たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

歯を食いしばって好きなものを見つめろ!高遠るい先生の歩む道と叫び声。

●異色作「ミカるんX」●

おお、ミカるんXが話題になってる!(アキバBlog)
 

ミカるんX 1
ミカるんX 1
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秋田書店
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自分が心から敬愛する高遠るい先生。時に褒め言葉として「異端児」とも呼ばれることもあるくらい、独自の理論展開でずっぱりと押し切る力を持ったマンガ家さんです。「バキ」板垣恵介先生イズムを完全に噛み砕いて血肉とし、駆け回る高遠先生。
板垣恵介先生が範馬勇次郎的な脅威を誇るとするならば、高遠るい先生はピクルのような動きを見せます。
中でも「ミカるんX」は「みんながそっちにいくならおれはこっちにいくぜ!」という突拍子もない作品。毎回「そっちいっちゃうの」的な展開がたまらないです。
高遠るい『ミカるんX』1巻(枳棘庵漫画文庫)
ミカるんX (高遠るい)(百合な日々)
巨大全裸美少女戦士が侵略者を討つ!「ミカるんX」第1巻出撃!(いけさんフロムFRNEO)
巨大全裸ヒロインvs宇宙侵略者!なカオスさがステキ - ミカるんX(1) (真・業魔殿書庫)
たかとお寝具店entrance
 
「そりゃないよー!」を考えること自体すごいのですが、高遠るい先生はただ単に奇をてらうトリックスターではありません。
CYNTHIA_THE_MISSION」でも被虐の美を入れながら、さらに思想の弾丸を6巻では鬼のように詰め込みました。「SCAPE-GOD」では世界の不安と個人の不安を入り混ぜてたたきつけました。
今回の「ミカるんX」も「全裸少女が巨大化して怪獣と戦う」というビックリ箱みたいな作品ですが、そこには確かにリアルな死があるし、個々の不安や激情などがしっかりと入っています。笑いながら驚くためにお化け屋敷に入ったら、すごい重いテーマがお化けに隠されていて愕然、という感じなのですよ。

ただのウケ狙いじゃあない。高遠るい先生の作品からは、ものすごく強烈な「こういうのを描く!」という熱気を感じるんです。
 

●好きなもん●

以前ある雑誌で、これからマンガを描く人に向けて高遠るい先生のこんなメッセージが掲載されていました。

右から「CYNTHIA_THE_MISSION」「ミカるんX」「カタナちゃん斬鬼傳」「SCAPE GOD」のキャラクター。高遠るい作品のキャラ勢ぞろいであります。
しかしみんな泣いています。泣いて叫んで訴えます。


好きなもんを好きなよーに描けば売れるとゆーよーな甘っちょろい世の中ではないが!!
だがしかし!!
最初の最初ぐらいは好きなもんを好きなよーに描け!!
そうして見極めるのだ 己の好きなもんを!!!
そうせなはじまらん!!!

見ている方も買う人も、すばらしい作品を見たくて買います。だからすばらしい作品は売れます。
しかし「売れる作品=作者が描きたい作品」とは限らない、と高遠キャラ達は訴えてきます。そう、泣きながら。
ここに並んだ4作品とも、いわゆる一般的なウケのラインと比較するならば、明らかに異端です。そして高遠るい先生はそれを選んで描き続けています。プロで一線の方です、その中でやはり妥協せざるを得ないところや、描きたくても描けなかったものもあったでしょう。
それを新人マンガ家のたまごさん達に隠さず叫びます。甘くないぞ。気楽じゃないぞ。
だけど、「好きなもん」は自分で探せよ、と。
 
「ミカるんX」は今、主人公達の中で大きな葛藤が生まれ始めています。「CYNTHIA_THE_MISSION」では暖め続けていたであろうネタが爆発し、主人公シンシアの生き方が大きく変わろうとしています。
それらは読む側にも有無を言わさぬパワーがあります。
結構むちゃくちゃな展開ではあるんです。でも高遠るい先生はそんな正論は受け付けない。読者が驚き楽しむものを突付きながら、自分の「好きなもん」にまっすぐ向かっています。

「自分の日常と、マンガ内世界。
 どちらの方が楽しいのが幸福なんだろう。」

チャンピオンRED5月号 高遠るいコメントより)

短いコメントですが、高遠るい先生はマンガの中の暴力を、キャラクター達の愚直なまでの戦いを、楽しんでいます。だからぼくらも楽しい。
プロの世界で「突拍子もないことをする」「自分が好きなもんを描く」のは、きっと非常に難しいことでしょう。
ファンとしては、作家さんがすげー楽しんでいるのは見たいです。それが多くの人に「常識的ではない」と言われても突き進むのが見たい。
しかし必要とされるのは必ずしもそれではない厳しさ。「キャノン先生トばしすぎ!」の作中で描かれていたように、完璧な傑作ではなく期限に提出される新作が求められているのもまた確か。
自分達も読者でしかないんですが、それでもその中で自分の「好きなもん」を描こうとするものに感じる部分はやはりあります。
だから高遠るい先生の訴えは胸に来ます。4人のキャラの涙は厳しさを走り抜けたゆえのものか、描きたくても描けなかったものがあるからなのか。
 
ScapeーGod (電撃コミックス)ミカるんX 1 (チャンピオンREDコミックス)CYNTHIA THE MISSION (6) (REX COMICS)CYNTHIA THE MISSION 7 (7) [REX COMICS]
今連載されている「ミカるんX」から何が飛び出すのか、どんな情熱が噴出すのか楽しみでならないですよ。もし今後全裸で内臓まみれの美少女が乱舞するのなら、それをドンとぶつけてくださいっ!エロとかグロだけじゃない、その熱いものを受け止めたいんだっ。
 
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