たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

マンガの異類恋愛譚と男の子の成長を「鬼切様の箱入娘」から考える。

唐突ですが、私少女の足が大好きです。
だから少女がはだしで駆け回り、えらそうにふんぞりかえっていたり踏みつけたり足をなめさせたりするマンガを見るとドキドキします。そりゃもう、キーボードを壊すくらいの勢いで。
ええ、分かっています、だから生暖かい目で流してください。好きなものは好きだからしょうがないです。です。
 
はて、裸足少女がえらそうにしているマンガ、となると、これが一気に人間じゃない場合が多くなります。有名どころとしては「ネギま!」のエヴァの足をなめろ、でしょうか。あと「怪物王女」のシャーウッドは下僕に血を飲ませるときに足の指からなめさせるという、あまりにも見事な描写で足好きたちを狂喜させました。つまり自分。
また、裸足といえば思い出すのは、「吸血姫美夕」。
吸血姫美夕 1 (秋田文庫 43-1)
自分の裸足属性は、この作品で植えつけられたと言っても過言ではありません。
 
これらに出てくる少女は人間ではありません。無論ほかにもはだしの出てくるマンガはいっぱいあるのですが、「裸足カリスマチック少女=人外」という構図は興味深いところです。
そのほか、「かんなぎ」や「ダンスインザヴァンパイアバンド」「月詠」なども人間ではありません。神に近かったり、吸血鬼であったり、ケモノであったりします。
それらの少女を描く際に重要になるのが、男子の位置。大きく分けて二つに分かれます。

1、少女と、従者としての男子。
2、少女と対等な位置にいる男子

従者としての話や吸血鬼譚についてはまた話がでかいので今回はおいておきます。また、男子に服従する少女、というのもありそうですが、意外とあまりみかけません。むしろ男子側が人外の場合はそのパターンはよく見られるようです。
今回は異類のなにかである「少女」と、それとやりとりをする男子像について、異類との恋愛譚として、有楽彰展先生の「鬼切様の箱入娘」を例に書いてみます。
先に言っておきます。多分「少女の裸足はすばらしい」という賛美で終わると思いますこのエントリ。
 

●和装、裸足で駆け回る少女の美学●


おおまかなストーリーの根幹になるのは、鬼の子である千沙耶(ちさや)の封印を少年が解いてしまい、現世に復活する、というものです。
封印を解かれたモノノケ、というモチーフは昔話から多くあるもので、そのキャラクターがいかに魅力的であるかが物語そのものの面白さを左右していきます。
だってね、封印を解かれるほどの過去を背負い、尋常ならざる力を持ち、物語内を縦横無尽にかけまわるんですよ。そりゃドキドキしないわけにはいきません。そしてそれが傍若無人ながらも人間味があるとしたら!この手の話で代表的なものとしては「うしおととら」のとらがあげられるかもしれません。とらかわいいですよね、凶暴なところがあるからこそ。
 
はて、封印された少女の形をした何か、というのはその中でもまた多く用いられるモチーフです。やはりここで魅力がひときわ大きくピックアップされるわけですが、この作品の中でどのあたりが千沙耶というキャラの輝く部分かをあげてみます。

・見た目はどこにでもいそうな(かつてどこにでもいた)童であること。
・尋常ならざる力を悪用すれば脅威になりうること。
・それを、純真さと絆ゆえに暴利として使わないこと。
・誰よりもえらそうな態度をはなっていること。
・裸足。

やはり封印を解かれて出てくる少女は、「少女性の強い何か」でなければいけないのです。人間の少女を超越し、少女の少女らしい部分の濃縮還元ジュースのような記号性の結晶であるゆえに、強烈な光を放つ存在になります。
この点、「えらそう」というのは大きなポイント。少女期特有の不安定さと尊大さをデフォルメした性格が物語で描かれたとき、少女性を持ったオブジェが誕生します。

そして裸足であることは、それを加速させます。
裸足というのは見せるためにはマンガの場合、構図的に下から上に見上げるものが多くなりやすいんですよ。あるいは全身像いれるとか、えらそうな座り方をするとか。
この視点の位置関係、実は読者側と少女の距離感をあらわしている気がするのです。「メカビ」でも書かせていただいたのですが、裸足というエロティックでささやかな露出によって視点が「少女らしさ」に向く、という上からの読者目線を生みます。同時にそれはいくら手を伸ばしても届かないんだ、という特別な存在としての「少女」と読者の上下関係を生みます。
自由奔放に駆け回る、少女のようで少女ではないもの。それは裸足の描写を通じてどこまでも神聖化されていくのかもしれません。このへんはまだまだ話しつくせないので別記。百合脚とか。
 

