たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

ぼくらはみんな「アニキ」になでてもらいたいんだ。

題名だけだとガチホモっぽいけど、釣りじゃないよ!
 
はて、実は先週電車の中で読んで、マジ泣きしたマンガがあります。
「泣いた」っていう薦め方は個人差があるので、なかなか難しいんですが、今回ばかりは泣いたと言わせてください。
その作品は、たくまる圭先生の「アニキ」
2003年から2007年まで、ビッグコミックオリジナル増刊号に連載されていた作品です。
両親がいなくなった少女ゆずが、工務店の叔父にあたる、若いが頑固でぶっきらぼうな青年のところに引き取られていく、というお話。
まあこれだけとってもかなり心温まる話の予感はひしひしと来るのですが、この話のすごいところはそこじゃない。
このマンガは、一生懸命やったことを笑われて、傷ついて泣いた人の心を抱きしめてくれるんです。
 

●ただ、泣くしかなかった日●

正直、主人公のゆずは、相当な悲惨な日々を送っていると思います。
両親がいないことは実は序の口で、とにかくやることなすことが不幸の連続。本人がどんくさいからとかではなく、一生懸命やってもやっても大人の世界や、子供達の無邪気な残酷さに押しつぶされ続けるのですよ。

悪意はなくても、傷はつく。
ゆずは幼いながら、そんな経験を重ねているため心はズタズタにされます。
心を込めて、がんばってやったことを笑われた時の恐怖感。
ああ、私はいらない子なんだ。
ああ、私は何をやっても迷惑をかけるんだ。
世の中を恨むより先に、自分の存在の価値を見失う。
 

ゆずは、あまりしゃべるのが得意ではありません。
また、どちらかというとネガティブです。物事を悪い方向にどうしても考えてしまいます。それも実際に読んでみると分かるのですが、後ろ向きにならざるをえないような出来事が重なっているんですもの。
傷つくけれど、言い返せずただ涙を流すのです。
 
本当に、心をこめて、一生懸命にやったことを笑われた日。
認めてくれると思っていたのに、受け入れられなかった日。
喜ぶ笑顔が見たくてがんばったのに、相手にもされなかった日。
そんな経験をした方は、結構多いのではないかと思います。特に幼い時のそのような経験は非常に心の奥底に残ります。
自分もそれを経験し、乗り越えてきたとは思うのですが、正直このマンガを読むとそれがあぶりだされて、とてつもなく困惑をします。ゆずの、言葉にならない「周囲への恐怖」にシンクロしてならないんです。
 
全体を見ると、確かにあまりにも残酷なくらい、悲惨すぎるのです。しかしこれ、ゆずの視点であることを考えると納得も出来ます。
自信がなく、常におびえている彼女ですから、ささいな言葉でも傷つくくらい敏感なのです。だから周囲の出来事一つ一つに悲しみを覚えても不思議ではありません。
傷つく→周りが怖くなる→さらに傷つく。

彼女は、ゆずは、人がすごく好きだからこそ、怖いのです。
 

●アニキは、いてくれた。●

ゆずの子供視点は胸が締め付けられるほど苦難に満ちていますが、その視線の先にはいつも、アニキがいるのです。
これこそが、この作品の最大の魅力だと思います。
アニキというのは、ゆずの叔父に当たる青年、厚貴のこと。まだおそらく20代前半でしょう。無愛想でぶっきらぼうで。言葉足らずで不器用で頑固。

彼は自分の信念を曲げません。ゆずがただベタベタ甘えるだけになるのも許しません。彼なりの流儀にあわせるかどうかを鋭く射抜いて見ます。
しかし「ゆるぎない人間」は、ゆずのようにいつも不安におびえている人にとってはそれはもう、恐ろしいほど頼りになるんです。
 
みんなが厚貴のことを「アニキ」と呼びます。人見知りの激しいゆずもアニキのために何かしたいと奔走します。
なぜ彼にそれだけの魅力があるの?

彼は、ただ自分を変えずに、側にいて見守ってくれるからです。
 

●「アニキのような人間になりたい」のではない。●

大人が読んでも子供が読んでも面白いマンガだと思いますが、自分は大人にすすめたいです。
子供は抱きしめてくれる大人がいます。受け止めてくれる大人がいます。しかし大人は受け止めてくれる相手がいません。あらゆる経験を経て、自分で立つように成長してきました。
だからこそ、誰かにただ受け止めてもらいたい日もあります。
マンガ「ハチミツとクローバー」では、それをローマイヤ先輩が体言していました。どんな人でも抱きしめてくれるたくましい腕と笑顔!
こちらの「アニキ」は、笑顔はあまりありませんが、同じようにどんな時でも必ず受け止めてくれます。一生懸命な相手を笑ったりしません。一生懸命のすべてを受け入れてくれます。
言葉の使い方はへたくそですが、人を包容する存在感は読者全員の心をも受け止めてくれるんです。
必死でやれよ。出来る限りのことをしろよ。やったら、俺が信じてやる。
 
本当は大人なら「子供達のためにアニキみたいになろうね」と言うべきなのかもしれません。
でも、このマンガを読むときくらい「アニキに認められたい、頑張った分ほめてもらいたい」と思っても、いいじゃない。
一生懸命やったことが笑われたり怒られたりした日は、「アニキ」を読んでほっとしても、いいじゃない。
 
 アニキ 2 (ビッグコミックス) アカシヤの星 3 (IKKI COMICS)
「アニキ」は二巻完結なのがもったいないけど、4年も連載していたのですね。できればたまに後日談が読みたくなるくらいなのですが、ゆずとアニキの関係はきちんと描かれているのでこれで終わりで正解なのでしょう。
今はアカシヤの星を読んでます。