たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

POPな少女と、緻密に描かれた田舎ライフは、ぼくらの憧れ「のんのんびより」

あっと先生の「のんのんびより」。
表紙買いでした。
が! 実を言うと買う時1分くらい悩みました。
確かに今田舎ネタはブームだし、大好きだ。そして女の子たちもかわいい。なら買いだろ……しかしなんだこの違和感?と。
1分たって分かりました。
ああ、この子たち垢抜けてる
「田舎」という記号にはまってないんですよ。女の子たちが。だけど田舎をテーマにしているこの作品。なんだろう、これはすごい化学反応起こしているんじゃないか?
そしてカートに入れたのでした。
 

●垢抜けた田舎少女●

実際見てみると、やはり少女達垢抜けていました。

左から、東京から来た小五少女蛍、小さい中二の小鞠姉さん、中一のバカの子夏海、マイペース小一れんげ。
東京から来た蛍が垢抜けているのはまあわかるとしても、中学生二人の髪型、かなり意識的に手を入れています。制服も芋臭くなくて、とてもおしゃれです。
小一のれんげにしても、「どうせ子供だから」という視点がなく、きっちりとかわいく着飾り、髪型を整えています。
もう作者が、……と書くと無粋ですね、少女達がきちんと「かわいくありたい」と言うのを意識しているんです。
 
田舎作品、というとどうしても垢抜けていないキャラをどうしても求めがちです。
「田舎の人=垢抜けない」という意味ではないです。記号として分かりやすいんですよその方が。
ところがそれを一切排除しています。女の子は女の子として、かわいくある努力が見られます。

これは家の中での風呂上りの夏海なんですが、これ見るとまさにそれが分かります。
気を抜いているときは、垢抜けないんですよ。
つまり、女の子たちは人前にでる時はかわいらしくしようとちゃんと心がけている。
これがうまい具合に表紙のビジュアルへとつながっていきます。
一見、「ちょっとリアルから外れた感じの『萌えキャラ』の記号を持っている女の子たち」「田舎」という組み合わせで、うまい具合に化学反応を起こしているんですよ。
まあ、れんげだけは紫髪ですが、このへんは実際に読んでみると「れんげは仕方ないかな」と感じさせる描写もきちんと用意されています。これは後ほど。
 
「おいおい田舎はどこだよ?」と言われると思いますので、その田舎描写を見てみます。

わかりやすいのはこういうコマでしょうか。
キャラクターはそれこそきらら系4コマに出てきそうなデザインになっていますが、とにかく死ぬ程緻密に背景を描き込んでいます。描き込んで描き込んで描き込みまくっているので、画面的にはちょっとだけ見づらいです。
しかしその「見づらさ」が実はこの「萌え系キャラ」と「リアリティのある田舎」の光景をうまく溶け込ませることに成功しています。
例えばすっきりした背景にしてしまって「萌え」寄りにすれば、きっとこの作品はそれほど目立たない地味な作品で終わってしまったでしょう。また「リアル」寄りにしたら、地味な田舎少女達の魅力は引き立ちますが、キャッチーさは激減します。
 
キャラの魅力を最大限まで引き立てるためにキャラ絵はマンガチックに、背景はとことんまで細かく描写して手を抜かない。
このかなり変わった手法が、「のんのんびより」という作品をかなり異質な作品にしています。
実質、物語らしい物語は存在していません。オムニバスでのんきな生活が続いているだけです。
しかしメリハリとテンポが非常によい秘訣の一つが、そのキャラのかわいらしさと描き込んだ背景の特殊さにあるんじゃないかと自分は感じています。
 

●キャラの「自分」感覚●


もちろん漫画の技法としての巧さもあります。
縮小しているので分かりづらいですが、一番上のコマと左下のコマの「田舎」表現は鬼気迫るモノを感じます。トーンで誤魔化さず、がりがりと線で描き込むタイプの作家さんなので、とにかく背景を見ているだけでも面白くて仕方がない。
メイン人物以外のもの(植物・動物・機械・モブの老人など)も描き込みがとにかく半端じゃない。ちょっとした線画画集として楽しむことが出来るレベルです。
 
ん?
確かに「キャラがマンガチック」なのはギャップとして確かに面白い。
面白いけどモブキャラや動物までリアルなのにキャラだけマンガチックなのはやはり不思議な感触があるのでは?
 
