たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

こんなところが面白い。携帯コミック持つ力と、見せ方のメリット。

自分はもう紙フェチなので、部屋がうまるほど本買って(マンガ・小説・写真集・雑誌にかかわらず)いくこと自体が快感なわけです。
そこにきて今の「携帯マンガ」ブーム。
WEBコミック誌も盛んですが、それ以上にでかい市場になっているような気がします。
まあWEBコミックはマンガ1ページそのままがディスプレイに出るだけなので「どこで見るか」の差でしかないですが、携帯コミックは根本的に違います。
携帯コミック見ている人ならご存じな事ばかりだと思いますが、これ意外とメリットもあるんじゃないかと思うので、ちょっとそれを「マンガの面白さ」の視点から見てみます。
 

●携帯コミックのコマ切り出しの妙●

携帯コミックはあの携帯電話の中に1ページまるまる表示されるわけがありません。
ようは1コマずつの表示になるわけです。

たとえば携帯コミック用に描かれて書籍化された、森島明子先生の「半熟女子」を見てみましょう。

「半熟女子」は女の子同士の濃厚な恋愛ストーリーと18禁ではない程度のえっちシーンの入った、非常にマンガとしてもバランスがよい傑作です。エロあり百合が好きな人は是非。
これは参照のために1Pまるまる切り出しています。見ての通り必ずしも真四角なコマではありません。普通のマンガと全く変わらないですね。
ではこれが携帯の画面だとどう見えるかといいますと。


真ん中のコマはこんな風になります。
まあ感じ方はいろいろありますが、ばばんとコマが出るのでエロさががっちり強調されていますね。
前後関係が順番に読み進まないといけないのと、背景が黒いため、ものすごく淫靡さが増します。
携帯コミックはエロばっかりではなく普通のものも山ほどあるのですが、それでも微エロもの(ヤングコミックとかレベルの)とTLが強いのはこのへんに秘訣があると思います。
 

●携帯コミックのスクロール芸●

とはいっても見ての通り、横長です。
携帯コミックのために描かれるからといって長いコマなくすわけにはいきません。そこで多用されるのがスクロールです。

今度は、元々は単行本として出ていたモノを携帯で配信している、タカハシマコ先生の「乙女ケーキ」から見てみましょう。

はい、かなり横長のコマです。
本で読むときはこれが一発で目に入るので、二人が和気藹々と話している様子と、二人の間にある微妙なぎくしゃくがよくわかるすてきなコマになっています。
これを携帯でどう見せるかは非常に難しいのですが、こんなかんじになっていました。

まず、右の子のセリフと顔がアップになります。
そしてスクロール。

ここで一時停止。
左の子が応答した応えをピックアップして、一瞬の間がある感じを演出します。
そのあとスクロール。

彼女が言った建前的なセリフがここに入ります。
1コマだったものが、実質3コマ見ている感覚で読めるわけです。
これが吉と出るか凶と出るかは受け取る読者次第ですが、使い方によってはかなり、心理描写を見せるためにはプラス効果があります。
 
同じく乙女ケーキから。

少女の繊細な気持ちがあらわれている一コマ。
これはマンガで読むとぱっと全体が目に入るのがメリットですが、それは携帯マンガ二は使えません。ではどうするかというと。

足元から絵がはじまります。
そして上にスクロールして・・・。

上にきてストップ。
この流れの見せ方はかなり上手いですね。
 
マンガが画面全体の「右から左」「上から下」という流れを基本として視点誘導していく技術で見せているとするならば、携帯マンガはそれを一旦再構成しなおして、紙芝居というよりは映画のようなカメラワークを駆使する必要があります。
このへんは日々研鑽されている技術だと思いますが、「携帯マンガ用」にマンガを描いている作家さんもまた、そのへんを計算しているのかもしれません。
もっとも今は今まであったマンガを携帯で読めるようにしているのもものすごく多いので、「携帯でマンガを見せる演出家」が影にたくさんいる、ってことでしょうね。
 

●携帯マンガとコミックスの大きな差。●

はて、メリットもあればデメリットもある。どうとるかは人次第ですが、一応差も見てみます。
さきほどの女の子のシーンですが、実際はこういうコマ割りになっています。

1コマをスクロールさせてみるのと、こうやって横一列で複数人の心理がいっぺんに見えるのでは随分違いますね。携帯マンガでは黒髪の子と、それを見ている子のコマがばらばらのため、別々の視線としてワンクッションおかれてしまいますが、誌面だとやはりそれらの交錯感が一気に並んで見せられることでしっかり出ているため、印象が変わってきます。
 
マンガのメリットは「1ページ」という枠の中でどれだけ色々な感情が錯綜していくのか、時間がどう流れているのか、アクションの力の向きがどう働いているのかを描写できる点にあります。これは「マンガ」のみが持ちうる力です。
携帯コミックはそれが失われるのが、デメリットといえばデメリットになってしまいます。まあ仕方ないところです。
しかしそれを補ってあまりあるような見せ方も、間違いなく存在しています。先ほどの足元からのスクロールは、この少女の心理をさらに深く演出するのに的確なように見せることができるわけです。これはマンガだけではできないカメラワークです。
 
あとマンガと携帯コミックの違いに、コマをまたいだセリフや擬音があまり使えないこともあります。

たとえば先ほどと同じ森島明子先生の「楽園の条件」の1ページ。
え?百合ばっかりじゃないかって?
すいません。好きなので!

