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「これは恋のはなし」の表紙の変化がすごい

歳の差20歳、32歳男性と10歳少女の恋の物語「これは恋のはなし」の5巻が出ました。
っつっても、男性側は恋愛感情なし、少女側は恋愛感情を抱いている、という状態な上に、関係が極めて複雑。特に少女側の家族関係、なぜ男性の家に遊びに来ているのかがヘヴィな作品です。
全くもって「これは恋のはなし」なのかどうかまだわからない状態なんですが、5巻はちょうどその転換点になる巻でした。
話で書くと非常に長くなるのですが、この二人の関係を端的に理解できるものがあります。
それは、このマンガの表紙。
二人の距離感と関係を一枚絵でえがいているんですが、これがすっごい簡潔でわかりやすい上に変化まで伝わるいいものなのです。
 
まず一巻。

完全に子どもと大人ですね。特に真一(32)は、少女に目もくれていません。好きとか嫌いじゃなく、興味が無い。
一方遥(10)は真一にちょっと心惹かれつつも、現時点ではまだ何とも言えない状態。だから目をあわせていません。
なんといっても大きいのは目線の高さの違い。真一と遥の目線は別の方向を向いていますし、圧倒的に真一が上。身長的に、なんですが、これが2巻になると変わります。
 目線の方向は相変わらずバラバラですが、真一の高さが変わったことで、ちょっと距離が縮まりました。
ちょうどこの巻で、真一の中で色々な変化が起きはじめ、恋ではないものの遥に一片の興味を持ち始めています。小さいのでわかりづらいですが、実は真一、遥を見ています。真一の過去の心の傷が、遥の心の傷にシンクロしはじめ、意識しているのがこの中に閉じ込められています。
遥も表情を殺していた1巻から比べ、2巻では笑顔に。真一といる時は自分の思いを表明できるようになった証です。
 一気に明るさの増す3巻。
決定的な変化として、遥も真一も見ている方向が同じになりました。
そして、二人が座っていることで目線の高さが限りなく近くなります。ここまできたら「ほぼ同じ高さ」と言っても差し支えないかもしれません。子供と大人としては相当に近い。
遥は1巻ではオドオド、2巻では笑みをこぼす、と変化し、3巻では普通の笑顔になっています。
ちょうど3巻で遥のいじめ問題を乗り越え、きちんとした同年代の友達ができた巻。彼女が強さを身につけ、はっきりとした意思表明をみんなの前でできるようになっています。
「もし真一さんの迷惑になるようなことをする人がいたら、誰であろうと絶対許さない。真一さんのことは、私が守るから」
この作品の鍵になるシーンでもあります。
真一も、ひねくれた性格の裏にある本当の優しさが滲み出し、「まるくなった」巻です。
 そして、なんと4巻では視点の高さが逆転します。
遥が上。真一が下。これはびっくり。
真一はこの巻で、自分が幼い時から知っていた家族同然の女性を突き放す決意をし、心に傷を負います。
そんなのはもう覚悟していたことでしたが、張り詰めていたものがあって、ふとしたはずみで遥の前で涙を流してしまいます。
遥はそんな、20も年上の真一を受け止めます、彼女のレベルなりに。でも困ったときにそばにいる、っていうのはなによりもでかいんですよね。だから4巻の表紙で、真一は本来の姿とも言える居眠りの安堵を見せて、遥はそれを眺めるんです。
4巻は遥的には「デート」にあたるイベント(実際はデートではないんですが)も起きて、非常に幸せな巻。でした。
 
