たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

「怪獣のテイル」の演出が、とってもエキセントリックでF4U先生的です。

最初びっくりしましたですよ。
あの、あの、センセーショナルでバイオレンスでアメイジングな作風のF4U先生が、ハートフルなコメディを描かれるだなんて!
エロ漫画スキーとしてはこういうイメージがものすごく強かったので。
ヘドバンしながらエロ漫画!  F4U『今夜のシコルスキー』

人を選ぶタイプの描写をされる作家さんですが、ツボにはいればもうジャンキー状態になる、力技でねじ伏せてくるすごい作家さんでした。
とにかく言葉のセンス一つひとつ、感情の描写一つひとつがダイナミックなんてもんじゃない、宮沢賢治しか使えないオノマトペがあるように、F4U先生にしか描けないオノマトペが大量に存在します。書き文字がすごいんです。
で、「文化部をいくつか」という作品も以前連載されていました。エロではないです。
個人的に死ぬほど好きな作品だったのですが1巻で終わり。自虐ギャグを入れながらも、文化部のエロティシズムをダイナミックに、それこそ「どうでもいいこと」を「どうでもよくなく描く」テクニックを駆使して、日常を破壊する奇妙奇天烈な、他に類の無い怪作にしあがっています。すごいおすすめ……したいけど人は選ぶと思うです。
文化部の女の子に対して、言葉にできない劣情を抱いた男子なら買っちゃえ。
 
そんなF4U先生の新作が「怪獣のテイル」。
表紙でぱっと買ったんですが、最初F4U先生だと気づきませんでした。
ハートフルだ!
なんだこれは、僕の知っているF4U先生じゃない別のF4U先生なのか!? 四人いるのか!?
 
読み終わって確信しました。
紛う方無き、F4U先生でした。
これで多い日も安心。
 

●突然空からやってきた●

いわゆる「何もない僕のところに、日常を破壊する少女がやってきた」という落ち物系の作品ではありますが、ヒロインが怪獣だというのがミソでしょうか。
ようは「少女が落ちてくる」というのは男の子の願望であるというよりも、「世界が変わったらいいのに」「自分が一歩踏み出したいのに」という悶々を後押しするスイッチアイテム。昔はこれが伝説の剣だったりしたのが、女の子になっただけ。
逆に言えば、「空から怪獣が降ってくる」ことで日常が変わるというのは、女の子が降ってくるよりも日本人の血に染み付いている古き良き伝統のような気がします。

そのパターンを、いきなり最初の数ページでF4U流に切り取っているから面白い、面白いぞ!
それこそ落ち物パターンは「どのように魅せるか」が最大の味なわけですが、F4U先生にはたくさんの武器があります。
自分が考えているF4U先生の武器。

・有無を言わさぬ言葉まわし
・普通を異常に、異常を普通に変える独特のテンポ
・ブーストがかかった時の画面のオーバードライブ感
・流動するような女の子のシルエット

などなど。ここまで一度見たら一生忘れない画風の作家さんも珍しいと思います。
怪獣のテイル 第一話
どのような始まりかは、実際に見てもらうのが一番かと思います。かなりクセのあるOPです。
でもまあ、まだ抑えていますよね。
普通に「女の子が空から降ってきた!しかも怪獣!」
あれ?普通じゃないね?
 
F4U先生の作品は、「どうでもいいことを思い切り大げさに描いたり」「どうでもよくないことをどうでもよく描いたり」と価値観を狂わせるテクニックを持っています。
そしてすごいことは、限界を突破してものすごいこととして描くオーバードライブのスイッチも持っています。エロ漫画ではこのへんが発揮されていました。
2話、3話と展開されてくにつれて、そのF4U先生にしか描けない作品が紡がれていくのです。
 

●「○○である!!!」「○○なのだから!!!」●

ニヤッとしてしまうのがこういうコマ。

「恐怖である!!!」
うおぁー! F4U先生が帰ってきたぞーーー!
この有無をいわさずに叩きつけてくるような言葉のサブミッション、これぞまさしくF4U先生。
 
ほんと、F4U先生の言葉の使い方は特別ですよ。どうやったら真似できるのかさっぱりわからないオンリーワン。
たとえばこんなシーン。

「跳躍力と尻尾の遠心力が生んだ打撃力!! 振りかかる火の粉は払わねばなるまい!!」
かっこいい! けど冷静に考えると意味がわからない!
だけど有無は言わさず一撃でみぞおち辺りにえぐり込んでくる言葉と絵の雪崩。
このスピード感の緩急こそが、F4U流!
 
