たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

僕はオタクだ、オタク文化に救われたんだ!「ひみchuの文子さま」

●僕は救われた、救われたんだ!●

もしかしたら、世界中の人が笑うかもしれない。
あるいは蔑んだ目で見るかもしれない。
自分でもこれがイヤラしくて、低俗で、ちょっと痛々しくて、人に自慢出来るものじゃないような気がしないでもない。
だけど…それでも。
僕は救われたんだ、そんな作品達に救われたんだ!
悪いかコノヤロウ!
 
……とは、大声では言わない、言えない。言っても仕方ないです。
学校で、会社で、家庭で、人に「これってオタクっぽいよねー」「だせー」と笑われた時、歯噛みしながら、そこでケンカを吹っかけるでもなく、じっとこらえ、ただ黙っている。
ただ心の中で「だが、僕はこれに感動したんだ」と叫ぶ、そんな瞬間があります。
そんな行き場のない思いを、笑いと微エロでコメディタッチで飾り付けながら受け止めてくれる作品が「ひみchuの文子さま」でした。
 

●好きなんだ、好きなんだよ!オタク文化が。●

まー、題名と表紙で思いっきり人間をフルイにかけるマンガです。「ひみchu」って書かれたらオタク経験無い人にはなかなか手が出しづらい。
しかし最初に言ってしまうと、引っかかった人はとことんがっちりはまるタイプの隠れ熱血マンガです。
ターゲット層はオタク経験者。オタク文化に触れたことがある人ならきっと楽しめる。そうでない人には「?」なマンガなのです。
自分は隠れオタク生活が長くて、かつ色々痛い思いとか苦しい思いとかを(自業自得的に)繰り返し、そして「僕はこれに泣いたんだよ、感動したんだよ!」という数多くの作品に出会えた人間なので、もう直球どストライクな作品でした。
ええそうです、見ての通り、出てくるキャラは女の子ばっかりで萌え属性もふんだん。萌え狙いで読んでもハズレはないですし、マンガのクオリティもものすごく高いです。さすが「マイティ・ハート」の作者、秋田書店風のターゲットを絞り込んだ魅せ方に相当慣れています。
 
ただ、このマンガ先程も書いたようにただ萌えキャラをエロっちく描くだけのマンガじゃない。むしろ萌えキャラは「受け入れやすくする」ための糖衣錠みたいなもので、本質はオタクの悲しみ怒り痛み、そして喜びの過剰なまでの詰め込みっぷりにあるんです。
 
この作品、最初の時点では超名門の学校で、低俗な文化を狩る学友会から、新入生の廉太郎が自分のオタク趣味を隠そうと奮闘するところから始まります。
にしても面白い言葉です、低俗って。
日常ではあんまり使う言葉じゃないです。よっぽどの潔癖症でない限り。
しかし自分の好きなものを「低俗」と言われて傷ついた経験があると、この言葉に敏感になることもあります。
「これはすごい作品なんだよ!」「これはこういう意図があって作られているんだよ!」と反論をついついしたくなる、そんな感情の逆鱗に触れる言葉です。
もっとも文化に対して「低俗かどうか」なんて線引きありません。*1
大人になって自分の信念や好みがはっきりすると「低俗で何が悪いの?」「あなたがそう思うならそれでいい」と毅然とした態度もとれるようになります。
まあどっちにしても「低俗」って言葉は、実際に使っちゃうと逆にちょっと恥ずかしい言葉と言う気が…。
 
で、この作品は露骨にそのへんの「オタクに向けられた悪感情」を増幅させて、大げさなほどに見せながら描きます。
アクメツ」の政治家役みたいな感じと思っていただけるといいかもしれません。一応ギャグマンガなので、そのへんかなりデフォルメして誇大に描いています。

元ネタになっているものは色々ありますが、もうちょっと漠然とした「オタクで経験した嫌な思い」をがっちり描き込んでいる感じです。特に2話は、見ていて嫌悪感を及ぼすほどの勢いで。
どっちが善とか悪とかじゃないです。どっちが正論でどっちが誤りとかじゃないです。
もっともっと、精神的な根っこの部分での、モヤモヤしたやり場の無い気持ちです。
 
どうしてもオタク経験をしていると、「笑われる」という経験に遭遇することが他より多くあります。
相手は悪気があるかないか分かりません。偶然のイタズラかもしれません。
しかしそういうのって結構引きずります。「まあ人は人だしね」と言ってしまえばそれまでのたいしたことじゃあないんですが、「好きなものを卑下される」という経験は下手すると心の傷になりかねません。
でも明確な事件があるわけじゃないし、それをどうこうすることもできません。スルーするのが一番です。
スルーし続けていれば全然気にならなくなりますが、でもモヤモヤした感情は残ります。
じゃあそれをどこにぶつける?
ここで受け止めてやるよ、さあ、カモン!この本はそうやって、行き場の無いモヤモヤや痛々しさを、笑い飛ばすことで抱擁していきます。