二人の間のラブラブな関係がみっちり詰まっている1ページ。「あの子ってセックスするとああなるんだ」のセリフが甘酸っぱすぎて悶え死んでしまいそうです。
ちょっと上の方のコマを見てみます。

こういうコマをまたいだセリフは、少女漫画ではとても多様されています。
が、これが多すぎると携帯マンガとしては見せ方が非常にしんどいわけです。コマ単位ですしね。
なので、こういうまたぎセリフ、またぎ擬音はかなり減ります。もちろんそれで作家さんの技術を殺してしまっては意味がないので、そのへんは編集さんと作家さんの話し合いになるとは思います。これ、といったフォーマットはないでしょう。ただ、少ないのは間違いないです。
 
中にはこんなのもあります。

ダウンロード数が300万越えというとんでもない数字をたたきだした、カマキリ先生の「みはねに全部出して」。題名の通り、エロいです。エロエロですが性器描写がないため18禁ではありません。
この作品はもうガチで「携帯で見るにはいかにすれば面白いか、魅力的か」を計算しつくしている作品です。なんと元々はフルカラーです。すごいですわー。
それを本に収めるとこうなります。

…あれ?なんか妙にこじんまりと。
いやいや、コマからはみ出しまくるマンガ文化になれてしまったせいもあるんですが、とにかく四方ががっちり固められていて一コマもはみだしていないわけです。
これって確かに携帯で見るには最高のまとめ方ですよね。しかし本にするとなんだか妙にこじんまりとした印象を受けます。特にエロシーンが四角の中に収まっているので、携帯で見るイメージとずいぶん違います。まあこのへんは作家さんの個性もあるとは思いますが。
とはいえマンガが面白い+みはねがカワイイことには変わりないので問題はないんですが、「携帯コミック」の長所と、「単行本」の長所の差はこのあたりに生じてくるかもしれません。
 

●規制とか原稿料とか印税とか。●

まあエロなしで、元々コミックスになってるのを掲載するのなら「むしろどんどんやればいい!」となりますが、携帯コミック用に、となると色々難しい問題もあるようです。
一つがエロの問題。特に携帯でマンガを読む層は高校生〜大学生でしょうから、どうしてもそこがネックになります。最近はちょっとだけ厳しいようですね。編集部によって違うと思うので明確なラインはなくグレーですが、18歳認証などしっかりして、どんどんエロ漫画も見られるようにしてほしいなあと個人的には思いますが、難しいかなー。
次に原稿料と印税。
いかんせん「携帯コミック用」に書き下ろした漫画が本になるという保証が全くないです。これは痛い。
 
マンガ「本」が好きでしょうがない隊としては「携帯コミックやWEBコミックはばんばんだして、がんがん本にしてお売りなさいよ!」と心から応援するばかりですが、紙媒体が今赤字になりがちなためWEB以降している部分もあるので、本当に保証がないです。
作品が作品として残らないのはもったいないので、WEB媒体でも紙媒体でも両方が残るのが理想的なんですが…今は過渡期なんでしょうね。詳しい事情は自分はよくは知りません。
原稿料についてもなかなかグレーなようで。新進気鋭の編集部がぼこぼこ出ている部分があって、これまた一定ではなく不透明なため、かなーり曖昧なにおいはします。
 
システムがしっかりして、本を出す機構もきっちり整っていけば、「携帯コミックで話題になったから買う」なんて話もどんどん出てくるでしょうから、媒体としてはものすごく期待はしたいのです。
すっごい個人的な意見でありますが、やっぱり単行本!単行本が出ればWEBでも雑誌でも携帯コミックでもなんでもいいです。それぞれ長所があるのだから、ネット・携帯・雑誌で潰しあわずにうまく作家さんが活躍し、お金が入り、本が出ればいいなあと願うばかりでした。
そういう意味では一迅社コミックハイ!はうまいことやってますね。頑張って欲しいです。
 
〜関連リンク〜
【雑記】ちょ、「ぶっ☆かけ」3巻の少年たちがなんか怖いよwww

松山せいじ先生の「ぶっ☆かけ」はなんと500万ダウンロード!!すげー、そんなに需要あるんだ!?やっぱりこりゃ今後欠かせない市場になりそうですね。
にしても携帯だろうがなんだろうが貫く松山せいじ先生節には頭が下がります。どのメディアでも「自分のマンガ」を描く作家さんは本当にすごい。