うんですが。何気ないぼーっとした顔や美しい少女を見ているだけで、電車で読んでいて涙がにじんでくるから困るほんとにもうっ。
 
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「ミスミソウ」に見る、閉じた社会と壊れていく心
おどおどしながら、ちょっとだけ少女は前に。「プピポ〜!」
 
〜関連リンク〜
カイキドロップ
押切蓮介リンク
押切蓮介『ゆうやみ特攻隊』1巻(第弐齋藤 土踏まず日記)
ゆうやみ特攻隊一〜ニ(漫画脳)
押切作品って、一度はまると抜け出せなくなる中毒性あると思います。いやほんと。