たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

「CUT」の長井龍雪監督インタビューに、強く感銘を受けるなど。

今月の「CUT」、各地で話題になっていますが。
「あの花」好きは買ったほうがいいです。
ネタバレとかはほんと、一切ないんですよ。本当になんにも。
ただ、長井龍雪監督と岡田麿里さんについてものすごく貴重なインタビューが載っているので、「あの花」を見る時知っていると非常に大きなパワーになると思うんですこれ。
 

長井龍雪監督の大切な物●

「あの花」のメインスタッフは「とらドラ!」チームなわけですが、中でも長井龍雪監督のインタビュー、たった2Pなんだけど、ぐっときたなあ。
まず先に、ノイタミナ枠の山本プロデューサーの話から。
ノイタミナ枠はいわゆる「コアなアニメファン向けではない」枠、というのがイメージとしてあります。

「ライトなマンガ好きとか、テレビドラマをよく観てる人がなんとなく知ってる物としてのアニメっていう意味では真ん中なんですよ。でも、いまは真ん中より脇のほうが重いし濃いしっていうところで、メインであることってそんなに価値がない状態になっている。そこから濃いアニメファンに向けて舵を切ってるのが今です。だから、一般の人からすると『今までノイタミナ観てたけど、最近のはよく分からないからいいや』って思う人が増えてる可能性もあるし、逆に濃いアニメファンからすると『なんだ、ノイタミナって向こう側のモノじゃねえのかよ』っていう、非常に不安定な状態で(笑)。『あの花』なんてまさにそうなんですよ。『なんで(ノイタミナで)おれ向けのアニメやるんだよ!』って思ってるアニメファンはいっぱいいると思いますよ」
(「CUT」6月号 山本幸治インタビューより)

そうそう、この「向こう側」「こっち側」感が面白いです。
つまり「メインカルチャー」と呼ばれていた物は今マイナーになり、「サブカルチャー」だったアニメファン向け作品が売れているという逆転現象。
この中で「どこに玉を投げるか」はすごく難しいと思います。
 

「いわゆるコアアニメファンがドンピシャリではまってくれるかどうか、そこは、みんな博打でやってると思うんですよ。今回はその当たるか外れるかわからない大博打を打たなくてもいいと。だったら普通にしてやろうよっていう(笑)」
(「CUT」6月号 長井龍雪インタビューより)

なるほど、普通、なんですね。
 
「あの花」を見たときに感じたのは、「普通」が描かれすぎて逆に「怖い」という感覚でした。
ファンタジーを求めて開いてみたら、「普通」だった。
アニメ的なセオリーがない分、異質だった。
だから、怖かったのです。
その裏に何があるのか分からない、何かを考えてしまう。
 
実はアニメの持っている力、その「普通」が持っている力をよく知っている方なんだな、と強く感じました。

「アニメはきっと負けないっていうのはつねに思っていることなんですけど。まあビジネスうの規模云々っていうことはまた別の話としてありますけども、基本的にはアニメほどおもしろいものはないって信じて作ってるんで。そのへんがブレることはないですね。アニメって、生の役者さんを使うのと違って、全部作れちゃうわけですよね。そういう意味で、一度ハマるとものすごく気持よくて、絶対に抜け出せない世界だと思うんですよ。逆に、そんな作品を否定されるとものすごいダメージが来るんだけど(笑)」
(「CUT」6月号 長井龍雪インタビューより)

アニメは面白い!
そう言い切ってくれるこの心地良さ。なんでもできる、全部作れる。こんなに気持ちいいものはない。
そう、そうなんだよ。
じんたんがね、一話の最後で走るシーンの最高の心地良さ。
あれは役者さんでももちろんできるけど、アニメでやるから意義がある。
「完璧に思ったままのものを出せる」という快感です。
一番感銘を受けたのはそこだけじゃなくて「そんな作品を否定されるとものすごいダメージが来るんだけど」というところでした。
ですよね。
信じているのと、否定する人がいないのは別、ってのを分かりながら作っている。
これって実はとても重要だと思います。
自分が信じているから、この作品においてのこれはジャスティス、とはならない。
長井龍雪監督のインタビュー非常に濃くて、観客と自分たちの立ち位置についてもおっしゃってます。
そこを気にしすぎてしまうということも。
また、「うまく怒れない世代なんだろうなと。ちゃんと文句が言えないんで、作品も紆余曲折してしまうという」ともおっしゃってます。
 
とらドラ!」や「あの花」で見たかったのはまさにこれなんですよ。
正義や熱血や友情でバシッと解決するのがみたくないわけじゃないです。見たいです。
でも「そうじゃない人生」を知っているから、遠回りしてぐるぐるしちゃうのこそが見たいんです。
そこで頑張るやつらの姿が、見たいんです。
 
