たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

二人きりの世界の、明るく楽しく狭い毎日。「キルミーベイベー」

●キルミー!べいべー!●

きららレーベルからいい具合に熟成した4コマ漫画がきたよー。
名前はキルミーベイベー
どういうマンガかというのは後々説明するとして、このマンガとにかく表紙が全てを物語るくらいよくできています。
キルミーベイベー (1) (まんがタイムKRコミックス) (まんがタイムKRコミックス)

こういう世界です。
妙に抜けた緑色と、ボケてるのかなんなのかよく分からないこの雰囲気が非常によいセンス。本屋さんで見かけて一目惚れでした。
こういう表紙だと背景ががっちり書き込んであるのも面白いんですが、これあえて一切背景ないのがものすごく象徴的です。
表紙が緑一色で他に何もないが故に、このマンガの二人の世界感が強まりまくるのですよ。
そう、二人は、お互い以外何も今は見ていない。だって楽しいんだもの。
 

●二人きりのやりとりの世界。●

このマンガ、ほぼ二人のキャラ(たまにプラス1)のみで構成されています。

一人が、殺し屋のソーニャ。(左)
…ってなんだか無茶な設定ですが、作中でもその無茶っぷりと、生活の中での違和感っぷりが発揮されています。そもそも「殺し屋っぽい」シーンがあったのは最初と、後半1回襲われた時程度です。
ツインテールで、つり目。そして寡黙でひたすら強い。色々記号の詰め合わせなキャラですが、ツンデレではないです。ツンツンです。デレません。

とはいえウィークポイントがあるのがかわいらしいところ。やっぱねー。完璧超人じゃなくてちょっと抜けてるくらいがかわいらしい。そしてその抜けたところと完璧なところが、もう一人のキャラとのハーモニーになっていきます。
 
もう一人が、凡人のやすな(右)。
この子がもうひたすらに「バカの子」なわけですよ。アホじゃないです、自ら爆発の中に突っ込んでいくタイプのバカです。
たとえばこんな感じ。

勢いだけは負けません。どうしろというのだこれは。
ソーニャの「殺し屋」という設定は前面に出されながらもそうそう事件は起きません。ここでバカなやすながソーニャにべたべたびたびたひっついていくことでマンガは進んでいきます。
 
このマンガで重要なのは。ほぼ二人だけで話が構成されていることです。
やたら「二人」を強調していますが、本当に二人なんです。
ボケのやすなと突っ込みのソーニャの「漫才」だと思うとちょうどいいですね。
学校ものだと数人のキャラが出てきて、いわゆる「傍観者・観客役」がいることが多いわけですが、観客すらいません。ときどーき忍者のあぎりが出てきて雰囲気を変えますが、それでもすぐいなくなるので基本は二人です。
 
たとえばとある回では、ヌンチャクと太巻きを持って屋上にいって、振り回したり食べたりするだけで1話が終わります。
それを読者は第三者視点からぽやーんと見ることが出来るわけですが、たった二人で誰に見せるでもない素の暴走なのに全然歪みがない。作ったやりとりがないからこそ面白いんです。
 
4コマで「キャラクターが作中で、誰か別のキャラに見せるための演技的要素を出す」展開があると、ボケ・突っ込み・観客のバランスがとれて非常に分かりやすくなります。読者は観客と一緒に突っ込むことになるわけです。
しかしこの作品、二人きりです。
んじゃバカやすなに感情移入するかというと、まずしないでしょう。バカだから。
突っ込みソーニャに感情移入するかというと、どちらかというとこちらも威嚇する小動物的なかわいらしさがあるのではたから見る視点になります。
じゃあなんでこの二人のやりとりが自然体で面白いかというと、それは学生特有の世界の狭さに原因があります。
 

●狭いせまーい世界。●

一応ソーニャは広い世界を見ているでしょう。殺し屋ですし。だから冷静です。
しかしやすなの方は本当に「今見えている世界」が全てなわけです。
思いついた「面白いんじゃないかな!」というのをただ目の前にいる相手に披露できればそれで満足です。
むろん、やすなも他に友人がいないわけでもないでしょうが、一切出てきません。それは「目の前にいるソーニャと自分の楽しい時間」には不要だからです。

すごい勢いの脱力感あふれるやりとり。これも誰も見ていません。
でもやるよね、こういうバカなこと。相当親しい相手で、反応してくれると信頼していなかったらでないバカっぷりです。
ソーニャも人がいいというか、実は寂しがり屋なんじゃないかと思うくらいにやすなのボケに全部突っ込みを入れていきます。この関係がものすごーく心地いいんだなあ。
 

この狭い世界は、まるで温室です。
二人きりで、永遠に終わらないような錯覚すら与えられる時間です。
でも楽しいんですよ。殺し屋というなんだか不条理な設定がありつつも、やっていることは普通の女子学生と何ら変わりません。
ただそこに仲のいい相手がいて、バカなことやって、楽しいなあ、と全力で過ごす一日。
きらら系4コマはそういう、女の子だけの狭い世界のぬるま湯が最高に心地よい作品が多いですが、中でもこの「キルミーベイベー」はそれを極限まで煮詰めて「二人ワールド」を作った作品だと思います。
1巻の時点ではそこに忍者の子が増えたくらいで、あとはあいかわらず少人数。今後、すこーしずつキャラが増えていったら、あるいは読者が視点を変えて思考して読めば、視野も広がっていくのかもしれません。
が。こののんきで終わらない時間が心地よいからもう少しここにいよう。
 

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おっと、忍者の説明をしてなかったです。
忍者すげーよ。

うおー、忍者すげー。
 
余談ですが「キャラが多くて、途中から見たらわからない」というきららハードルをこの作品には感じません。だって二人だもん。ぱっと開いて見て、途中からでも面白いです。

勢いのまま二人で海に行って、夜まで過ごす回とかもあるんですが、そりゃあもう「二人は何をして寄るまで過ごしていたのか」を考えるだけでにんまりしてしまいます。
どっちかというと、ハムスターを愛でながら仕草に笑うような、そんな視点でほころべるマンガです。
ちなみに自分は「ムダによく動く女の子」が大好きなので、やすな派だな!でもやすなはソーニャの嫁。まじで。