たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

リアリティはリアルではないところにある。「涼宮ハルヒの消失」雑感

映画版「涼宮ハルヒの消失」見てきました!
今頃かよ!って言われそうですね!今頃です遅いよ!
 
遅いですが、一応未見の方もいると思うのでネタバレは避けながら感想を書いていきます。
 
まず先に。
これはほんと絶対、ぜーったいといっていいんですが、TV版アニメ見ていないと面白さは10分の1になります。
最低限「笹の葉ラプソディ」見ていないと、感動は半分どころじゃない、5分の1になります。
いやもっとかも。というか「笹の葉ラプソディ」見て無いと意味が全くわからないシーンがあります。もっともテレビ版ハルヒ見てないで映画だけ見に行こうという人はあんまりいないと思いますが、友人を誘って見に行く何かの場合は「笹の葉」だけは最低限・・・!と思います。
つーか、逆に「笹の葉ラプソディ」含むテレビアニメ版全部見ていた人なら・・・これ面白くないわけないよ!
 
正直、「技法としては面白いけどエンドレスエイト8回見るのきついなー」とか言っていた自分ですが、今ならエンドレスエイト8連続4時間見られます。映画の余韻で。
やーい手のひら返しきたー!やーい!(自分を指さしながら)
だってさ、アニメ版ハルヒの、ありとあらゆる伏線(伏線というと語弊があるかな・・・?「情報」の方が近いです)がこの「消失」映画版で組みあがって一つのピラミッドになっているんだもの。原作読んでいる方ならさらに3倍は楽しいはずの小ネタまで入ってます。ちょっとこの辺の話は後ほど。
 

●不思議な時間感覚●

で、上映時間。
スゲー長いです173分。約3時間。
これが不思議なことに、ほとんどの感想サイトさんが書いていますが全然3時間もあったように思えません。
これ理由があって、映画の台詞に詰まった情報量と画面の情報量、両方が死ぬほど多いためだと思われます。
要するに「暇なカット」がないんですよ。つねにキョンはしゃべっているし、しゃべっていないシーンはキョンの一人称視点で画面が物語ります。
 
今までのTV版も一応キョンの一人称視点で描かれていましたが、映画版のキョン一人称視点の徹底ぶりはさらにすごいです。
台詞回しも徹底していますが、なんといっても画面がキョンの目線そのものになっている。世界がキョンの見た状態になっているんです。
何か出来事が起きた場合、アニメーションのカメラの動きは当然それを時間と共に追って行くのですが、この時間の感覚がキョンの見ている感覚になっているので、実はリアルな時間の流れそのものではないんですよね。
つまり映画そのものが「事実」を述べた時間軸じゃなくて、「キョンの感覚」を追体験する仕組みになってます。
だからこそ、パニック状態になっていくキョンの精神にあわせて時間も伸縮しますし、吐きそうなくらい緊迫した静寂の時間はキョンの感覚の通り異様に感じられるような間が取られます。
 
加えて、キョンはパニックになるだけではなく毎回整理をしてくれます。
何が起きているのか? どれがおかしいのか? 解決と言う言葉は正しのか? どこにいけばいいのか?
キョンが整理出来ない時も、整理をしてくれるキャラがいるので、多少聞き逃し見逃しがあっても理解が出来る仕組みです。
(それでも目が離せなさ過ぎて、めんたままん丸、耳の穴ギンギンになりますけど。)
「感覚での体験」→「キョンの思考」→「整理」→「行動」の流れがしっかりしているので、173分が長く感じられません。
いい意味で、こちらに困惑を与える暇が無いんでしょうね。
 
あ、ただし時間が長いのは本当なので、ジュース買う場合はLサイズはやめたほうがいいです。
膀胱は正直だ!
 

●キャラは誰一人捨てられない●

今回の作品のテーマの一つはSF的な展開だと思うんですが、同時にもうひとつのテーマは高校生として貴重な時間を過ごしているというジュブナイル的な内容だと思います。
キョンという、2000年代を象徴するような「無気力、無感動、振り回され型」のキャラ(ホントは違うけど、そういう型にははまる)の感覚を映画で完全にリンクさせたことで、彼自身の中の大きな変化が描かれている、それが最大の面白さだと思うのです。
 
あんまり書くとネタバレになる部分なので遠まわしな表現になりますが、時間の軸を描くということは、青春期の宝物を発掘する作業でもあると思うんです。
「バックトゥザフューチャー」なんかまさにそうですよね。
そして、高校生生活が楽しかったとか宝物だったとかって、卒業してからじゃないと分からないです。高校時代に分かってはいても、大人になってから振り返った時の憧憬たるや!
 