ここまでで、どんどん表紙の二人の視点の距離が近づいているのがわかると思います。
逆転までするとは思いませんでしたが……。
だからこそ、5巻の表紙は驚かされるものでした。これ単体で見るとそれほどでもないかもしれませんが、今まで近づいてきていたのに急激に乖離したというのはびっくりですよ。
5巻は決定的に心がすれ違う、非常に厄介な巻です。4巻のデートは一瞬の幸せだったんです。
まず表紙を見て分かるように、遥が真一からわざと目を逸らしています。真一は遥を見るでもなく、目をそらすでもなく、目のやり場に困った表情をしています。
実は4と5巻の間で、入院している遥の母親の問題が勃発。それが1巻から続く遥と真一の関係、心の傷の部分に直結しているのも明かされる非常に重要な巻になっています。
ここで起きる遥をめぐる事件は、子供目線や大人目線というのを軽く飛び越えるほどに、重たい大問題です。第三者が入らないわけにはいかないほどの、放置できない問題です。
今までの真一であれば、そんなことは知ったことか、で突き放したかもしれませんが、今はそうではないです。4巻でも描かれたように、遥がいることで安堵している自分も知っていますし、遥を守らなければいけないというのも強く感じています。
そこで彼が選択したのは「遥の保護者になる」という結論。
これものすごいことだと思うんですが、でもそうだよね。ここまで足を踏み入れて、情がわいたら選ぶのは「保護者」だよね。「頑張って自立できるように手助けしてあげる」だよね。まあそうだよ。
それ自体は非常に素晴らしいことですし、真一ならずとも大人の男性なら最善の選択だと理解できるはず、なんですが、言うまでもなく遥は真一を「好き」なわけで。
22歳離れていると父と子みたいな距離感になるのは、大人側としては当然なわけですが、子供側は納得はいかない。だって真剣に好きなんだもの。
遥は、この表紙のように目をそらします。保護者になってほしいんじゃない、私の望んでいるのは……。
言わないですよ? 「恋人になってほしいんです」とかそういうことは。言えるわけがない。
けれども保護者になってほしいわけじゃないんですよ。もっとこう……恋愛とかの部分を超越して「そばにいてほしい」ただそれだけなんですよ、遥には。実際真一もそうだったはずなのに。なのに。
 
事件的には2巻や5巻冒頭の、遥の両親問題のほうが重たいです。
でもこれは、「恋のはなし」。誰がなんと言おうと、遥の恋の物語。
真一だってわかっているでしょうが、……これ読んでいてしんどいとこなんですが遥に対してのベストな行動って、保護者になることなんですよ。そこは覆せないんですよ。でもそれじゃ遥の欲しているベストにならない。
かといってじゃああっさりと「遥の恋人になります」なんてなるわけもない。現時点で真一は遥を大切な存在だと思ってはいても、いずれ自立して離れていく、という確信を抱いています。今まで他の人達も、彼から離れていき、一人だと思っていたからなおのこと。
「いずれ離れていく」「ずっと一緒にいたい」
すれ違いもするわけです。
 
「ベスト」は今の状態でしょう。社会的には。
しかし「求めているもの」はこれじゃないんです。
ここがターニングポイントになって、「これは恋のはなし」と言えるシーンに突入しました。
まあ、恋って言っても何が恋かなんてわからないからなあ。
 
しっかし、自分も重度のロリコンではありますが、こんな自体に遭遇したら……多分真一と同じで保護者になるだろうなあ。たとえ少女側が恋をしてくれているとしても「成長したら離れていくからね」とわきまえていますし。
そこを引っ掻き回して、遥の恋心を後押しする担当編集で友人の大垣が、大きな鍵になりそうです。
大垣は真一のニヒルなところ、実は情熱家なところをよく知っていて、それを引き出して小説に書くようしむける策士。今回の件かなり行き詰まっていると思いますが、こじあけるとしたらまあ、大垣でしょうね。面白いキャラです。
でもなあ……真一がじゃあ遥に「恋に年齢は関係ない!」なんて言うの? うーん……正座して6巻を待ちますよ。待つよ。雑誌で読んじゃいそうですが。
いやはや、どんな距離感のイラストになるのか。
6巻の表紙を見るのが一番怖いです。
 

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昨日の引き続き、少女というものを非常に繊細に描いた作品だと思います。
友人の詩子が非常に生々しい「女」むき出しのキャラであること、ヒロインの遥が抑圧的で押さえ込んでいるけれども実は情熱の激しい子であることが、まだ女性ではない、でも子供でもない人間としてうまく機能しています。
それを「なんだかわかんねえよ」と上から見ている、でも実は振り回されている32歳男性視点。
ほんとわかんないよなあ。どうすりゃいいんだかなあ。それが少女の魅力なんだよなあ。もうもうもう。
 
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4巻発売時の感想は、メガストアとプレイボーイに書いてます。