たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

住み慣れた街を捨て少年とネコが行く。筋肉少女帯「月光蟲」前編


もうね、見た目がすごいですよ。今までも奇抜なジャケットが多かったのですが、おそらくこれが全アルバムの中で最もビックリなジャケットではないかと思います。

顔はめのところが月の満ち欠けになっており、股間が顔はめの位置になっているというデザインの裏表紙。まさに「筋肉」「少女」であります。ジャケットデザインは沼田元氣さん。
筋少ファンの間でもかなりの高い評価を得ているアルバムです。
実際、「サーカス団パノラマ島へ帰る」からの音の進歩が目覚しいです。一つは全体的にスピード感と猟奇的ムードあふれる曲が増えたこと。歌詞の方向性がかなりしっかりしていて、「月の裏のクレーター」というテーマで統一されています。
二つ目は橘高文彦によるメタルサウンドの空気を大幅に取り入れたこと、でしょうか。作曲はオーケンですが、ギターの奏法がかなりメタルになっています。橘高作曲の「イワンのばか」が一番好き!という人も多いみたいですね。
そして、オーケンの語りや歌い方のたどたどしさが完全に消え、エンターティナーとして、表現者として大幅な成長を遂げているのも感じられます。古いファンは「それが寂しい」という意見もあるようですが、聞かせる曲としては一歩も二歩も進化しました。
あと、サーカス団までは廃盤ですが、ここから先は今でも買えるってのが一番いいですネ。だからオススメしやすいです。
とにかく、すべての曲がCDシングルにできるような完成度の高さを誇っていると思います。それまでも筋少が好きだった自分も、完全にこのアルバムでコロリといった、思い出のアルバムであります。
 
一曲目の「風車男ルリヲ」はイントロで1驚き、サビで2驚き。買って初めて聞いて、キモを冷やした人も多いのではないでしょうか。びびるよねえコレ。

最初から「月の裏のクレーター」に人は行くのではないか、という「見えないものの存在」をほのめかす歌詞。ルリヲというのが何を指すのか、なぜ風車を回すのかは聞く人にゆだねられるところだと思います。
が、そこから二曲目「少年、グリグリメガネを拾う」のつなぎは神がかっています。ここもギターがいいんだ!
この「グリグリメガネ」で何かの内部が見えてしまう、というのは多くの人に衝撃を与え、後の色々なサブカルチャーに影響を与える歌詞でした。今聞いても非常に新鮮で深い歌詞です。

見えるよ 見えるよ あの娘の中が見えるよ
ひしめきあってる そいつは無数の目玉さ
その目玉が 涙に濡れ 君をぎょろりといっせいに見た
何か嫌なものを見ても それは人生の修行さ。渇!

その後もネコ、老人、サラリーマン、姉さんと色々なものの中身を見ます。ネコの中身はアルバム「断罪!断罪!また断罪!!」の「ネコのおなかはバラでいっぱい」のテーマに連なっていきます。
「本を捨て街へ出て いろんな物を見て歩こう」は寺山修司「書を捨てよ町へ出よう」の影響でしょうネ。
少年が拾ったグリグリメガネというのが何をさすのかも考えるだけで面白いのですが、オーケンが大幅に色々な視野を広めている時期だったことも関係しているのかもしれません。裏側、内部。見てもよいものなのか、見るべきではない物なのか。修行とは言っていますが、どう考えても後者なんですよね、描き方としては。
というテーマはオーケンがよく使うのですが、夜の闇の中にぼうっと浮かび上がるそれは心を燃え上がらせますよネ。それの裏側や内部を覗く、という行為は人間の感情の裏側に回りこみ、見えない部分を見てしまう行為なのかもしれません。ましてやクレーターです。心のくぼみ、かもしれません。
自分と照らして考えると…あなたはグリグリメガネで何を見ますか?
 
3曲目「デコイとクレーター」は続けて、「君」が月の裏のクレーターへと旅立ちます。先ほども書いたように、月の裏のクレーターは「あるのは理解していても目では決して認知できないもの」。そこに行った「君」は、確かに存在していて、しかし認知されない特殊なところへと逃避していきます。デコイとは狩りや戦争で使う、模型のおとりのこと。おとりになった少女はあいまいな場所へ集められ始めます。これは後半の曲にもからんできますね。
 
4曲目「サボテンとバントライン」はシングル曲。久光製薬、ビンダスローションCMソングですが、全然中身は関係ないです。
このPVがめちゃめちゃいいのですよ!ビデオ三年殺しに収録されているので、機会があればゼヒ。映像を作ったのは「アイコ16歳」「すもももももも浜崎あゆみが出てたヤツ)」などの今関あきよし監督という、少女映画の鬼才で、「少年」と歌詞にあるのにボーイッシュな美少女を起用し、非常に少女性の強い名PVに仕上げました。またこの子がかわいいんだ…。ちなみにその監督、援助交際が発覚してお捕まりになって「本物」だったことも判明。でもいいPVですよマジで。
曲はストーリー仕立てで語られていきます。映画とサボテンとネコが大好きな少年が世界を滅ぼそうとするのですが、その映画館で「真夜中のカウボーイ」を見ていて破滅していく物語。余談ですが、アルバム「対自核」では「イージーライダー」に変更されています。
曲が少しずつ盛り上がっていき、最後に最高潮を向かえていく高揚感は見事。サボテンとバントラインと僕が遠くへ荒野を抜けて歩いていくのです。彼の青春の鬱憤が映画のスクリーンを通してはるかかなたに行く、という曲の展開はまさに圧巻。そしてPVはそれを再現していて、筋少メンバーがそれを見ているという見事さ。本当に名曲です。
 
次回は「月光蟲」後編。と、引き続き「月の裏のクレーター」の話。
 
special thanks ゆすらさん(きなこ餅コミック)
 
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ちょっとずつ追加してます。
「筋少のライブにいったまま、帰ってこなかった…」筋肉少女帯「仏陀L」
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そしてコウモリは黙して語ることがなかったのであった。筋肉少女帯「サーカス団、パノラマ島へ帰る」

月光蟲

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三年殺し [VHS]

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