ちなみに自分は灰色な高校生活でした。残念なお話ですね!
でも「ハルヒ」や「らき☆すた」や「けいおん!」が好きなのは、自分がその体験出来なかった理想の高校時代を追体験出来るところにあるわけですよ。
今回の「消失」は、それを激しく感じました。
ああ、ぼくは「涼宮ハルヒ」という作品に強烈な憧れがあったんだと。
キョンの感覚を通すことで。
 
強烈な憧れの目線の先には、SOS団のキャラ達がいます。
今回の映画版は、キョンハルヒ・古泉・みくる、そして長門と全員にきちんと見せどころがあったのが本当に素晴らしい。
無論、あちこちでウワサになっているようにこの映画を観ることで長門のよさが初めてわかるので、そこはもう欠かせないのですが、決してそこだけじゃないよと。
 
長門の話はあんまり書くとバレが多いですのでちょっと書きづらいですね。
ただ、さっき手のひらを返したように「エンドレスエイトありじゃね」発言をした自分を察していただきたいのです。男に二言はあるよ!
本編があって、エンドレスエイトがあって、そして「消失」があることではじめて「長門有希」というキャラクターが完成していく。
この組上がっていく感じには背筋がゾクゾクします。だからこそアニメ一通り確認してから映画見て欲しいと本当に思いました。
キョン視線であるせいもあって、長門の描写の可愛さが半端じゃないです。
なるほど、キョンの目から見ると長門はこう「かわいいんだ」なと。だからキョンの目を通して、長門に恋をする感覚すら受けます。
後半の二択のシーンで胸が締め付けられた人は多いんじゃないでしょうか・・・。
 
で、個人的に魅力が激しかったのはハルヒだと思っています。長門もかわいかったけど、本当に「ハルヒはかわいい!」と感じたのが今回の映画版。
ラスト付近のアレはもう反則的にかわいいってのもあるんですが、キョンハルヒに会いたいと願う気持ちが激しいからこそ、こっちまで飲み込まれちゃうんですよ。
恋? 愛? いやそういうんじゃない。
「会いたい」なんです。ハルヒに会いたい。
映画版で色々あって出てくるハルヒが、その点ちょっとかわったリアリティの描写をされているのが自分の中で激しく印象に残りました。これはまた後ほど。
 
みくるは「笹の葉ラプソディ」の時のかわいらしさがすごかったんですが(特に、眠りこける前にキョンを連れて行くまで)、大人バージョンの良さが映画では本当にこれでもかと出ていました。
正直ハルヒ派の自分ですが、みくるに転びそうになりました。いやうそじゃないよ・・・。あれはやられますよ。
ましてや、キョン視線での今回のみくるは、命綱のひとつでもあるんですもの。しかも大人。自分より年上。
元々キョンは「朝比奈さん好きです」というキャラでしたが、大人みくるとの接触が丁寧に描かれることで彼の中の、まさに「高校生」が浮き彫りになるのを再認識しました。
ジュブナイルとしての「涼宮ハルヒ」は、ある意味大人バージョンみくるによって掘り起こされているのかもしれません。
キョンはまだ気づいてないか、あるいは気づいていても先送りにするべきと判断しているかもしれませんが。
 
そして古泉。
元々好きなキャラでしたが、とある台詞で一気に好き度増しました。
あのシーンで、あの台詞。古泉の切なさがその一言に詰まっていると同時に、一言だけで済ませる彼の抑える心にちょっとグッときてしまいました。
 
で。
一番かわいそうなのは谷口だと思いました。
谷口南無三。・・・いやまてよ。谷口の恋人って誰だよ!ラブプラスじゃないのかよ!
 

●「リアル」●

長々書きましたが、この映画の恐ろしいところは「リアル」の扱いだと思います。まさにSF的な意味でのリアルも含みます。
 
「リアル」ってそもそも何?という話ですよね。現実、というのは認識されているもの、今進んでいるもの、と捉えていいのか。あるいは自分がそう認識しているだけで、他は異なる軸を歩んでいたらそれはリアルではないのではないか?
いや逆に、周りが「リアル」を歩んでいて、自分の認識が違えばそれはリアルではないのではないか。
 
この映画自体はマトリックス的なややこしさはありませんが、時間軸の仕組みは「笹の葉ラプソディ」と絡まりながらかなり複雑です。
で、ハルヒが題名どおり「消失」してからの画面がほんと気持ち悪いんですよ。
まず色のトーンが抑えめになるため、どんより曇った空気感が漂います。ものすごく空気が重そうな描写になっており、深海を動くような気持ち悪さがあります。
次にカメラワーク。異様な動きをします。キョンの目線どおりに追うシーンもありますし、同時に明らかに異様なカメラのアングルで描かれるシーンもあります。
こう書くとかなり奇怪なシーンのように見えますが、何がすごいってそれが普通のシーンになっているのがすごい。
独特の気持ち悪さをアニメーションで表現しながら、それがTV版の派手なSOS団のバカな画面と明らかに違っているのに、逆に妙に生々しいんですよ。
キョンがまさにそうだと思うんですが、感受性が強い人は画面酔いするかもしれません。
酔うというよりは、微熱のクラクラ感に近いでしょうか。心地よくないです。
 