廉太郎はすごく普通の(でも絵はずば抜けてうまい)オタクです。
彼はところどころでピンチにあいまくります。オタク趣味であるが故に。
彼は逃げません。決して強くない、むしろ弱い。でも立ち向かうんです。
そして叫んでくれるんですよ!
ああそうさ、立派だとか高尚だとかそんなことは思いもしないけれども、僕はこれで救われたんだぞと。
僕は、これらの作品を愛しているんだぞと。

オタクにならなきゃ救われない人間だって居るんだよ!!
お前らなんかに何が判る!?
絶望から! 失望から! 挫折から!
救ってくれたのは作品だ!!
それでもゲームやマンガやアニメが人を殺すほどの毒を持つならッッ
それは傑作と呼ぶんだバカヤロー!!!

これが作者のネタなのか、心からの叫びかは分かりません。
だけど…これを読んで僕はすっきりしたよ!
叫んでくれてありがとう。
 

●魔眼が波動で断罪者●

後半、話は中二病展開にシフトします。

中二病を患ったままさっぱり治っておらず、やたらめんどくさい女の子二人が登場するんですが、いやはや、見ていて痛いと言うか、かゆい。
 
最近中二病モノってずいぶんマンガ・ラノベ・ゲーム等々で出ている気がしますが、流行というよりも「そういう世代が増えた」ってことかなあ?と思ったりします。
ようは、20代〜30代のオタクが増えたと言うか。
あるいは一定の「オタク土壌」が育った中でオタクになった、次世代オタクが増えたと言うか。
 
特に、上のコマを見ても判るように、これに出てくる「中二病」は、アニメ・マンガ・ゲームかぶれの場合をさします。
中二病」という語に明確な定義はないですが、「俺は特別」と思ってかっこつけちゃう人や、ヤンキー的な「悪いはカッコイイ」を患う人も含みます。が、今回はそういうのは無し。
具体的に言うと。
スレイヤーズ」のドラグスレイブの詠唱が全部出来て、それを日常で使っていた、とかそういう。
地面に手をつけて「土爪!」とか言っちゃったりするそういう。
そういう・・・ああ・・・(痛痒い
 
とはいえ中二病ネタが面白いのは、そういう痛いのがちょっと楽しいからです。
自虐的とも言える恥ずかし・苦しさなんですが、そういうのってちょっと、愛しいんですよね。
色々痛々しい経験をしてきて、人にはとても見せたくないわけですが、「でも楽しかったんだよなあ」という微妙なラインをこの作品はついてきます。
考えてみたら黒歴史なんて、現在進行形で作られている可能性だってあるわけです、オタク的には。
しかしそれらを分かった上で「楽しい」「面白い」「熱くなれる」。
心に火をつけた様々なオタク的要素を、この作品はしっかり盛り込んでいます。だから「アホだな!」と笑いながらもなんだか読み終わったあとに妙に心がほっこりするんです。
見た目は萌え萌え漫画。でもいい具合の「オタク癒し漫画」だと思います。
 
これだけ「熱いよ!」と書くと女の子の方がおろそかになっちゃいそうですが、出てくる女の子たちめちゃめちゃかわいいです。
特に現在は「オタク文化なんて!」と毛嫌いしつつ、過去に中二病罹患していた騎士ハジメ先輩がまあかわいいこと。

うふふ、分かる、分かるよ…!フヒヒ。
まあ人の事笑えないんですけどね。
あとはヒロイン?にあたるであろう文子様。色々裏事情がありそうな子ですが、詳しくは描かれていませんし、描かれない方が…いいかもしれない…。

かわいければいいんじゃないかな!
キュートなロリっ子ですが、彼女もまた熱い魂の持ち主(オタク的に)。
決して信念を曲げることなく、そして優しく力強い推進力を持った子です(オタク的に)。
 
こういうキャラがたくさん集まって、ワイワイガヤガヤと何もたいしたことをしないのがえらい心地いいです。
ものすごい何か起きているようで、実はなんにも起きていないという。
ちゃんとぬるま湯的な逃避場所にもなっているので、日常につかれた日には、寝る前に読んでひとしきりニヤリとしたあとに床に就くのがオススメな作品です。

かなり安心して読めるクオリティの漫画なので、秋田書店系の漫画が好きなら文句なしにオススメ。
「RED」や「いちご」は比較的色物作品が多いですが、この「文子さま」や「メイドいんジャパン」のような、ちょっと狂いつつも、オタク魂・エロ魂を燃え上がらせた熱血作品も載っているところが貴重だなあ。
みつどもえ」のひとはもそうですが、オタク趣味を涙ながらにカミングアウトする作品に滅法弱いんですよね…ギャグマンガなのに泣いちゃうじゃないかエイチクショイ。
 

*1:自ら低俗を売りにする文化圏は除く。