あなる役戸松遥さんによると、最終話の展開はキャストにはまだ内緒だそうです。
台本を見たときのお芝居に活かして欲しいから、という監督からの意思です。
観客も、声優さんも、みんなキャラにシンクロしていく不思議な作品。
 

●超速ライター岡田麿里の居場所●

「簡単に言っちゃうと、量を書いてないと他のことをしちゃうんですよ。イタいことを言うんですけど、生きてる実感がないとやってられないっていうか。気持ちのアップダウンが激しくないと、書けなくなっちゃったりするんですよね。理想的な状況で仕事してると、いろんな欲求が薄くなっちゃう。なので、ある程度の数を持ってないと仕事に腰を落ちつけられないっていうのはあります」
「量があったほうが立ち止まらない……というより、立ち止まれないようにしておきたいというか。それぐらいの状況がちょうどいいのかなっていう」
(「CUT」6月号 岡田麿里インタビューより)

にしても、オリジナル本で「あの花」「花咲くいろは」、そして「GOSICK」の構成と量が尋常じゃない。岡田さんすさまじすぎますよ。
生きている実感、というのは分かる気がします。やっていないと落ち着けない。
それはもう「あの花」という作品にそのまま出ていると思います。

「仁太が引きこもりだったりとか……わたしもそういう時期が長かったんですよ。他にも今まで避けてきた部分を書くことができたのは、長井君と田中っちだったらしっかり受けとめてくれるから。そのうえで、華やかさをもってきちんとアニメとして昇華してくれるから。あのふたりじゃなかったら、もっと頭でっかちなシナリオを書いてたと思うんですよね」
(「CUT」6月号 岡田麿里インタビューより)

「あの花」は岡田さんにとって初めての「自分企画」だそうです。脚本家の自分企画ってあるんですね。
自分の企画だから、長井監督カラーにしたい。
キャラデザの田中将賀さんがいるから、チャンスだと思ってもっとホームラン狙いを行く手もあったけれども、岡田さんが選んだのは「この機会に恥ずかしいぐらい飾らないで、そのまんまガチのものがやりたい」という道でした。
先程の「声優さんもラストを知らない」と似たものを感じます。
もう全員で、全力投球で飾らないでガチで行こうよと。

「単純に言っちゃえば、自分がろくな青春時代を送ってないってこともありますけど(笑)でもわたし、自分が通り過ぎてない青春を書けないんですよね。なんか昔から他の人のほうが楽しかったんです。自分大好きなくせいして、他の人の人生のほうがおもしろそうに見えて、うらやましくって。だからこそ、多くの他社を書ける群像劇は面白い。他者がどんどん移り変わっていく話、自分に接点のないとこで動いていく話、で、たまに自分もすれ違わせてもらえるみたいな」
「作品だけじゃなく、わたし自身もそう。居場所がほしい、誰かに求められたいって欲がほんと強い」
(「CUT」6月号 岡田麿里インタビューより)

読むとすごいしっくりくるんですよねえ。
「あの花」も「とらドラ!」も確かに、居場所があったりなかったりしてぐるぐる回ってる。しかも一人じゃなくてみんな。
特に「あの花」はほぼ全員と言っていいほど居場所が見つからなくて焦ってる。
インタビューの中身もぶっちゃけてますね。引きこもり告白してますし、エロ脚本の話や「糞尿ライター」と呼ばれた話も(トイレに行くシーンと生理がやたら多かったため)。
その分を「食べること」に回した、というのも興味深い。
なにか制御しきれないものがあって、それをグルグルグルグル追いかけて、見つからなくて必死になってる連中がいっぱいいる。それが岡田麿里さんの根にあるのがよくわかる長編インタビューです。
 
こうしてみると、たまたま今回そうなだけかもですが、長井監督と岡田麿里さんの組み合わせってすごいシンクロ率なんだなあと痛感。
一流エンタティナー達が、もう何もかも全裸直球で投げてきたのが「あの花」だとしたら、どおりでこっちが受け取ったときにまともに受け止めきれないこともあるわけだ。
ぼくとかさあ。
まだまともに受け止めきれないよ!
もっと投げてきてください。
 

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今月のCUTは他にも新房監督や河森監督、あおき監督のインタビューも載っています。
今後大きなポイントを占めていく方達だと思うので、読んで損はないかと。いろいろな雑誌すべて新房監督のインタビュー内容の濃いこと濃いこと。どんだけ。
にしてもあおき監督の、30代の監督さんやプロデューサーさんたちが商品性と作品性の両立を求めている、というのはドキッとしますね。
楽しくて、買いたくなって、作り手が楽しんでいるアニメ。
視聴者から、何卒どうぞよろしくお願いします。