●奪われるものとしての、人ならざる少女像●

はて、異類婚の昔話は、悲恋が非常に多いです。あとは、子孫が残って「実は○○がその子孫なのだ」というもの。
参考・異類婚姻譚(wikipedia)
女性側が人間ではない、というもので思い出しやすいのは、やっぱり「夕鶴」。
パンドラの箱」同様、「見るな!」と言われると見たくなる。そんな人間の「見るなのタブー」を犯すことで結ばれなくなる、という切ない悲恋はやはり人外のなにかと人間男子の間でよくある物語です。
とはいえ、確かに物語的には納得がいきますが、実際それがそばであったらどうだろう?本当に愛していた女性が実は鶴だった、でも人間の姿で共に暮らせる、っていうんなら結婚しちゃえよ、とか思うんですが、やはり時代がそれを許さなかったのでしょうか。
同時に、人間とモノノケの関係は深刻で、共存する話も少数ありますが、「人間側が奪い去る物」という物語も多くあります。明らかにガチで対決すれば強いのはモノノケ側なんですが、なんだかんだで妖怪たちの居場所を奪うのは人間。教訓なのか、皮肉なのか。

この千沙耶という少女、極めて強いです。攻撃力的にも、精神攻撃面でも。
しかし、彼女は心に深い傷を負っています。それは、母親のこと、人間との関係のこと、そして自分の居場所のこと。
このへんは詳しいことは読んでいただいた方がいいと思いますが、居場所を追われ、人間に倒されていく、そんなモノノケたちの悲哀というものがほんのりと存在します。
実際にはその力を使えば勝っている側なのに、常に人間に負けてしまうこの構造、ある意味人間への警鐘であると同時に、そこにある純粋な気持ちへの敬意でもあるのかもしれません。
 

●そして今、少年は男になり、少女たるものを救う●

異類婚と男女の性
異類婚譚の分析が書かれていて面白いので参考に。さまざまな角度から書かれていますが、人間ならざるものの心が、存在が救われていくためには、人間の異性の力が必要になる、という点が興味深いです。
先ほども書いたように、人間ではないものは追い詰められ苦悩する場合が多いのですが、それに手を差し伸べるのは異性の人間です。
アニメ・マンガだと特にそれが顕著で、人間ではない少女(動物・モノノケ・幽霊・ロボット等)が少年によって少しずつ救われていく物語が多いです。
それはハッピーエンドに向かうための布石でもあるのですが、なんといっても「少女のようなもの」を「少女」として救うことが、少年という幼い性の状態から、大人になる成長を意味しているからなわけですよ。
 
この主人公の綾史少年。非常に幼いです。

実際はメガネ委員長にはラブされているものの、他の少女のは半分以上妄想より。ですが、キュートな子に囲まれたらさあ。クールでいたり、「そんなのだめだってばあ!」なんてこと言うより、「ハァハァ」するほうが現実ってもんじゃないですか。ねえ。するって。とあるシーンで、お風呂で引き腰ながらも、視線があわない限りは凝視しちゃったりする彼に、心の底から共感。目なんてそらせないですって。
彼は弱いし、へにゃへにゃだし、ベタ惚れしているお姉さんの前で無駄なかっこうをつけちゃう、いかにも子供じみた小学生なのですが、やはりそこはそれ。少女のような存在である千沙耶のために、ただまっすぐに進むんです。

まだこの二人の間に恋愛の感情はないけれど。
確かに彼女を救うために、綾史少年は大人への一歩を踏み出します。
もし現代の異類恋愛譚が、これらのマンガ・アニメ文化に生かされていくとするならば。悲恋もいいけれど、これからは「少女」としての存在そのものを愛し、そのために戦う少年たちの姿こそが、共感とカタルシスを生んでいくのではないかと思うんです。
「鬼切様の箱入娘」では、他の少女たちも登場しつつ、ハーレムではない形で少年が一歩ずつ不器用に成長する様を描いています。
時にはぶかっこう。時には千沙耶に振り回される。でも根本のところで、彼女のことを必死に支えている少年の姿があることそのものが、彼の成長の証でもあるのだと思います。
歴史を、種族を超越したボーイミーツガール。少女たるものに手を差し伸べる原動力は、幼いむき出しの感情だけではなく、一歩踏み出そうとする少年の行動なんですよ。服従かもしれないし、救いの手かもしれないけれど、どちらも「異性の人間が助力する」という点では昔ながらの人間の心に眠る大きなテーマかもしれません。
 

●少女性至上主義●

成長物語としての異類譚としてみるもの面白いのですが、やっぱり「少女は特別なんだぜ」という視点は欠かせないところ。

和服で裸足でかけまわり、無邪気に(本当に邪気なしに)その力の無駄遣いをする。これこそ少女性の強さの証。画策だてるのではなく、感情が不安定で横暴だからこその少女の魅力でありますよ。
もろくて、幼くて、純朴な少女の姿。やはりそれは裸足を足元から見上げることでこちらの感情が表現されます。
気高き少女性は、大人の男女が手に入れられない特別な存在。裸足はそのシンボルなのです。ああ、手を伸ばしても届かない少女の素足。だから愛でよう、少女の裸足。

 
鬼切様の箱入娘 1 (ガンガンコミックス) 東京アンダーグラウンド(14) (ガンガンコミックス)
ここまで裸足えがかれちゃあねえ。そりゃ買いますて。有楽先生の中の少女像が非常によく心に届く一作です。
一つつらいのは、これが不定期連載で、1年でやっと一冊目が出たと言うこと。おしい!月連載してください!
 
〜関連リンク〜
異類婚姻譚が昔から好きで、皆さんのおすすめを教えてください。
ロボット系を入れたら…と思ったけど、結婚までは珍しいかな?恋愛はいっぱいありそうです。