そう、一読するとこれすごく不思議な感触です。
ところが一話を読み終わった時点で、キャラと背景の感覚の差異がどこにあるかが分かるようになります。

これは木造校舎の廊下の図。
確かに写実的ですが……違和感、ありますよね。
そう、これはキャラクターが見ている世界の感覚なんだと思うんです。
ようするに、このシーンは蛍と夏海にとっては「5人しかいない学校は広すぎる」という感覚そのものの表現。実際にここまで一点透視かというとそんなことはないんでしょう。あくまでもキャラクタの目を通じてみたら、いわゆる「田舎」の世界はこう見えるんです。
 
ひっくり返せば、一生懸命に着飾ってPOPな感じのキャラクターの少女達は、自分をそう受け止めているという穿った見方も出来ます。
逆に言えば、近所の老人や動物は自分から離れた世界なので、写真のように写る。
自分たちは「私着飾ってオシャレ一生懸命している!」という意識があるので、POPに写る。
そんな対比です。

これは東京から引越してきた小五の蛍。
やはり「自分は都会から来た」という自意識+周囲の意識があいまって、非常におしゃれなキャラになっています。
また小学生だから私服というのもうまい。だって中学校だったら制服だから、そのへんのキャラ差なくなりますものね。
 
この対比実はキャラ性にも影響しています。さっきの図の再引用ですが。

右端の小一はまあ、小さくて当然として。
右から三人目の中二の小鞠です。すごい小さく描かれているんですよ。あらゆるシーンで。
実際に小さいのもあるんですが、それ以上にデフォルメされたちんまりさです。
その小ささがかわいいんですが、実はこれ小五の蛍(左端黒髪)視点。
蛍は「小さい小鞠先輩が大好き!」という設定があるので、ことさらに彼女の目を通すと小鞠が小さくなります。
 
このキャラの視線を通じた「お互いの感覚」と「自らの身体感覚」と「周囲の環境」のバランスが、綱渡りをするような不思議なバランスで保たれているのに驚きました。
驚いたなんて書いたら大げさですが……「ゆる漫画文法」と「リアル」の調合されたこの作品を読み終わった後に、絵柄と世界観にどっぷりはまっている自分がいることには割と驚かされます。何度でも読みたくなってしまうし眺めたくなってしまうんです。
バランスが本当に特殊なので、相当絵柄には試行錯誤があったんじゃないかしら。
 

●れんげマイペース●

個人的にはおばかの暴走列車夏海さんが好きなんですが、この作品でキーになっていて、かつ異彩を放っているのは小学一年生のれんげです。
なんせ一人だけ年齢離れていますし、感性があまりにも他の4人からかけ離れています。
その「宇宙人」っぷりがおそらく、彼女の髪の毛だけリアリティの無い紫で表現されることになっているんじゃないかな?と邪推します。

この△(さんかく)口は、「みなみけ」などをはじめとして多様される記号になりましたが、ジト目+△口のれんげがとにかーくかわいい。
周囲の子が「かわいい」「面白い」という視点で見ているので、キャラ目線フィルターも相まってとにかく異質な小動物のようなキャラになっています。
 
先程も書いたように、この作品物語らしい物語は排除されています。
そこにある日常を淡々と描いているのです。
その日常の中で異彩を放つれんげ。やはり「田舎舞台漫画」というだけじゃなく、キャラクターそれぞれの視線がきちんと別々に描かれているため、個々の感覚が全く別なのが魅力の一つです。どこから読んでもわりとキャラの違いが一発でわかる描写方法は、画力だけじゃなくてキャラの性格描き分けが上手いからだと思います。

れんげの見ている世界は、他の子たちにはわかりません。
わかりませんがれんげは世界を、この田舎を体全体で楽しみまくります。
極端に一人だけ年齢が離れているのもあって、れんげが作品の原動力になることも多いです。
正直、この系統のマイペース少女キャラ(例・はなまる幼稚園の柊ちゃんなど)が好きな人なら文句なしに大プッシュしておきます。
他のキャラもそうなんですが、ある程度記号的に「萌えポイント」をつかんでおきながら、ちょっとだけずらして独自性を持たせてキャラに魂を吹き込むのが非常に上手い作品だと思います。
 

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長々と書きましたが、「のんびり」漫画なのになんども読ませてしまう画力と視点の入れ替えは本当に絶妙。びっくりした!
最初感じていた違和感は、わざとだったんだなーと自分の中でカチッとはまったときに、面白くて仕方なくなりました。
実際内容も、のんびりギャグが好きな人ならたまらない内容だと思います。それをしっかり描かれた田舎の背景が補佐している感じで読めます。
先程も書いたように、最初は描き込みがすごくて観づらい印象も持つかもしれませんが、気づいたら引き込まれるので気にならないどころか、この町(村?)にいるんだと言う楽しみ方が出来るようになるはずです。
おまけですが、あと一人生徒います。でも割とどうでもいいです。

で、田舎もの「流行ってる」感覚があるんですが(例・サマーウォーズ宇宙ショーへようこそ!)流行ってる・・・ってほどの量はそこまではないですね。やっぱり感覚かしら。
ただ、「田舎」を舞台にした作品が今後、人気を博していくであろう予想はしています。
知人と話していて言われたんですが、それは「都会を舞台にした作品」からの脱却としての作りだったり、あるいはメイン購買層の20代の「ノスタルジックをくすぐる」などの点から、かもしれません。
その中で、この「のんのんびより」のようなすごい作品がドンドン出てきたら嬉しくて涙が出てきそう。
「田舎+少女の日々」は、手の届かない憧れなんです……。
いや、ほんとは届くけど、イメージとして、ね。
 
人生って あっと いう間なので。(作者オフィシャル)