解説的か、といわれるとそれもちょっと違うんですよ。
実際もちろん解説の必要な作品(設定などがなかなか複雑)ではあるんですが、この作品で使われる言葉はもう作者の、そして世界のパッションなんです
そういう激しい言葉と絵で描くしかないんです!!

突っ込みどころは多いんですが、突っ込ませない。一万度なんだよ!一万度すげえよ!
瞬間的に関節技を決められて「うおっ」という感想しか出ないような不思議な感覚です。
 
作品的には一人称ではありません。どちらかというと三人称視点です。
この三人称目に当たる人物の語り口がものっすごく激しく熱く、かっこいい。
いわば、講談師のテクニックに近いんですよ。起きている出来事を激しく熱く描写する。手描きのダイナミックな効果音は、いわば拍子木や張り扇の代わり。

F4U魂が見いだせるシーンの一つ。
「○○である!!!」という独特の表現が出てくる度に、わくわくします。嬉しくなります。もっと激しく語って!とクセになります。
退屈な世界を破壊してくれるのは、怪獣ではなくてF4U先生の語り口なのかもしれません。
 

●なぜ少女なのか?●

この作品「少女型の怪獣が降ってくる」という、ものすごくご都合主義的な展開から始まりますが、面白いのは少女型であることに大きな意味があるという点でしょう。
少女型であることが秘めるこの怪獣の謎が、今後の重要なテーマにかかわって……くるんじゃないかな。いかんせんF4U先生は紋切り型な展開で終わらせると思えないので、何がどうなるやらさっぱり予想がつきません。

「文化部をいくつか」を読んでいた人ならニヤっとする上のコマ。
まあそれは余談としても、この怪獣の少女、テイルはものすごくかわいいです。かわいいが故に不自然です。
不自然なんですが、彼女にとってみたら逆に「こちらの日常」こそが不自然なわけです。
そういう意味では、「よつばと!」の描く「意外と世の中面白い!」の感覚に似ていますね。
少女型であるのには理由がありますが、同時に少女型であるが故に、この漫画の独自のテンポ、独特の「面白み」が湧いてきます。
 
テンションはかなりハイな作品ですが、先程も書いたように、とんでもないことがさらっと流されたり、どうでもいいことがものすごくピックアップされたりと価値観がぐるんぐるんに回転していきます、必ずしもギャグそのものがハイとは限りません。
このハイでありながらローテンションを保っているバランス感もF4U先生独特。
すごいけだるいテンションでバッターボックスに立ったら、豪速球をホームランで打ち返しちゃってあれまーみたいな。

歌った!!!
いや、「!」三ついらないんですけれども! でも「!!!」だからこそF4U先生。
落下してきた怪獣少女テイルを中心に、上で歌っている怪獣マニア少女カオリさん(メガネ描写がすばらしい!)、主人公を好きな銭湯の娘かなめ、怪獣を愛する大金持ち金持円など、様々なヒロインが世界を変えるかのようにぐるぐるまわりはじめます。
 
主人公にしてみれば「自分はいつかなにかをやる人間だから、世界が変わる日がたぶん来るよ」程度の妄想をいだいているだけでした。そのささやかな憧れが、「怪獣」というものに対する憧れへと形を変えていました。
かなめ以外のキャラはみんな怪獣が大好きです。
そう、怪獣は日常をぶっ壊してくれる、知らない世界からの渡来者です。
理屈なんていい、怪獣がやってきて変えてくれたらいいのに。
日本人の中に眠る「怪獣への憧れ」の血が、形を変えてミニマムに開花しはじめました。
物語はちょっとずつ、ほんのちょっとずつ姿をチラ見せしている段階。おそらく何か起きるでしょう。
純粋に「世界が変わるアクション少年漫画」としてもしっかりした出来になっているので、十分楽しめると思います。
 
でもね。

やっぱりエロ漫画好きとしてはF4U先生の独特な描写が見られるのが嬉しいわけで!
キャラの語り口調、講談のようなト書き、白と黒と独自の線で描かれるしなやかな人間のライン、突然のアップによるテンションの上がり方。もう楽しくて仕方ない。
かなりクセになるテンションなので、ツボに入った人は是非とも「文化部をいくつか」「今夜のシコルスキー」とあわせて買うのをオススメ。
「もっと、もっとF4U先生を!」と渇望してしまいます。
自分もこんな語り口調が出来る人間になりたい! けどなれない!
 

 
□□Naitou2□□逆パース親衛隊
興味のある方……というかF4Uジャンキーになった方は、同人誌の方を見ることを是非ともおすすめしたい。というかたぶんうちのサイト読んでいる方なら逆に「同人時代から大好きでした」という人のほうが圧倒的におおそうですね。
がんばれわたしの卵子ぃ。