心地よくないのにリアルというのも不思議なんですが。
物事の「リアル」な感覚を描くには、背景や物事を写真の通り描いてもリアルな映像にはなりません。
広角レンズで広がりを意識してみたり、望遠レンズでフォーカスを定めて鬼気迫る感じを使ったり。
あるいは「正しい」視点移動ではなく、感覚的な視点移動を利用して見たり。
「そのまま」ではない特殊な感覚描写をすることで「リアル」っぽさは作られて行きます。なんらかの、誰かの視点のクセがあることではじめてリアルになる。この映画はそれをきちんと意識しているから、怖いのです。
もっともこのへんの描き方は映画では基本的に混ぜ込まているようなものなのかもしれませんが、少なくとも自分はこの映画に含まれた独特の気持ち悪さと、開放に向かっていく画面の如実な変化の波に強烈に飲み込まれました。だから、うまい、と思います。
ハルヒの描写も非常に特徴的。とあるシーンで極めて生の女子高生らしいハルヒが描かれるのですが、それが今までのハルヒと全然違う。全然違うけどそれは正しい「女子高生の反応」でもあるんです。これがショッキングでもあり、だからこそその後のシーンの感動の反動もでかいんです。どちらが「リアル」なのか、全てはキョンの視点を通して観客に委ねられます。
 
キョンが見ている世界が「リアル」なのかどうか、というのはモノローグと画面で描かれて行きます。
当然、キョンが当惑すれば観客も当惑の渦に巻き込まれます。その巻き込む手法が、現実を越えた「リアルっぽさ」の描写です。
どこに「リアル」を求めて行くか。それが作品のテーマの一つにもなります。
どれを選ぶ? それは正しいの? 誰が幸せになるの?
 
この「リアル」感覚と、受動から能動への変化は、ある意味00年代〜10年代の鍵になるんじゃないかな、なんて大げさなことを考えたりもしました。
まだはっきりとまとまってないので言葉に出来ないですが・・・。
いい意味でクローズドで困惑する人間の「セカイ系」を、開いて必死に脚を一歩踏み出して歯を食いしばって「自分」の枠から出ようとする。
そして、出られる!
「リアル」の中で苦しみ悶える高校生像を、大人の憧憬の目線で見ながら何かのためにポジティブに進んで行き、コミュニティを作っていく。閉じているけど開いてもいる。この独特な感覚の旗手に、この映画はなるのではないかと思います。
 
最も気になるのは、高校生が映画を見てどう感じるか、ですね。「けいおん!」の時も同じ質問をして、教えていただきましたが。
多分テレビのSOS団は魅力的に映ると思います。じゃあ映画版は、どうなんだろう・・・?
 

●完成させるのは観客●

アカペラで歌われるエンディングスタッフロールで帰るのは絶対にやめましょう。って言うまでもないですよね。
スタッフロールの後、とあるシーンが描かれるのですが、これが全く「論理的」なシーンではないです。キョン視点じゃないからです。
しかし、とある一瞬のシーンに無限の解釈が出来るような余裕を残して、映画は終ります。
つまり、最後の最後に、映画の解釈を観客に完全に委ねて終わるのです。
 
解答はありません。
100人がそのシーンを見て、100通り色々な考えをすればいい。
そこでこの映画がはじめて完成します。
自分の中にも一つ答のようなものは浮かびましたが、それはここでは書きません。
だけど、見終わった人同士で「俺の『消失』はこうだった」という話し合いをしたら、面白いでしょうねえ。
 

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余談です。
消失を見て「長門俺の嫁!」って人が多いと聞いたんですが、うん、確かに長門すごかった!
でも自分は強烈にハルヒがかわいく見えたんです、ハルヒが恋しくて仕方なかった!(キョン視点で)。
で、一緒に見に行った友人に「ハルヒかわいいよ・・・って思った」と言ったら。
ハルヒがかわいいのは太陽が昇るように当然で、『消失』は長門の本質が分かって魅力が最大に広がるのがいいんだ」と言われて心の底から納得しました。
どっちがいい、じゃないんですよね。「みんながいい」。それがSOS団
 
余談2。
キョン妹萌えの人へ。
キョン妹今回めちゃくちゃかわいいのぜ!
サンタを信じる11歳は稀少価値だ。
 

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