たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

青山静男「少女たちの日々へ」

んで、紀伊国屋うろうろしてたんだけど。
…だめですね、本当にだめ。
普段見ないタイプの専門書多すぎて楽しすぎ。特に美術コーナー。もうちょっとだけ好みの写真集増やしてほしいとこだけど、文句は言いません面白かったから。
小一時間ハンス・ベルメールの画集とご対面して買おうかどうかでもこれ高いなあ写真集持ってるしなあ、とか思いながらふと横に目をやったときに、胸にきた本に出会っちゃって、買っちゃったですヨ。

少女たちの日々へ①/少女たちの日々へ②(青山静男
北海道廃線駅跡写真集(亀畑清隆)
これで1万近くいっちゃったので、ハンス・ベルメールはまたの機会に見送り。あとラブホテル廃墟写真集もものすごくほしかったけど見送り。
はて、今回は青山静男さんの写真集がすばらしすぎたので、そっちのお話。
 
「少女たちの日々」はロリコン写真集ではないです。そう見ればそう捕らえることもできるかもしれないけど、きっと何ページか見ていたら、少女たちのこっちを見つめる「半端な視線」に、幼き日の自分(男女問わず)の姿を見透かされているかのような気分になること間違いなしです。「昔人形青山/K1ドヲル」の管理人の弟さんの写真ということで話だけは聞いていたんですが、売ってるの見たのは初めて。「季刊エス」にも宣伝載ってたような。
いやね、最初買うときやっぱり戸惑うわけですよ。どこかしら背徳のにおいがするから。背徳といってもマルキド・サドっぽい意味じゃなくて、男の子がクラスの女の子と遊んでいたら「あ、お前女と遊んでるんだー、やーい」って言われちゃうときの後ろめたさのような。女性ならきっと逆の気分。
この写真集、昭和50から60年代の少女たちの写真ばかりを集めてるんですが、妙に生々しい。なんだろうこの感覚、なんでこんなに自分が見透かされてる気分になるんだろ?と思ってたら、帯の解説でストン!と心に入り込んで、買うこと決めました。

シズオの写真の子供達の多くが微笑んだり、はにかんだり、戸惑ったりしている。70%の表情である。100%の表情で大笑いしている子供は殆どいない。表情に余白がある。だから託せる。そして託した写真の中で、私も子供達と少しだけ遊んだ気分になる。シズオは子供達も、病気も、死さへも、受け入れた。運命のまま何事も受け入れて生き、果てた。だから託せる。人は、受け入れる者にしか託しはしない。

撮影者の青山静男さんは45歳という若さで亡くなりました。50、60年代の生のままの少女達の姿の美しさをただひたすらに撮り続けました。
子供達と戯れる彼の姿は、まるで子供のようでした。大きなカメラをかかえて、やっぱり70%の笑顔で、そしてロックが大好きで。カメラを抱えていると「何それー」と近寄ってきたおおらかな時代。
彼の写真の撮り方は特殊でした。写真の撮り方っていうとかなり弊害があるかな、「子供とすごす時間の切り取り方」というほうが正しいかもしれません。公園でたたずんでいて、少女達と仲良く遊んで、カメラは向けない。本当に親しみを持ち合えるようになって、明日も会おうねと約束をし、そして彼女達から「おっちゃん、写真とってー」と言われるまで撮らない。だからこそ、撮影された少女達は信頼した顔でこちらに視線を向けます。その視線が、先ほどもかいたように、なんだか少女も見てるこちらも気恥ずかしいのです。

しかしその間に世の中も変わった。人の匂いがなつかしい大阪の町々も次々消え、受験戦争に明け暮れる子供達が路上で遊ぶ姿も見られなくなった。そこへ世間を震撼させる幼女連続殺人・Mの事件がおきた。もはや、見知らぬ子供達にレンズを向けることさへ許されない時代となった。シズオも、もう子供達を撮ろうとしなかった。少しずつくずれていく体力と癌再発の怯えと戦いながら、ロック音楽と残された多数のフィルムの焼付け作業に没頭した。暗室の中でだけ、いつでも昔のように子供達を遊ぶことが出来た。

誰がなんと言おうと、宮崎勤事件が残した傷跡は子供にも大人たちにもくっきりと残ってしまった、それが如実に現れているのを感じ、胸が切られる気持ちになりました。
死と向かい合いながら、同じように死に行く「元気な子供達の姿」を切り取った彼は、何を思っていたのでしょう。写真一枚一枚に何を刻んでいたのでしょうか。
 
昭和50年から60年代の子供達といえば、ちょうど今は20台から30台でしょうか。だから忘却のかなたにあるようなノスタルジックとは別次元で、今も青山静男さんと少女達は無邪気に遊んでいるような気がしてなりません。
ルイス・キャロルは自分の死の間際に、撮りためた少女写真を焼いてしまったそうですが、青山静男さんは逆に残し続けました。死を受け入れながらも刻み続けました。
信頼の中から生まれた70%の笑顔達。その残り30%分の中でお互い恥らうような気持ちになります。時間の中で失われた「少女」の「いのち」を、彼自身の「いのち」を費やして詰め込んだ写真集。死を抱えつつ少女達のいのちの瞬間を切り取った青山さんの見た視線と、そのときそこに生きている、そして今も消えることのない少女達の瞳を見た気分になりました。なんだか幸せになると同時に、ちょっと切ない後味。開くたびにこの気持ちよみがえると思うと、ちょっといい買い物でした。
さすがにまとめ買いするには高かったけど orz

ISBN:4870316552:image ISBN:4870316560:image